[2022年11月18日]
バリンジャー・クレーターともアリゾナ大隕石孔とも呼ばれる隕石由来の窪地:クレーターです。
クレーターはギリシア語でお盆・ボウル・皿などを指す語を語源としているそうで、実際に隕石に
因らない窪地も、火山の火口由来や土地の沈降由来でも、同様にクレーターと呼ばれる様です。
隕石衝突由来で、輪郭の明瞭なものを特に隕石孔と呼んで区別している様です。
呼称のバリンガーは個人名です。20世紀初頭にこのクレーター一帯を買い取った人の苗字で、
今現在も個人の所有地だそうです。バリンガー氏は鉱山開発の技術者で、バリンガー隕石孔は
近辺から30トンもの隕鉄が発見されたことから、バリンガー氏はクレーターの底からはより大量の
鉄(隕鉄)やニッケルが発見できるものと想定、同地を買い取り、その後約27年掘削を継続するも
有価な採掘結果は得られませんでした。これは突入・衝突後に飛散した破片や、衝突時の蒸発
など、20世紀初頭には理解されていなかった、地球への隕石落下の特質に因る結末です。
バリンガー隕石孔は天体落下に因る地形であることが承認された世界初の地形です。この窪地
は当時は火山の噴火口もしくはその痕跡であろう…と一般には考えられていました。ダニエル・
バリンガー氏は物理学者のティルグマン氏と共に米国地質調査所へ論文を提出、その後の研究・
調査で隕石落下による地形(直径約1.2?/深さ200m)と世界で初めて認められたそうです。
現在理解されているクレーター形成の要素としては…先ず運動量としてのエネルギーの大きさに
左右されます。要は質量(重さ)×速度=運動エネルギーです。この際の速度は単に早ければ
大きなクレーターになる訳でもなく、重要なのは2つの物体間の運動方向と相対的な速度です。
地表への落下を想定すると、次の視点は重力です。例えば、月の重力は地球の1/6とされます。
宇宙空間を移動している際の速度が同じでも、地表への衝突に際しては天体の重力に左右され
ます。地球は、太陽系内の固体地表の天体では最大の重力なので、落下速度も大きくなります。
大気圏内では、重力と共に大気の密度も指標になります。地球を1気圧とすると、金星は約92倍、
火星の大気は地球の約6/1000…と、天体間の格差が顕著です。大気密度が高ければ、大気圏
突入後の抵抗…減速材料となります。大気の抵抗で隕石自体が衝突前に瓦解したり融解したり
するかもしれません。隕石孔形成後でも、濃密な大気下では経年変化も起こります。
大気圏や地表への入射角もクレーター形成に影響します。大気への入射角が浅ければ、その分
大気との接触時間が延び、所謂光球の様な状態にもなります。大気中を通過するだけで、衝突
しない事も、大気で弾かれる場合もあります。地表への入射角では、10度未満の浅い場合では
円形のクレーターを形成できない様です。しかし、それ以上の入射角なら、ほぼ円形となる事も
知られています。他天体の映像を観る時、殆どのクレーターが円形に近いのは、この為です。
更に、落下地点の地質も影響します。隕石の大きさにも依りますが、陸と海とでも結果は異なり、
その後の浸食・風化あるいは保存状態も変わってきます。上記の様に隕石の相対的な運動量・
天体の重力・大気の性質・入射角・地質…大別するとこれらの要素にクレーターは影響されます。
では、バリンガー隕石孔の誕生時のシナリオは現在どの様に理解・説明されているのでしょう。
バリンガー隕石孔の素となった隕石は、大気圏突入時は衝突時の倍以上あった様なのですが、
約半分は落下中に砕けて散らばりました。地表到達時は直径約40mの本体が秒速約11〜12?
の速度で落下したと推定されています。毎秒11〜12?と言えば、時速4万?以上の速度です。
もの凄い速度なのですが、岩石の気化・融解には速度不足で、それでも大気の抵抗で砕けた
総計約30トンの残滓や欠片は、今では各国の博物館などでも「キャニオン・ディアブロ隕鉄」の
名で展示され、日本でも見られます。真贋は別として、ネットでも売買取引されている様です。
とは言え、時速40,000?で直径約40mの物体が落下した衝撃は凄まじく、或る研究では、落下
中心点では、高温と高圧により炭素からダイヤモンドすら生成された…とも報告されています。
様々な検証がなされていますが、落下地点から半径20?前後は何も無い荒野と化した様です。
バリンガー・クレーター衝突体は幸いにも地球全体に影響するスケールではあませんでしたが、
運動量の理屈で考えると、重い隕石がゆっくり落下しても、軽い隕石が高速衝突しても、成分が
岩でも石でも氷でも、同量の運動エネルギーからはほぼ同じ規模のクレーターができる訳です。
因みに…白亜紀末、約6550万年前の地層でK-Pg境界を形成したとされているチクシュルーブ・
クレーター衝突体の規模は直径10〜15km、衝突速度は約20km毎秒と推定されている様です。