[2021年3月26日]
鎌倉仏教は日本史を履修する中では外せない項目の一つです。法然の浄土宗、親鸞の浄土真宗、
日蓮の日蓮宗、一遍の時宗、栄西の臨済宗、道元の曹洞宗などが平安時代末期から鎌倉時代に
かけて興起した日本仏教の変革的な動きです。単に新興宗派が台頭しただけの事ではありません。
鎌倉新仏教とも言われますが、法然・親鸞・日蓮・栄西・道元は比叡山延暦寺で天台宗を学んでおり、
旧体制側の寺院や各宗派にも大きな影響を与え、本邦版の宗教改革の様相すら呈した改変期でした。
●では、ここで問題です。上記の『親鸞』…筆記できるでしょうか。
シンを間違える方は少ないハズです。難関はランの方です。【鸞】の画数は30画で、部首は【鳥】です。
筆記するには些か厄介な文字には違いありません。そこで引き合いに出されるのが【恋】の文字です。
【恋】という字…実は略字(or新字)です。旧字体では【戀】と書き、部首は【心】で23画です。
【䜌】が音符で、そこに【心】(シタゴコロ)の意符が付いて、出来ています。文字の成り立ちはさて置き、
覚え方ですが…『いと(糸)しい、いと(糸)しい、と言う心』…ダジャレ傾向をお詫び致します。ですが、
末尾の『と言う心』の【心⇒鳥】に置き換えれば、 【鸞】の筆記は比較的 easy …書いた者の勝ちです。
『愛』は心が奥に隠れているが、『恋』には下心がある…などと不本意な言い方をされる【戀】ですが、
『心』が部首として偏になったものが【忄】リッシンベン、上下に平たくなったものが【㣺】シタゴコロですので、
【戀】と【恋】は当然、【愛】も勿論、共に部首としては…【㣺】シタゴコロになります。
鐵→鉄、與→与、臺→台、國→国、關→関、會→会、鹽→塩、櫻→桜、對→対、寫→写、圖→図
眞→真、寶→宝、齒→歯、縣→県、傳→伝、壽→寿、獨→独、戀→恋、圓→円、實→実、晝→昼
來→来、澤→沢、廣→広、邊→辺、濱→浜、圍→囲、廳→庁、擔→担、證→証、釋→釈、觀→観
上記は略字(or新字)の例を挙げてみたものですが、使用する際には各自でご確認をお願い致します。
太平洋戦争後に内閣告示された『当用漢字字体表』(1949年)以降が主な使用の時期と言われますが、
略字の形成には様々な過程や理由があり、成立や引用の開始には特定が困難な文字もある様です。
前回の「鯉幟」と「漢字」での様に、形声文字は属性を表す意符と発音を表す音符とで出来ています。
六書には指事・象形・会意など形声文字以外の漢字もありますが、それらは全体の10%未満だそうです。
略字の導入は漢字の機能を活かし、複雑繁多な画数を削減し、漢字使用の利便性を向上させました。
特に筆記時や活字化に際しては、簡略的な文字の有効性は今更言うまでも無い事でしょう。
しかし略字化には弊害もあります。例えば、【柬】は【東】と略されていますが、【柬】と【東】は異音の旁です。
【柬】は「カン」or「レン」で【諌:カン】・【練:レン】・【錬:レン】などで、【東】は「トウ」で【棟】や【凍】なのですが、
簡略化された結果、一瞥しただけでは音符での識別ができなくなってしまっていました。
他にも一部分を削るケース…【應→応】【藝→芸】【縣→県】、【絲→糸】や【蟲→虫】の様な減数のパターン。
【聲→声】【醫→医】の様な例では省略の課程で【耳】【酉】の部首側も削られたので、索引が変わりました。
日本銀行本店は中央区日本橋にあり、東京の建築遺産50選にも指定されている銀行建築の白眉です。
ご存知の方も多いと想うのですが、Map機能を使い、日本銀行本店の屋根を航空写真で見てみると…
【円】の文字に観えます。流石は日銀本店!と言いたくなる所なのですが、多分コレは偶然の産物です。
新字や略字が印刷物に使用され、流通する様になったのは上記の様に主に大戦後です。それに対して
日銀本館の竣工は明治29年:1896年です。仮に【円】の文字が当時既に世間に流通していたとしても、
日清戦争〜日露戦争の時期に、日本銀行が意図的に【圓】の略字を意匠としたとは考え難いからです。