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学研CAIスクール
中村橋教室

[2016年5月27日]

人間とネズミ

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もう30年以上前になりますが、NHKテレビで山川静夫アナウンサー司会の 「ウルトラアイ」 という番組があったのをご存知でしょうか。
人間の目に見えないものを科学の目、つまりウルトラアイで観るという科学番組です。
かなり好評を博した高視聴率の番組でした。

ある日の番組で、ベートーベンの 『運命』 はネズミの耳にはどう聞こえるか、という実験がありました。
ネズミの耳に電極を埋め込み、 『運命』 を流します。すると、ネズミの耳に聞こえたのは、私たちが聞くのと全く同じ、 “ジャジャジャジャーン” というあの 『運命』 。
つまり、ネズミにも私たちと同じ 『運命』 が聞こえていたというのです。

ここでちょっと見方を変えてみます。
その 『運命』 を聞いて感動したり勇気を感じたりするのは人間だけです。
同じ 『運命』 もネズミの耳にはただの音でしかないと、ということです。



さて、話は一端ガラッと変わります。
能楽の大成者である世阿弥の書いた古い書物に 『風姿花伝』 という能楽書があります。
能の理論書ですが、奥の深い人生論であり人生の指南書です。日本の美学の古典とも言われています。
(現代語訳版が文庫本で出ていますので、是非手に取ってみてください)

この 『風姿花伝』 の中に 「観の体」 という言葉が出てきます。
観の体とは、物事を観察する主体、つまり私たち自身のことです。
能の上達の秘訣は、能を舞う体の動きや技術といったことよりも、その人自身の心や感性が大事だと言っています。



世の中の動きはとても速い。特にITCの分野は日進月歩です。
学校で生徒一人一台のタブレットは、もはや当たり前の時代になってきました。スマホもしかりです。
しかし、機械は所詮道具に過ぎません。その道具の操作や活用技術も大事ですが、もっと大事なのは機械を扱う私たち自身だと、とみに思います。


ある中学校3年生の女子生徒のSNSを通じて知り合った人が、何と約300人いるとのこと。
もちろんファンである共通のタレント繋がりですが、その300人は、全て「友達」だと言い切るのです。
さらに聞くと、自分の素性を偽ってツィートしているとか。
恐らく相手もそうだから・・・・・と。

コミュニケーション、と言うと聞こえはいいのですが、彼女たちの世界は、虚飾の人間同士が集まっている実体のない空間、といってもいいかもしれません。
果たして、そこには相手を思いやる心や、節度、そして品性がきちんと存在するのかどうか、甚だ疑問です。

ヘイトスピーチも、ネット上の炎上も、過激発言のトランプさんも、どれもこれも耳や目をふさぎたくなるような容赦ない言葉を軽々しく発するのは、特定の相手の顔が見えないからなのか・・・・・
品性や品格はどこへ行ってしまったのか。
どうもネズミ以下の人間が増殖しているような気さえします。


ネズミと人間の違いは、耳ではなく耳の奥の 「観の体」 なのです。