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Andante (アンダンテ) 
音 羽 教 室 1:1個別指導専科

[2021年3月26日]

52号:放課後の豆知識;52…「Britain」と白い崖

第二次大戦中やそれ以前、「白亜館」とは…米国大統領が居住し執務を行う官邸(公邸)を示す
用語でした。つまり、現在の表記では…「White House:ホワイトハウス」の事です。

では、「白亜」とは何?でしょう。この素朴な質問が、意外にも、現代人には答え難い様ですが、
白亜とはチョーク:chalk の事で、一般に石灰岩を指します。そこから派生した白墨もチョークです。
石灰岩は炭酸カルシウムを主とする堆積岩です。炭酸カルシウムを含有する比率の高い方が
より白い色を呈すとされています。また、石灰岩が地下で熱変成作用を受けて炭酸カルシウムが
再結晶し、その結晶構造を成長させた岩石が結晶質石灰岩、つまり大理石です。

白亜の宮殿…と言った場合、その建築材は大理石の方が良さそうです。例えば、インド北部の
アーグラにある世界遺産:タージ・マハルは総大理石の墓廟で、まさに白亜の宮殿と映ります。

地質年代にも白亜紀と呼称される時代があります。この白亜も上記と同様に由来はchalk です。
この地質時代を代表する地層が、イギリスからヨーロッパにかけて分布するチョーク(石灰)質層
だからです。石灰岩の地層から設定された地質年代の為、白亜紀の名が付いた訳です。

白亜紀の1つ前:ジュラ紀の名前もフランス東部からスイス西部に広がるジュラ山脈において、
広範囲に分布する石灰岩層に因みます。また、白亜紀の2つ前:三畳紀の名はドイツ南部で
発見された三畳紀を代表する地層において、赤色の砂・白色の石灰岩・茶色の砂岩…と 其々に
堆積条件の異なる3つの層が重畳していた為で、Triassic period:トリアス紀➡三畳紀です。

英仏海峡(ドーバー海峡 or カレー海峡)の最狭部はその直下をユーロトンネルが通っています。
そのトンネルがブリテン島に達する地点付近から北東側の海岸線には「ドーバーの白い崖」
呼ばれ、白亜紀地層でもっとも有名とされる石灰岩の露頭が広がっています。
ドーバーの港を挟んで、その両翼の海岸線に計約11?・高さ約110mに達する絶景です。
長江の赤壁Red Cliffなら、White Cliffs of Doverは差し詰め…白壁、まさに双璧?でしょうか。
               
ラテン語の「albus:白い」を語源とするアルビオン:Albionはブリテン島の古称です。フランス側
からブリテン島に上陸する際に、最初に目にするドーバー沿岸地域に広がる崖のチョーク層の
白さ故に、『イギリス=アルビオン』の名で呼ばれる起源になったのではないか?との事です。

先天性の色素欠乏の個体をアルビノ:albinoと言い、天体の外部からの入射光に対する天体の
外面での反射光の比をアルベド(albedo):反射能(はんしゃのう)と呼ぶのも、同じ語源です。

ユーロトンネルのフランス側のカレーは、ロダンのあまりにも有名過ぎる彫刻:『カレーの市民』
カレーです。港湾都市として栄え、それ故に百年戦争(1337年11月1日〜1453年10月19日)時の
1347年、英仏海峡における重要港カレーが一年以上も敵軍に包囲されたカレー包囲戦を基に
作成されたのが『カレーの市民』と言われています。

さて、アルビオン=イギリス=ブリテン島ですが、その最初の記録は紀元前6世紀頃のカルタゴ
の航海者の記録にある「アルビオン」とされています。その後、紀元前4世紀のギリシャ商人の
航海記に残る「プレタニケ」から、現在のブリテン諸島を指す言葉として「ブリトニ」という呼び名が
発生し、ブリテン諸島最大の島であるグレートブリテン島が「ブリタンニア」と呼ばれた様です。
蛇足ですが、プレタニケには「刺青を入れている人達の島(or 地)」の意との説があるそうです。

この【ブリタニアン=ブリトン人】は、前1世紀頃からローマアングロ・サクソンの相次ぐ侵攻を
受け、その一部はフランス側に逃れる事態となりました。この為、フランスではブリトン人達の
住む様になった地域を「ブリトン人の地=ブルターニュ」と呼ぶ様になったとの事です。つまり、
イギリス海峡を挟んだブリテンとブルターニュは同じルーツを持っているとも言える訳です。

現在、海峡の大陸側:フランスのサンマロ湾付近には英王室属領の島々が点在しています。