[2026年4月16日]
今回の話題は今から1389年前の2月に起こったとされる天体現象についてです。舒明天皇9年:
西暦637年の記載が日本書紀に残されています。舒明天皇は34代の天皇で、先代は推古天皇、
推古女帝は日出処の天子で、続く皇極天皇は天智・天武の母で、舒明帝の皇后でもあります。
33代:推古天皇・34代:舒明天皇・35代:皇極天皇・36代:孝徳天皇・37代:斉明天皇(皇極帝重祚)・
38代:天智天皇・39代:弘文天皇・40代:天武天皇・41代:持統天皇…代数の赤字は女帝です。
大星、從東流西、便有音似雷
時人曰流星之音、亦曰地雷。
於是、僧旻僧(ホフシ)曰「非流星。是天狗也。其吠聲似雷耳。」
1行目➡「大星、東より西に流る。便(スナハ)ち音有りて雷に似たり」
2行目➡「時の人曰はく、流星の音、また曰はく地雷」。
3行目➡是に僧旻ほふしが曰はく
「流星にあらず、是れ、天狗(アマツキツネ)なり、其の吠(ほ)ゆる声雷に似たらくのみ」
大きな星が東から西に流れた。すぐに音があって、雷に似ていた。
その時の人は「流星の音だ」、また「地雷(ツチノイカヅチ)だ」、と言った(2行目)。
僧:旻(ミン)という僧(ほふし➡ホウシ➡法師)が言った
「流星ではない、これは天狗(アマツキツネ)だ、その吠える声が雷に似ているだけだ」と。
現代の我々から観ると、おかしな記載に感じてしまう個所が幾つかあります。
先ず、「アマツキツネ=天狗」です。「狗=イヌ」です…「羊頭を懸けて狗肉を売る:羊頭狗肉」の
様に、「キツネは狐」⇔「イヌは狗で犬」のハズです。そして「天狗」は「テング」で、鞍馬天狗や
カラス天狗や水戸天狗党や大雄山最乗寺や高尾山薬王院…等が私達の天狗のイメージです。
旻と言う僧は、留学生として遣隋使である小野妹子に従い出帆し、高向玄理・南淵請安らと共に
608年に隋に至り、以降24年間に隋〜唐で仏教・周易などを学び、舒明天皇4年(632年)に帰朝
しました。当時最先端の知識を持つ博識な人物ですが、「時人」は「流星之音」と言った…と上記
の日本書紀には記され、寧ろ「時人」の観察の方が天文学的な所感の様にさえ想われます。
1つの仮説として、地球には毎日:1トンの流星が降り注いでいる可能性があるとの研究結果が
発表された事があります。流星の中で特に明るいものを火球(カキュウ:bolide・fireball)と呼びます。
「天狗」の呼称は、明るく尾を引いて流れる姿を、狐とその尾部に見立てたのかもしれません。
昼間でも、裸眼や実視で視認可能なのは-4.0以上の等級と言われていますので、火球は-4.0等
前後以上に明るい流星と言えそうです。因みに、火星で-3.0、金星で-4.8、が最大の明るさです。
昼間の月を見ると、光っている…と言うより、白く見えます。月の通り道を白道と言いますが、
太陽光の下では、金星も白く見えます。金星の古名は太白です。西遊記にも金星を司る仙人の
太白星君が度々登場します。太陽光下で目視可能なのは月・金星と流星・彗星・超新星です。
C/1910 A1(The Great January Comet of 1910)は1910年1月に出現した彗星、確認初期時点
で肉眼目視可能な明るさを示し、ピーク時には金星より明るく、おそらく20世紀で最も明るい彗星
と言われます。通称:Daylight Comet…日本国内では昼光彗星と呼ばれたこともあるそうです。
大きな火球が出現した際、火球の光が消えてから数分後に雷の様な、或いは大砲を撃った様な
大音響が聞こえるケースがあります。稀にですが、時にガラス戸が振動で割れた事もありました。
このパターンが、おそらく上記:日本書紀舒明9年の「音有りて雷に似たり」に該当するのでしょう。
音速を上回る速度で落下する火球によって、大気の激しい波=衝撃波が生まれ、それが地表に
届いて我々に音として聞こえる現象ではないか?…と言われていますが、火球や隕石の落下時
の音響や衝撃波(ソニックブーム)は未だ完全には解明されておらず、幾つかの説があります。
また、音速は光速より遥かに遅いので、ソコに時差が生まれます。雷光と雷鳴に似た関係です。
しかし、空気の薄い遥か上空で燃え尽きてしまうと、我々には音として伝わって来ません。また、
垂直に近い角度で落下すると、仮に音が発生していても、狭い範囲でしか聞く事ができません。
日本書紀の記載での、狐が尾を引いて空を横切る様な時、火球音は耳に届き易くなる様です。
或いは、発生音の有無などで、古代の人々は火球の種類を分別していたのかもしれません。