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Andante (アンダンテ) 
音 羽 教 室 1:1個別指導専科

[2021年6月17日]

62号:高校生とサメ

サメの仲間(サメ・エイ・ギンザメ)は良いイメージで語られる事の少ない魚類です。
サメの化石で最も多いのは歯の化石ですが、体骨格関連となると極端に乏しくなります。
化石の発掘事例に乏しい為、多くの古代鮫の想像図は、化石的な検証を経ていません。
サメの仲間(サメ・エイ・ギンザメ)は軟骨魚綱(なんこつぎょこう)、または軟骨魚類に分類され、
全身の骨格の殆どが軟骨で構成されている事に由来します。

鋭い歯と強力な顎を持つ姿が一般的なサメのイメージかもしれませんが、それはイタチザメ
ホオジロザメなどに顕著な特徴であり、実際にヒトに危害を及ぼすのは鮫の約1割り程度の種類
と言われています。例えば、サメと言わず、魚類でも最大級とされるジンベエザメウバザメ
メガマウス濾過摂食のプランクトン食性で、これはオニイトマキエイ(マンタ)なども同様です。

古代から骨格の殆どの部分が軟骨から構成されるサメは、上記の様に化石が残り難いのですが、
骨とは対照的に歯は多くの化石例が残されています。サメの歯は何列にも並び、1本でも欠けると、
新しい歯列が古い歯列を押し出す形で、歯列ごと新しいものと交換されます。歯列は何回でも
生え変わり、サメ1尾が生涯に使う歯の数は、長命の個体なら、数千とも考えられている様です。

地殻運動で陸地に押し上げられたサメの歯やその化石は、天狗の爪や龍や大蛇など空想上の
動物の歯・爪・鱗などとされ、実用的な武器や道具の刃として使用された例も確認されています。

サメは生きた化石などと呼ばれる事もあり、ワニゴキブリと並んで、1億年以上その基本的な
デザインを変えていないグループとされています。逆に言えば、古代に滅んだサメの種類も、
現生種のサメを参考とする事でその研究の精度の向上が期待できる事になる訳です。

巨大古代ザメの一つの最終形態とされているメガロドンの推定も従来から上記の様なスタンスで
行われてきた様です。メガロドンは今から2300万年前〜360万年前頃に生息していたサメです。

絶滅種のサメの体長は、類似の活動環境を有する、現生種のサメの歯のの長さから推定する
のが一般的とされてきた模様で、メガロドンに関しても2002年に発表された論文の計算式に依拠し、
ホオジロザメなどの歯と体長をベースに、従来は15〜18mとされてきた様です。

ところが、古生物学の学術誌『Palaeontologia Electronica』に掲載された記事では、その盲点
或いは盲信と言える様な出来事が指摘されていました。きっかけは普通の高校生達でした。

彼らはカリフォルニアの高校生で、校外学習の一環でフロリダ自然史博物館を訪れたそうです。
高校生達はメガロドンの歯の模型を使って、メガロドンの体長を推計する課題を与えられました。
ところが、同じサイズのサメの歯を基にしたはずなのに、彼らの回答では12m〜45mの範囲で、
大きく異なる複数の推計値が提出されたのだそうです。

日常的には、高校生達は各自のアプローチのミスを指摘されて、帰路につくのがオチでしょう。
しかし、この事実を真摯に受け止めた研究者らは、歯のから顎の大きさを割り出す計算式を
新考案しました。歯の幅や歯列から顎のサイズを推測し、それを基に体長推計を行った様です。

もし、この新しい方式が正鵠に近いとすると、メガロドンの体長はホオジロザメの4倍に相当する
18〜20mへと1割以上修正される事になります。ゾウならぬ、群盲サメを評す…でしょうか。
高校生の果敢な(?)アプローチが新しい視野を啓く契機となったワケです。