つまずきポイント 1 <1年生・2年生>
●●● くり上がりのあるたし算、くり下がりのあるひき算 ●●●
――――― 7+8= 32−15= などはスムーズでしょうか ――――
7+8 のように繰り上がりのある計算は、指を10本使っても数えられない数が出てきて、足すことで位が1つ上がるという点がわからないことが、つまずきのポイントになります。
また、繰り下がりのある計算は、10の位から数をもってきて引くという操作がわからず、つまずいてしまいます。
―――― 1の位、10の位 とは? ――――
10進法の概念、つまり1の位、10の位などの数を構成する概念が理解できないことが根本的なつまずきの原因です。
しかし、計算自体はあくまでも機械的なものです。
概念の理解に躍起になると、返って算数嫌いにしてしまいやすいので注意が必要です。
―――― まずは繰り返し解かせること ――――
それよりも、低学年の計算分野については、概念理解は後付けで問題を繰り返しやらせ、手順をしっかりマスターさせた方が賢明です。
数字の感覚が身についてくると、後から 「数のしくみ」 がだんだんわかってきます。
つまずきポイント 2 <4年生>
●●● 3ケタ÷2ケタ の割り算 ●●●
―――― おおよそ の数 で考えられない ――――
551÷29 のような3ケタ÷2ケタの割り算は、割られる数の中に割る数がいくつ含まれているか、それを見つけなければならないところでつまずいてしまいます。
見つけるには 「おおよそいくつ」 というメドをつけていく必要がありますが、この 「おおよそ」 がなかなか見つけられず混乱し、しまいには考えるのが非常に面倒になり思考が展開していかなくなってしまいます。
―――― 今まで経験したことのないジレンマを感じてしまう ――――
考え方はわかるのに、なかなか見つけられないジレンマを感じてしまい、心理的な負担も大きくなってしまいます。
(泣き出す子さえいます。)
もちろん、九九はスラスラできます。
でも、2ケタ以上となると、その数字の倍数はスムーズには出てきません。
今まで頭の中で楽に処理できていたことが限界を超えて処理できなくなってしまう、という混乱した状態に陥ってしまいます。
―――― 冷静にさせて書かせること ――――
思考回路がループ状態に入ってしまったら、とにかく落ち着かせてから掛け算の式を書かせ、割り算の 「商」 を何度も何度も根気良く計算して見つけていくことです。
一気に答えは出ない、だからに一気に答えを出さなくてよい、という気持ちで取り組ませることが重要です。
つまずきポイント 3 <2年生〜6年生>
●●● 分 数 ●●●
―――― 小学算数の大きな関門 ――――
算数の中での、 “大きな山” がこの 「分数」 です。
「分数」 がわからないまま進んでしまうと、小3以降の分野だけでなく、のちの中学数学で非常に苦労してしまいます。
―――― 実数と割合がぐちゃぐちゃになるから気持ち悪い ――――
「分数」 がどうして大きな関門なのかというと、その概念が非常にわかりにくいからです。
つまり分数には、 “実数” と “割合” が混在しているからです。
これは、整数においても実は同じなのですが、整数の場合は実感できるのでわかりやすいのです。
例えば、 「5分の3メートルのひも」 といった実数はわかりますが、 「ひもの5分の3の長さ」 のように使われるとわからなくなり、その計算になるともう混乱してわけがわからなくなってしまいます。
―――― 「1」 を分ける、という概念がピンとこない ――――
今までは、複数あるものをいくつかに分ける、という考え方で割り算を学びましたが、「分数」 は1つのものを等しく分ける、という 「1」 という数の意味と、それを分けるという概念がなかなか納得できないのです。
―――― 紙に絵や図を書いて、具体的にイメージさせること ――――
整数のように、実感できない分数の概念理解は、ひたすら図示して視覚的に理解することが極めて重要です。
例えば、 「大きな丸い1枚のピザを等分に切り分ける」、 「1本 (1リットル) のジュースをコップに等分に分ける」 など身近なものでピザやジュースの絵を書いて考えるのがいいでしょう。
その際、最終的には自分で正しい図が書けるようになることが重要です。
つまずきポイント 4 <全学年>
