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Andante (アンダンテ) 
音 羽 教 室 1:1個別指導専科

[2021年3月26日]

20号:放課後の豆知識;20…「宇宙」と「熟語」

修身】という熟語は今では軍国教育の典型の様に扱われています。もともとは明治に入ってからの
翻訳作業の際に【moral science】に相当する言葉が日本の語彙に無かった為に考案された意訳です。

中庸』『論語』『孟子』『大学』を総じて四書と言います。その中の『大学』に【脩身】の語がありました。
〔皆以脩身爲本:皆身を脩むるを以て本と為す〕…これだけ観ると、【脩身】も【修身】も同じ読みで
〔身をおさめる〕となりますが、【脩】と【修】の方向性の違いは部首索引に顕か…かもしれません。

【脩】は〔月:ニクヅキ〕で【修】は〔イ:ニンベン〕です。幾つか調べてみると、【脩】はphysical感が強く、
他方の【修】はmentalに傾斜している…様に考えられそうです。明治期に〔moral science〕を
修身論と翻訳したのは福澤諭吉小幡篤次郎などの慶應義塾の関係者達と言われていますので、
四書五経の【脩身】の【脩】に対し、意図的?に【修身】の【修】の文字を選択したのかもしれません。

徳川将軍8代目吉宗が享保5年(1720年)に【キリスト教に関係のない洋書輸入を解禁】して以降、
欧州からの自然科学系知識の流入は加速しました。『解體新書』などもその流れです。それらは
神経】【元素】【化学】【舎密】等に代表される翻訳語(音訳・意訳)も同時に多くを世に送り出しました。

意訳はオランダ語のChemieを音に拘らず意味から翻訳した【化学】が好例です。それに対して、
を重視した【舎密】は音訳例です。【合羽:カッパ】はポルトガル語、【瓦斯:ガス】はオランダ語、
【倶楽部:クラブ】が英語です。【奈落:ナラク】【南無:ナム】【唵:オン】も梵語の音を漢字に写したものです。

【檀那/旦那:だんな】は仏教では「布施」を意味する梵語【ダーナ(दान:dāna)】からです。その後、
日本では「施す」とか「与える」的な色が濃くなりました。語源は【donum:贈る】と言われています。

【donum贈る】⇒【दान:dāna布施】⇒【檀那・旦那】を東廻りとすると、西廻りで欧州を経て、英語から
日本にも定着した【donation:ドネーション:寄付】【donor:ドナー:提供者】も【donum】が語源の様です。

●さて、漢字の熟語は…音訳を除くと、以下の九つになるとする種別がある様です。
?同じ漢字を続けたもの〔人々・山々・様々・色々〕
?長い熟語や用語の省略〔日銀・特急・国連・経済〕
?似た意味の漢字を重ねたもの〔巨大・豊富・寒冷・湿潤〕
?反対の漢字を重ねたもの〔明暗・乗降・阿吽・黒白〕
?上の字が下の字を修飾したもの〔海水・巨人・時速・炭素〕。
?上の字が動詞的で、下の字が目的語的な組み合わせ〔修身・着席・読書・登坂〕。
?上の字が主語:下の字が述語の組み合わせ〔日没・国営・市立〕
?「然・性・的・化」が下について、上の字の意味を補填したもの〔突然・天性・法的・良化〕。
?「非・不・無・未」が上について、下の字の意味を否定したもの〔非常・不備・無益・未完〕。

そこで、問題です。宇宙とはどの様な熟語でしょうか。上記分類の?〜?で選んで下さい。
因みにですが、【宇】と【宙】の文字を漢和辞典に当たると…
【宇(㝢)】:軒(のき)・庇(ひさし)・家・屋根・天・空・心・魂・精神・器量…天地(上下)四方・空間
【宙】:空・天・天地間のひろがり・空間・とき・時間…過去現在未来に及ぶ無限の時間
…と、それぞれ説明されています。

淮南子』は前漢の武帝の頃(紀元前179年–紀元前122年)、淮南王劉安が学者を集めて編纂した
思想書と言われます。淮南は華北平原の南端に近く、長江の北、淮河の南…の辺りを指しています。
『淮南子』の記述には往古来今、これをという。四方上下、これをという。』と、あるそうです。

『淮南子』では、『宙』は時間の推移、『宇』を空間の拡がり…として、併せて宇宙と捉えている様です。
最近の物理学で言う所の『時間と空間を相互に関連したものとして扱う』時空間(time and space)の
概念を紀元前に看破していた言葉または文字…と評価できる?のかもしれません。

これも漢字の内包する『宇宙』の一端でしょうか。その様な訳で…出題しておきながら誠に恐縮ですが、
本題への正解は皆さんが個々人で温めて頂けましたら幸いです。