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Andante (アンダンテ) 
音 羽 教 室 1:1個別指導専科

[2021年3月26日]

31号:放課後の豆知識;31…「蜉蝣」と「蜻蛉」

唐突ですが、「遊糸」(ゆうし)とは何を指す言葉?でしょう。
答えは、「陽炎」:カゲロウの事です。穏やかな好天の昼間に地面から炎の様な揺らめきが立ち昇る現象。
強い日射で熱せられた地表や屋根などから不規則な上昇気流が発生し、密度の異なる空気が入り混じり、
そこを通過する光が不規則に屈折して起こります。陽炎は春の季語ですが、発生は夏の方が高頻度です。

陽炎(かげろう)と書けば、大気現象ですが、カゲロウと言えば、「蜻蛉」「蜉蝣」などの昆虫も指します。
蜻蛉蜉蝣は共にカゲロウと読みますが、「蜻蛉」:トンボで、「蜉蝣」:カゲロウが現在の昆虫の区別です。

藤原道綱女(はは)の蜻蛉日記は「かげろう(の)にき」ですが、その題名は日記文中の独白めいた
「なほものはかなきを思へば、あるかなきかの心ちするかげろふの日記といふべし」に由来する様です。
平安当時の貴族社会では昆虫はあまり関心の高い分野でもなかったので、トンボもカゲロウも明確には
区別されていなかった様です。参考(?)としては、『堤中納言物語』でしょうか。

堤中納言物語』は10の短編と未完の1編から成りますが、その三番目:「蟲愛づる姫君」には異色の姫君と
その周囲の対応や状況が描かれています。宮崎駿監督がナウシカの着想を得た?…とも言われます。

日本書紀』では、山頂から国見をした神武天皇が日本の島々の並びを「あきつの臀呫(となめ)の如し」・・
「(日本列島は)トンボの交尾のよう(な形)だ」と述べたとされ、そこから「秋津洲」(あきつしま)が日本の国土
を指す異称になったとしています。日本でのトンボの古名は秋津(アキツ、アキヅ)だったそうです。

トンボ:蜻蛉目(せいれいもく)は一先ず置くとして、問題はカゲロウでしょう。
カゲロウ(蜉蝣)目の昆虫は、分類としてヒラタカゲロウの仲間とマダラカゲロウの仲間に大別されます。
所謂「カゲロウ」が示すのはこのカゲロウ目の昆虫の総称です。ところが、この分類にはウスバカゲロウ
クサカゲロウは含まれていません。ウスバ…やクサ…は別の脈翅目(みゃくしもく)に分類される昆虫です。
つまり、昆虫の分類上ではウスバ…やクサ…はカゲロウではありません。名称だけがカゲロウなのです。

結論から申し上げると、脈翅とはトンボの翅(ハネ)の様な翅を指し、脈翅目の前翅・後翅の大きさはほぼ同等、
両翅とも薄い膜状で、翅脈が網目状に発達しており、この様なハネを持つ昆虫の総称が脈翅目です。

昆虫の総体から甲虫を除き、蝶や蛾の鱗翅目を除き、トンボの蜻蛉目を除き、蜉蝣目を除き、トビケラ等の
毛翅目も除き…と、分類可能な目(モク)を引いていくと、残りが脈翅目になる…便宜上の考え方なのですが、
ほぼほぼソレで脈翅目の昆虫たちに辿り着く事は出来そうです。

脈翅目にはヘビトンボ・センブリ・ラクダムシ・アミメカゲロウ・クサカゲロウ・ウスバカゲロウ・カマキリモドキ
…等の多様な昆虫が属しています。私見を述べると、コレは極めて人為的な分類と言えると思っています。
【分類】とさえ言えないのかもしれません。

カゲロウ目の幼虫は水生で、成虫は短命で、街頭でのチラシやパンフレットなどをエフェメラと呼ぶのも、
希語のephemera:カゲロウに由来しています。ephemeral lifeと言えば儚い命dayflyが英語の通称です。

ところが、ウスバカゲロウは2〜3週間の寿命を持ち、セミより長命で、幼虫はアリジゴクとしても有名です。
クサカゲロウの幼虫も陸生で、アブラムシやハダニなどを捕食します。ヘビトンボの幼虫は水生ですが、
見た目はヤゴ似ではなく、どう見ても百足です。幼虫期は川ムカデとも呼ばれるそうです。

学問の世界では、上記の様に、未分類のカテゴリーへの総称と言うケースも実は少なくない様です。
例えば、昨今話題のウイルスです。個人的にはウイルスを生物と呼ぶ事には抵抗感があるのですが、
メガウイルス・ミミウイルス等の様に細菌にかなり近い構造のウイルスが近年発見されている様です。

他方、ノロウイルス(Norwalk virus)は直径 30-38nmの正二十面体、約7,500塩基を持つとされていますが、
コロナウイルス(coronavirus)は直径80-220nmで、ゲノムサイズも約26〜32キロベース(kb)もあります。
ノロコロナメガなどを一括りにウイルスと呼ぶのは、どこか脈翅目に似ている気がします。

比較(?)材料として…大腸菌ゲノムのサイズは4.8Mbp(メガベースペア:480万塩基対)とされ、
ヒトは約3Gbp(ギガベースペア:30億)、ラットで約2.75Gbpです。「p:ペア」は『対:二重』を表します。