[2021年5月28日]
ホタルと言えば、本州より南の日本各地に分布し、5月から6月にかけて孵化するゲンジボタルが
日本ではメジャーな様で、寒冷な北海道では主に観光目的で人工的に繁殖させている様です。
もともと、ホタルは熱帯を主な分布域とするので、九州以北より、以南の南西諸島の方が種類に
富んでおり、幾つか説はある様ですが、日本全体では46種のホタルが確認されているそうです。
因みに、より熱帯に近い台湾からは58種の報告がある様です。
ホタルと言うと、清浄な流れに棲み、初夏に孵化し、発光する…様なイメージ?でしょうか。
確かに、ゲンジボタルやヘイケボタルは上記の範疇と言えそうです。しかし、上記のイメージは
実は日本に固有?…或いは本邦独自の捉え方なのかもしれません。
ホタルにはその幼虫期を水中で過ごす水生種と陸上の湿地で過ごす陸生種の区別があります。
日本では、先ずゲンジ、次いでヘイケが目立ち過ぎる為か?…他種のホタルは殆ど注目されて
きませんでした。しかし、全世界で約2000種と言われるホタルで、現時点で水生種と確認されて
いるのは5種だけだそうで、しかも…その5種中の4種は日本のホタルです。
沖縄県、那覇市の西方:約85?の東シナ海の久米島(60㎢)に固有のクメジマボタル。
同じく、沖縄県の石垣島・西表島に棲息するイリオモテボタル。
この2種にヘイケとゲンジを加えた4種が、幼虫期を水中で過ごすホタル…とされています。
尤も、スジグロボタル(分布:本州・四国・九州)の様に、幼虫は普段は陸上(湿地付近)で生活し、
捕食時のみ森林の小さな湧水や細流に潜り、カワニナを獲る様な半水生の種も存在します。
また、例えばこのスジグロボタルの様に、一般的なイメージとしての蛍:成虫の外見とは合致し
難い種類も少なくありません。スジグロボタルは一見すると小さなカミキリムシの様です。
ホタルの代名詞と想われている発光ですが、例えば国内種の成虫で発光するのは約1/3と
言われます。生息数はさておき、種類で言えば、光る成虫の方が珍しいワケです。ヘイケや
ゲンジは卵・幼虫・蛹・成虫…全てのプロセスで発光する様ですが、これもレアな例でしょう。
前出のスジグロボタルの成虫は、弱いながらも、連続光を発する事が確認されています。
逆に、卵や幼虫の時代には殆どの種類のホタルが発光するそうです。
個人的にはヘイケボタルやゲンジボタルより、昼間の外見はスジグロボタルの方が好みです。
八王子の山林部にもスジグロは生存が確認されています。ヘイケやゲンジが光る姿は確かに
美しく幻想的ですらあります。しかし、昼間の姿は頭部の赤と胴体部の黒の対比がキツク感じ
られてしまいます。或いはホタルが人語を解したら、そんなのは人側の勝手な思い込みだ!…
と、叱責されるかもしれません。赤/黒の対比は毒性を示す為?とも言われます。
ホタルは甲虫ですが、僅かな毒以外に身を護る術を持ちません。硬くも速くもないのが一般的な
ホタルの姿です。ホタルに限りませんが、現存する自然界の生物のフォルムや能力はほぼ全て
生存・存続の目的に特化したものです。冷光発光も捕食者の少ない夜間に対応した能力とする
説にも説得力を感じます。伊勢物語や枕草子にも蛍は出てきますが、一人称的な仮託です。
イソップ童話のアリとキリギリスもヒト側の思い込みの産物かもしれません。キリギリスだって、
ホタルだって、悪戯に光ったり歌ったりしている訳ではないのですから。単にキリギリスやホタル
と言わず、自身も含めて、ヒトは思い込みや先入観を判断の材料としてしまいます。
調べたり、体験・経験したり、自分たちで目視確認したものでなく、浮動的なイメージに大きく
その決断を左右されがちです。しかし、人路の分岐点は蛍狩りや童話と同じにはできません。
最後に【アリ・キリ】ですが、元々は「アリとセミ」だった様です。セミは熱帯・亜熱帯に生息分布し、
地中海沿岸にも生息していて、古代ギリシア文学にも登場します。しかし、欧州の北部…特に
アルプス以北では馴染みの薄い昆虫なので、欧州北部に伝えられる過程のどこかで改変または
意訳・置換され、キリギリスなどとして伝播した…と言われている様です。
英語では、【The Ant and the Grasshopper】/【The Grasshopper and the Ant】
…アリは Ants の複数形の場合もあります。