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Andante (アンダンテ) 
音 羽 教 室 1:1個別指導専科

[2021年9月8日]

70号:難読地名

日本は万葉の頃から言葉遊びの好きなお国柄でもあった様です。例えば…

●万葉集 第3巻 239番歌(柿本人麻呂)の長歌の中の十六社者」と書かれている部分…
万葉集は万葉仮名表記です➡文学部生でも勉強していなければ、音訓も意味も解かりません。
これは「ししこそば」と訓むそうで、漢字で充てると「猪鹿こそば」or「こそば」となる様です。

●万葉集 第8巻 1495番歌(大伴家持 霍公鳥歌 二首)のうちの…

 足引乃 許乃間立八十一 霍公鳥 如此聞始而 後将戀可聞
 あしひきの このまたちくく ほととぎす かくききそめて のちこひむかも
 【あしひきの 木の間立ち潜く 霍公鳥 かく聞きそめて 後恋ひむかも】
 《意訳》
  山の木立の間を飛び回って霍公鳥が鳴いている
  一度聞いたからには 後からも声が恋しくなるのだろう

上歌の「八十一」は「潜く」(=くぐる:潜る)で「くく」と訓むのが一般的です。
239番歌の「十六」は「しし」、1495番歌の「八十一」は「くく」…ご賢察の通り、
これらは【かけ算】からです。万葉の頃から九九の暗記は変わっていない様です。

難読地名は言葉遊びではありませんが、これも日本語の柔軟性の一端かもしれません。
では、以下5問…お考え下さい。割と有名な難読(本州)地名です。

1:微温湯(福島)

2:廿六木(新潟)

3:先斗町(京都)

4:生琉里町(奈良)

5:十六島(島根)

1:ぬるゆ(福島県福島市) 2:とどろき(新潟県燕市) 3:ぽんとちょう(京都市中京区)
4:ふるさとちょう(奈良県奈良市) 5:うっぷるい(島根県出雲市)

十六島は出雲の海岸から日本海に突出した岬の付近で、大岩や奇岩が林立した海岸線です。
江戸時代、出雲国松江藩七代藩主・松平治郷(不昧)は参勤交代の際、十六島特産の岩海苔
羽織風に仕立てて着用したという逸話が残っています。

生琉里の明確な由来はよく判っていません。同音同字の地名は隣県の三重にもあります。

先斗町は三条通の一筋南から四条通までの、鴨川に沿った南北の細長い通り沿いの街です。
元は鴨川の州でしたが、1670年:寛文10年に鴨川高瀬川の護岸工事によって埋め立てられ、
川沿いの南北に細長い町となりました。一説に、その細長い川沿いの地形から、ポルトガル語の
ponta(先/先端)・ponte(橋)・ponto(点)…等から名付けられたと言われている様です。

廿六木(新潟)の由来も未詳ですが、二十六木・廿六木村(秋田県)・廿六木村(山形県)…など
の地名が各地に確認できます。埼玉県秩父市には雷電廿六木橋(らいでんとどろきばし)を含め、
見事な一連のループ橋が架かっています。

微温湯は福島駅より西へ約18km。磐梯朝日国立公園吾妻小富士の東側の山麓:標高約920m
に位置する、その名の通りの高原の温泉です。日本ぬる湯番付では東の横綱である…とか。

今回、難読地名を本州に絞ったのは、北海道・九州・沖縄にも拡げると、納まりが付かなくなって
しまいそうだったからです。日本は世界史中でも他に類を見ない長い歴史を続けている国です。
北は稚内・知床から南は与那国・小笠原と国土も変化に富んでいます。また、外来・舶来の文物
に寛容な国民性です。地名・人名等が多様な難読で溢れていても、それは当然かもしれません。