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Andante (アンダンテ) 
音 羽 教 室 1:1個別指導専科

[2023年4月9日]

116号:メイン・ベルト

メイン・ベルト…天文やSFに遠い方には耳慣れない単語かもしれません。要は小惑星帯です。
小さな惑星帯ではなく、多数の小惑星が帯状の空間に浮かんでいる現象です。アステロイド・
ベルト…そう呼んだ方がしっくりくる方が多いのかもしれません。

アステロイドの命名者はウィリアム・ハーシェルと言う天文学者です。「星のような」を意味する
「asteroid」はギリシャ語の asteroeides に由来し、aster は「星」、-eidos は「形」を意味している
そうです。惑星・恒星・衛星などとの混同を回避する目的からの区分だったのでしょう。

ハーシェルの業績として、天王星の発見・土星の衛星エンケラドゥスミマスの発見・天王星の
衛星チタニアオベロンの発見、更に干渉法の基礎や赤外線の発見など、天文学の巨人です。

メイン・ベルトとアステロイド・ベルトとは、ほぼ同意義の用語ですが、アステロイド≒小惑星
ある以上、それは火星と木星の間の空間の小惑星帯のみを示すコアな単語でなくても構わない
…つまり、火星-木星間以外に存在する小惑星帯もアステロイド・ベルトと呼ぶ事が可能な訳です。

実際、太陽惑星系の最外殻:海王星の外側にも小惑星帯の存在は確実と言われている様です。
名をエッジワース・カイパー・ベルトと言います。メイン・ベルトとの違いは位置だけでなく、準惑星
多数含んでいる点や、範囲が30au〜55auと推定されている事です。メインベルトの準惑星は1つ:
Ceres (ケレスまたはセレス) だけです。範囲も 2.6〜3au 辺りとの推定です。因みに、auとは
太陽と地球の平均距離(半径)を【1au】とした天文学上の距離の単位で、中学生の履修範囲です。

勿論、小惑星帯は太陽系の外縁や火星-木星間に限らず、他の恒星系でも10〜以上の候補が
挙げられています。メイン・ベルトと特に呼ぶのは他の小惑星帯との区別を明瞭化する際です。

ケレスは元々は小惑星番号:1の天体でした。それ以前:特に1801年の発見間もない頃は惑星と
すら考えられていたのですが、観測の進展や機器の発達に伴い、小惑星に分類されてきました。
2006年、準惑星:dwarf planet というカテゴリーの新設に伴い、その定義に収まった様です。

準惑星:dwarf planet の「ドワーフ」とは、ファンタジーなどに登場する人類以外のヒト型生命体:
亜人類:デミヒューマン…ゲルマン語派系統では「とても背の低い(人間)」や「小さきもの」を表す
用法が多いそうです。白雪姫の「7人の小人」はその一例で…小人・矮人・侏儒などです。挿絵
などでの7人は、木こり:森の住人の様な姿も見掛けますが、本来は鉱夫:山が仕事場です。

2006年にドワーフ・プラネットに分類されたのはエリスハウメアマケマケ冥王星の計:5つ、
ケレスを除く4つは海王星以遠天体(太陽系外縁天体/エッジワース・カイパー・ベルト天体)です。

2023年3月27日に、このケレスと地球と太陽が一直線上に並ぶ【衝】の状態になった様です。
【衝】…地球から太陽系内の天体を見た時、その天体が太陽と正反対の位置にある状態を表す
用語です。地球から見た太陽を真正面とするなら、【衝】の惑星は真後ろの位置関係となります。

準惑星ケレスはメイン・ベルトでは最も大きな質量を有する天体で、球形です。メイン・ベルト内の
全体の質量の約1/3がケレスの質量と推定されており、地球の月の質量の凡そ1.3%と見られて
います。要するに、残りのメイン・ベルトの質量は月の2.6%≒ざっと3%程度な訳です。

今、ケレスの軌道半径を約2.8au とすると、地球の軌道半径が1auなので、1au×2×π=2auπ。
ケレスは2.8au×2×π=5.6auπ…5.6auπ÷2auπ=2.8…約3倍とします。ケレスの通る軌道は
地球の軌道の3倍程度の距離となります。この地球の軌道の3倍の距離に、総質量で月の3%
程度が漂っている空間…想像してみて下さい。多分…おそらく…きっと、スカスカですよね?

現在確認されているメイン・ベルトの天体で1番大きいケレスから12番目のエウロパまでの質量
の合計は全体の6割前後と推計されています。それも勘案すると、もぅ…スッカスカ状態でしょう。

SFなどでは土星の環の様に宇宙空間に岩石や氷塊が密集している設定や描写もありますが、
実際の小惑星帯は大部分が空隙で、メイン・ベルトの外側に打ち出された探査機が小惑星帯を
横断した際にも、これまでに重大な衝突事故を起こした事例は1回も報告されていない様です。

反証的ですが、だからこそ「はやぶさ」「はやぶさ2」の天体到達は偉業と評価される訳ですね。