[2021年3月26日]
今回はちょっとした【漢字】の話です。漢字は中国語では「漢語」と呼ぶそうです。何故『漢』の
文字を用いているのか?は諸説ある様です。漢とは漢民族や前漢・後漢などに関連するのは
想像に難くありませんが、漢字の発生に比して、漢民族や前漢の形成は時代が遅れる様です。
インドに起源を持つ十進記数法の数字をArabic numerals:アラビア数字と呼ぶ例がある事からも、
発生と拡散と呼称は必ずしも一致するものとは限らないのかもしれません。
象形・指事・形声・会意・転注・仮借…を六書(リクショ)と言い、漢字を運用と造字から分類したものですが、
【意味】と【音】の両方を表現するのは漢字の特性の一つです。英語などのalphabetはその名の通り
α/β(アルファ/ベータ)と言う音からの呼称だと言われ、【音】を示す表音文字、或いは音素文字です。
英語などのalphabetに対して、意味と音の双方を示す点から漢字は表語文字とも言われます。
意味と音を表す記号なら、記号としての機能を備えていなければなりません。その点、多くの漢字は
意味と音のパーツで構成されている様です。但し、継続された歴史の長さは例外の多さにも通じます。
仮に、【コウ】とキーボードで入力⇒変換を行うと、単字で80以上の『〔コウ〕という文字』が出てきます。
それらの中から【コウ…構・講・購・溝】の4字を例として拾います。他の漢字と同じく、左記4つの漢字も
偏+旁で出来ています。【木+冓】【言+冓】【貝+冓】【氵+冓】です。左記4パターンの共通項が
【冓】の旁と『コウ』の音…である以上、共通因数を括り出す具合で考えると、《冓=コウ》でしょう。
旁(ツクリ)の【冓】が『コウ』の音を示していると考えると、意味は偏(ヘン)が分担していなければなりません。
木偏:構…構造・構成・構築
言偏:講…講義・講習・講堂
貝偏:購…購買・購入・購読
三水:溝…海溝・溝渠・排水溝
上記の通り、熟語として見てみると、成る程、それぞれの偏が意味の表示を担っている様です。
ここで、鯉幟です。数え方はご存知でしょうか。一匹・二匹…NGです。一尾・二尾…これも違います。
大した問題でもないのですが、鯉幟や吹流しなどの様な細長い形状の幡(ハタ)の数え方は『リュウ』です。
…と、言われて【流】を充てている例も目にしますが、本来は【旒】だそうです。この例からも判りますが、
【㐬】が『リュウ』音の担当です。他にもイオウ(元素記号:S)の硫化物、沖縄の琉球などに確認できます。
では、【旒】とは何でしょう。【方】は棒やポールを表します。また【ノ+一】(旁側の上部)は布状のものを
指していて、【方+ノ+一】 ⇒ 【㫃】はflag …つまり【旗】です。意味表示の【㫃】に音表示の【其=キ】で、
《旗:はた:キ》と為るワケです。多くの人々が旗を押し立てて行く様子から【㫃+人人】で【旅】とか、
旗の下に多くの矢が集まる状態から【㫃+矢】で【族】…と、言われています。
【兆】なども解り易い例かも知れません。〔Jump〕なら【跳】で足偏:跳躍、【眺】なら〔ながめる〕なので
目偏:眺望、農機具の〔すき〕なら金偏で【銚】、手偏では〔いどむ〕で【挑】の挑戦。但し、兆グループには
例外もあります。【逃】の〔にげる〕で道を表す之繞:シンニョウはOKなのですが、音は『トウソウ:逃走』です。
では『チョウ』と発音しないのか?…と問われると、それもNoです。【逃散】は字面通り〔にげちる〕状況な
ワケですが、音読みは『チョウサン』になります。コレは上記した多くの例外の中の一つでしょう。
音読みは呉音・漢音・唐音・慣用音などに大別される様です。
慣用音は呉・漢・唐のどれにも属さない派生的で在地的な音です。
唐音は遣唐使の唐王朝ではなく、中国を「唐の国=からの国」で、鎌倉期〜の使用音です。
漢音は主に遣隋使・遣唐使や留学僧などにより伝えられた奈良〜平安期頃の導入音です。
呉音は漢音が持ち帰られる(遣隋使・遣唐使)以前の日本に既に流入していた音の事です。
時代が移っても音に大きな変化の無い文字は沢山あります。今、例外として扱いに苦慮しているのは
呉・漢・唐の各音の様に時代の変遷と共に音にも変化を伴った文字のグループです。
代表例の一つは【行】でしょう。行列の『ギョウ』:呉音。行進の『コウ』:漢音。行灯・行脚の『アン』:唐音。
漢字は意味と音を示す記号ですが、輸出元の中国では王朝交代=支配民族の交代ですから、音読みも
その余波で多様化の道を辿りました。併せて、大陸の王朝交代は受験生の頭痛のタネも増やした様です。