[2014年12月14日]
このお話は、練馬区内の中学3年生が入院していた病院の院内学級の国語の授業で書いた作品です。
『旅の意味 葉っぱのミレディ』
――また、春が巡ってきました。
フレディたちの 「力」 のおかげで、木は前よりも、もっと大きくなっていました。
中央の一番太い幹の近くの枝に、一番初めに生まれた葉っぱがいます。
ミレディです。
すぐにたくさんの葉っぱが生まれましたが、
ミレディは、一番初めに生まれたことに、とても誇りをもっていました。
ミレディには、不思議に思うことや疑問がたくさんありました。
けれども、他の葉っぱに聞いてもよくわかりません。
そこで、思い切って、
いつもあいさつに来てくれる 「優しい声」 に声をかけてみることにしました。
「あのう・・・。」
「なあに?」
「あなたは・・・誰?」
「私は、小鳥よ。あなたは?」
「ボク、ミレディ。」
「あの、小鳥さん。ボクって葉っぱなの?」
「そうよ。葉っぱよ。大きな木の葉っぱ。」
「あと、下に見えるのは何?」
「公園よ。人間たちがやって来て、遊んだり休んだりする所よ。」
親切な小鳥は、ミレディの質問にていねに答えてくれます。
他にも、明るい光は太陽であることや、夜は月や星が輝いていること、
そして、それらは秩序正しく空を回っていること、
巡り巡る季節のこと、葉っぱには仕事があることなど、
たくさん、ミレディに教えてくれました。
ミレディは、 「葉っぱに生まれてよかったな」 と思いました。
小鳥さんは、何でもミレディに教えてくれるし、
教わったことを他の葉っぱたちに話すことで人気者になれるからです。
ある日、ミレディは小鳥に聞きました。
「ねえ、小鳥さん?」
「冬が来て、また春が来るんだったよね?」
「そうすると、ボクはどの位、また遊んだり仕事をしたりできるのかなぁ?」
「・・・それはね。」
ミレディは、小鳥さんの声が、少し小さくなった気がしました。
「冬になったら、ミレディや他の葉っぱたちはね、旅に出なきゃならないんだよ。
だから、遊んだり仕事をしたりするのは、今のうちだけなんだよ。」
「えっ?! じゃあ、ボクたちはどこに行くの?」
「最後の葉っぱの仕事をしに行くの。」
「何をするの?」
「地面に降りて、土の栄養になって、木の中に入っていくの。そして、木と一緒に生きていくんだよ。」
「それが、仕事なの?」
「木を大きくさせるお手伝いね、簡単に言うと。
今まで、たくさん遊んだり、仕事をしたりできたのは、木が生きていたから。
この木が生きていなかったら、ミレディは生まれてこなかったんだよ。
だから、そのお礼に 『自分を生んでくれてありがとう』 の気持ちをこめてお手伝いするの。
その気持ちが強ければ強いほど、木は大きくなるし、長生きできるの。ミレディもね。」
「お手伝いの旅なんだね。」
ミレディは、小鳥さんの話を聞いて、深く、深くうなずきました。
ミレディはその後、
小鳥さんから聞いた話を他の葉っぱたちにも話してあげました。
すると、やはり最初はみんなびっくりした表情をしていました。
けれども、やがてみんな、ミレディと同じように深くうなずきました。
その年の秋は、特別に美しく紅葉しました。
真紅の厳かな赤や、まぶしいほどの黄色。風のような緑に、深く落ち着いた紫、
そして輝く黄金色。
どの葉っぱも、ため息が出るほどです。
木の全体が金色の光に包まれているようでした。
そんな晴れやかな秋も、早足に過ぎていき、いつもより風が強くなってきました。
もう、飛ばされそうです。
初めはみんな、枝にしがみついて離れるのをこばんでいましたが、
「はっ」 と何かを思い出したような顔をして体を風にあずけました。
最初に離れたのはミレディでした。
今まで楽しかったことを思い出しながら
「ありがとう。」
と一言そう言って
目をつぶり、微笑みながら地面に下りていきました。
すると、
他の葉っぱたちも枝から離れる時に、
「ありがとう。」
と言いながら下りていきます。
そして、一日であっという間にみんな旅に出てしまいました。
ミレディたちが下りた 「旅先」 は、木の根の上のようです。
見上げれば、太い体。
大きさ、高さ全てに圧倒され、びっくりしました。
これだけ大きな木になるのに、どの位の葉っぱがお手伝いの旅をしているのか・・・、
それは自分が旅に出てから確認することに決めました。
やわらかい銀色の朝日が、
木とミレディと他の葉っぱたちを照らしていました。
また、春が巡ってきました。
おや?
急に木が大きくなった気がしませんか?
(おわり)
作者の女の子は、2004年11月、ミレディたちと旅立ちました。
この作品には、とてつもない命の重みと尊さを感じます。
10年を機に是非読んでいただきたいと思い、公開いたしました。