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Andante (アンダンテ) 
音 羽 教 室 1:1個別指導専科

[2022年4月7日]

89号:【4月8日】は、花祭り

花の節句と言う言葉がありますが、最近では専ら3月3日を指す様です。
花の節句=の節句=雛祭り上巳の節句…と、言う訳です。以前は4月8日を、
そう呼んでいた様な記憶もあるのですが、或いは花祭りとの混同だったのかもしれません。

4月8日の花祭り、本来は灌仏会と言う仏教行事⇒ご縁日…お釈迦様の誕生日です。
灌仏会は古くからの仏教の法会です。お釈迦様の仏像に甘茶を注ぎ礼拝する法要だそうです。
釈迦の生誕に際して、竜王が香水を注ぎかけた…とする伝説に由来しています。仏教圏では
広く行われている様で、日本でも第三十三代:推古天皇の頃には催行が確認されている様です。

国によって地域によっても異なる様ですが、日本では様々な草花で飾った花御堂(はなみどう)
の中を甘茶で満たした灌仏桶の中央に誕生仏(釈迦降誕の姿を表した像)を安置し、柄杓で
甘茶を掛けて祝うのが作法の様ですので、甘茶はセットなのかもしれません。

18世紀中期に始まったとされる更級蕎麦は、蕎麦殻を外し、胚乳内層中心の蕎麦粉:更科粉
熱湯で捏ねる事で澱粉質をつなぎとして、白く透明感のある更科蕎麦を可能としました。
更級蕎麦では、この透白色の麺体を活かし、色や風味を加味する変わりそばを生み出しました。
変わりそばは20種以上(22種類?)あるとされ、各店舗ごとに配合も微妙に異なるそうです。

今の季節の変わりそばは甘茶切りとされます。おそらくは…灌仏会にちなむものでしょう。
また、3月は桜切りが多い様です。風味は桜の葉(塩漬け)で出し、食紅で色を加える様です。
「○○切(り)」と言うのは、ソバの呼称面の区別から派生したものと言われます。

例えば、riceですが、それは穀物の呼称です。植物名なら、食品名ならごはんメシです。
ところが、ソバは穀物名も植物名も食品名にも区別が無い様なものです。ソバ粉を捏ねて粘りを
出したら:蕎麦搔き、ソバ粉を捏ねたものを包丁で切るから:そば切り…の様な具合です。

花と言えば、平安初期以降の本邦では多数決で…です。花祭りの花も桜を指す様です。
とは言っても、花祭りの名称が用いられる様になったのは20世紀初頭からと言われます。
1901年4月、ドイツに留学中の真言宗などの僧侶らが、ベルリンのホテルで誕生仏を花で囲み、
釈迦生誕を礼讃する【Blumen Fest】を開催、現地の人々も数百人が集まり盛況を博した様です。

独語の「Blumen Fest」⇒英語で「Flowers Festival」⇒「花祭り」です。
1916年、日比谷公園で、浄土真宗の僧侶らが釈迦の生誕法要を花まつりと称したのが国内の
初例と言われ、ベルリンの「Blumen Fest」と日比谷の「花まつり」には主催側に共通の僧侶名も
確認されているらしいのです。

甘茶は、アジサイ科の落葉低木のアジサイの仲間の若葉を、蒸して揉み、乾燥させた物で、
それを煎じたり、湯出しした飲料を指します。飲料名を表示する場合は「甘茶」と漢字表記し、
植物を指す場合は「アマチャ」と片仮名表記にするのが一般的です。例外として、ウリ科の
アマチャヅルの葉または全草を、湯などで抽出した際も「甘茶」と言う場合もある様ですが、
本来は「アマチャズル茶」と言うべきで、薬効的な期待も「アマチャ」とは異なります。

  灌仏の 日に生れあふ 鹿の子かな   松尾芭蕉「笈の小文」

お釈迦様は生まれて直ぐに、7歩あるいて右手で天を、左手で地を指して獅子吼(ししく)したと
言われ、この時に唱えられたと伝わるのが有名な「天上天下唯我独尊」です。そして、この天地
を指す姿を造形した童子形の像を誕生仏と呼んでいます。灌仏(会)は、春:晩春の季語です。

生まれたばかりの子鹿が大地に足を踏ん張って立ち上がろうとしている姿を句に織り込むのが
芭蕉の着想と言われますが、入学式の多い今の季節にも重なりそうな一句です。