[2022年10月11日]
ネコとモンシロチョウはほぼ同時期の奈良期から日本で拡がったとされます。確かに、古事記や
日本書紀を眺めていても、鼠・蛇・兎・鹿・鮫(ワニ)・白鳥・亀・犬など多くの動物が彩を添えますが、
ネコの登場する場面を知りません。これは、前回の紋白蝶が大根栽培渡来時の移入であるなら、
ネコ…殊にイエネコ(家猫)は仏教と共に来邦した、とされているからです。
但し、それは大根とモンシロチョウの様な偶発事ではなく、中華大陸・朝鮮半島から輸入される
仏教の経典を鼠の害から守る目的で、意図的にネコを乗船させた事が発端と言われています。
ごく稀に、古墳時代以前からもネコの痕跡が見付かる例もある様ですが、何かの拍子でネコが
入ってきたとしても、雌雄のつがいや繁殖環境がなければ、子孫は残らず、増えません。国家的
事業としての鎮護国家仏教の必要性から多数の仏典が輸入され、鼠害対処法としてのネコが
遣隋使・遣唐使の帰朝船に同乗してきたことで、飛鳥・天平・奈良と時を追って国内でのネコの
個体数は増加を辿り、平安期には多くのネコの“爪跡”が文化史に刻まれる様になった訳です。
絵としての『信貴山縁起絵巻』、文書として宇多天皇の日記『寛平御記』・『源氏物語(若菜上)』・
『更級日記』・『明月記』・『今昔物語』など多数の足跡を確認できる程に定着(住)が進んだ様です。
『枕草子』第七段「うへにさぶらふ御猫は」に【命婦の御許:みょうぶのおとど】の名を与えられた
ネコが一条天皇と中宮定子との絡みで登場します。記録上では本邦初の自分の名前を持った
ネコ…なのですが、第七段の多くは【翁丸:おきなまる】の名を持つ犬の話題となっています。
スコットランドでは近年まで、ウィスキー用穀物の番人として対鼠用ネコが飼われていたそうで、
これを通称whiskey_catと呼んだそうです。経典護衛のネコなら、差し詰めtexts_catとでも喩える
のかもしれませんが、個人的には書庫に積まれた本の上で寝ている姿の方が好ましいですね。
日本では経文と共に拡がったネコですが、欧州では農耕の伝播と共に生存圏を拡大した様です。
理由は日欧を問わず、やはり対鼠用家畜として飼われていたそうです。現在、農耕の起源として
有力なのは、新石器時代に地中海東岸部での麦類栽培を始点として拡がったとする説でしょう。
それに対して、今のネコの祖先は中東の砂漠などに生息していたリビアヤマネコの亜種だった
ことがミトコンドリアDNAの解析結果により確認されています。そして、人類の狩猟採取生活期に
あっては、同種の獲物を競い合う関係だった源種ネコとヒトが、穀物の保管と鼠害を仲介として
新たな関係性を見出していった様です。鼠の被害は穀物だけでなく、木材・衣類・紙類にも及び、
ペストに代表される疫病の媒介者ともなり、その撃退者であるネコはヒトとの絆を深めました。
日本におけるネコの拡散原点を国家仏教に求める考え方は正鵠に近い様ですが、前記の通り、
古墳時代にも、更には弥生・縄文の発掘からもネコの骨や痕跡は確認されている様です。が、
それが家畜だったのか?獲物の一つだったのか?偶然だったのか?は特定されていません。
さて、現在知られている夜空の星座は、88個と言われています。原形は北半球から観望可能な
48のトレミー星座とされています。ここに南半球の星座や16世紀以降に追加の星座を合わせ、
アルゴ座の分割(りゅうこつ座・ほ座・とも座)…云々なども加味して、88星座となる様です。
魚:うお座・南のうお座・かじき座・とびうお座、犬:大犬・子犬・猟犬、蛇:蛇・海蛇・水蛇…など、
複数に採られている動物もいる中で、ネコ(類)では…ヤマネコ座・獅子座・小獅子座などがある
ものの、どれもイエ(家)ネコとは言い難く、ヤマネコ座に至っては1687年に追加された星座です。
十二支でもネコは除け者扱いです。しかし、幸いなことに(ナニが?)東南アジア系の十二支には
卯(ウサギ)の代わりに、ネコの入っている地域もある様です。