パソコン版を見る

Andante (アンダンテ) 
音 羽 教 室 1:1個別指導専科

[2022年9月14日]

102号:「略字」

略字化の顕著な例としては【變⇒変】・【應→応】・【藝→芸】・【縣→県】・【絲→糸】・【蟲→虫】など、
【聲⇒声】や【醫⇒医】では、【耳】・【酉】の部首も削られた事で、漢和辞典の索引も変わりました。

他にも…一見しただけでは「意味」と「音」がよく判らない…理解しがたい文字群の中にも、略字化
の影響を大きく受けてしまった結果、文字(漢字)本来の姿が想像できなくなり、意味も音も混乱し、
正確な把握が難くなってしまった文字も少なくありません。代表格は「礼」「体」でしょうか。

 ●【示】+【豊】『禮』⇒「礼」

 ●【骨】+【豐】⇒【骨】+【豊】⇒『體』⇒「体」

「礼:レイ」と「体:タイ」は旧字体では共に『豊』を旁として持っていますが、古い時代の文字では
「礼」は【豊】で、「体」は【豐】と、上記の様に各々に異なるを持っていたことが知られています。

【豊】の旁の古い発音は『レイ』:供物の甘酒やその器の高坏(タカツキ)を意味し、それを神に捧げ、
幸福の到来・祝福を祈る儀式を意味するのが「礼」…『禮:レイ』の文字とされています。

【豐】の『ホウ・フウ』は元々は『テイ・タイ』で、高坏(タカツキ)に供物が沢山盛られている状態を表し、
故にゆたかな状態⇒密度や濃度の高さ…の意味になる様です。より表意的に感じます。

古い時代に【豐】(ホウ)が「豊」へと俗字化され、『禮』の文字が「礼」へと略字化されたことで、
【豊:レイ】と【豐:ホウ】の本来の発音が取り違ったまま使用されている状態が現状の様です。

【豊:レイ】も【豐:ホウ】も神事の高坏から生まれた点が共通していますが、【豊:レイ】象形文字で、
【豐:ホウ】形声文字の様です。「」の字は古くは「粗い」や「劣る」の意を表していたそうです。

「えたいが知れない」の「えたい」は【得体】又は【為体】と書きますが、【為体】は『体たらく』とも
読みます。「ていたらく」とは…みっともない有様・情けない状態・ひどい様子…などを指します。

類似の事は、「凍」「錬」でも起きています。『東』「トウ」です。本来は「レン」とか「カン」などと
発音するではありません。「棟」や「凍」の『東:トウ』に対して、「錬」や「練」は『レン』の発音です。

この混同も略字化に由来すると言われます。本来の「錬」「練」は『東』ではなく、『柬:カン/レン』
旁に、「金」や「糸」などの偏の付いたもので、他にも「煉」…煉瓦、「諫」…諫言、「鰊:ニシン」などが
『柬』としている文字の例となります。

【豐:ホウ】から【豊:レイ】への略字化はかなり古い時代に発生したものの様で、略字というより俗字
と表現する方が適切な様です。一括りに俗字とは言うものの、その種類は多岐に及ぶ様です。

【花卉】はハナとクサから成る熟語ですが、「花」の脚部の「化」を省き、「卉」の「十」部を除いて、
脚部の「艸」と「花」のクサ冠をとを合体させて1文字として【花卉】と同様に『カキ』と読ませている
看板を見掛けた事があります。本来は、「卉」の脚部も「花」の冠も共に「」に由来しているので、
「化」を抜いてしまっては単なる「grass」だけなので、花の咲かない草になってしまいそうです。

花の花弁は葉の一部が変化したものと言われますから、文字通り「艸」+「化」と言う訳です。
「貝貨」の「貨」も似ています。「貝」が「化ける」と「お金」になる➡即ち「金貨」…と言うオチです。

「慶應」の「慶」と「應」をそれぞれマダレ:「广」だけにして、その中にアルファベットの「K」と「O」を
其々にハメ込んで、「慶應」の俗字化している例はご存じの方々も多いのではないでしょうか?

しかし、「慶」も「應」も本来の部首は「广」:マダレではありませんので、これも勘違いの部類です。
「慶」は「鹿」または「廌」、「應」は「䧹」…通常の部首索引では「慶」も「應」も共に「心」部です。