●●● 図 形 ●●●
―――― 得意不得意がはっきり分かれる ――――
図形に関しては、得意な子と不得意な子にはっきり二分されやすいのが特徴です。
得意な子とは視覚的なイメージができますが、不得意な子はイメージが全くと言っていいほどできないのです。
―――― 概念を理解する力とは異なる ――――
図形の分野では、よく 「センス」 という言葉で習熟度合いを評価しますが、まさに 「図形センス」があるかないかが大きな差になります。
図形問題を見たとき、そこには書かれていない補助線や補助となる図形が見える能力、そして書き足すことができる能力が 「図形センス」 です。
立体図形においては、紙に書かれた2次元で表現された立体図形を頭の中だけで、自由自在にクルクルと動かしたり、好きな場所から切り取って断面にしたり、自分の見たい角度 (視点) から3D映像として思い浮かべ、操ることができるのです。
文章で書かれた説明だけで、頭の中に立体映像が作れるというのは、まさに 「イメージ力」 そのもので、理科の天体の学習にも必要な力です。
―――― 多くは、遊びの中で養われる ――――
これは、 「空間認識力」 とも言われ、体を使って思いっきり外遊びをした子ほど身につく力です。
これらの能力は、学習の中で力をつけていくには、限界があると思います。
視覚的なパズルやクイズなど、定理や公式的なものが一切ない問題で、着眼力、発想力、推理力、注意力、拡散思考力、ねばり強さ、集中力 などの学力以外の力を総動員して考える訓練が極めて有効です。
つまずきポイント 5 <5年生・6年生>
●●● 割 合 ●●●
―――― 算数の心臓部です ――――
「割合」 は、算数の基盤といってもいいでしょう。
「割合」 ができる子は、算数が好きになります。 そして得意になります。
さらに、中学数学も全く心配ないでしょう。
しかし、 「割合」 が苦手だと、中学生そして高校生になっても相当苦労することになってしまいます。
―――― 今までの学習分野が連動しています ――――
掛け算、割り算、小数、分数、そして割合、とどこが欠けても「割合」はわからなくなってしまいます。
ですから、 「割合」 がわからない場合は、それまでに大きなつまずきがあると判断して間違いありません。
―――― 言葉の問題が大きい ――――
そもそも 「割合」 という言葉の意味がいったい何なのか、既に3年生で学んだ小数や分数で 「割合」 を勉強しているにもかかわらず、 「割合」 という言葉が出てこないので、5年生で初めて出てくる全く新しい概念だと勘違いをしてしまう子が多いのも事実です。
そして、百分率だの歩合だの、比べられる量だの元にする量だの、今まで聞いたことのない言葉や用語に翻弄され、意味が全くわからないまま、文章の中の数字をパズルのように当てはめて式をたててしまう、といったことをやってしまいます。
―――― 概念理解のポイントは 「もと」 の理解 ――――
例えば、 「お姉ちゃんはおこづかいを1500円、私は500円持っています」 という問題設定があった場合、 「お姉ちゃんのおこづかいは私の何倍ですか」 と 「お姉ちゃんのおこづかいは、私のを もと にするとどのくらいの割合ですか」 は全く同じ問題ですが、後者の方はやたら難しく感じてしまいます。
今度は、 「私のおこづかいは、お姉ちゃんの何倍ですか」 「私のおこづかいは、お姉ちゃんのを もと にするとどのくらいの割合ですか」 となると、答えが整数ではなく分数あるいは小数となるため、一気に難しくなります。
―――― 普段聞いたことのない表現に戸惑ってしまう ――――
さらに 割合の問題でよく出てくる 「私のおこづかいの、お姉ちゃんのおこづかいに対する割合は」 となると、チンプンカンプンになってしまいます。
割合の苦手な子は、この表現が出てきた時点で完全にギブアップとなってしまいます。
この 「〜の〜に対する割合」 という表現に相当な抵抗を感じてしまうため、理解しようとする前に、拒絶反応を示してしまいます。
―――― 基本的な問題で、線分図を書いてひたすら練習 ――――
「○○は□□の何倍ですか」 という一行問題で、 「もと」 がどちらなのかを、整数から初めて分数や小数に発展させて練習をすることが重要です。
そして、この 「何倍」 が 「割合」 そもののであることを納得させることが大事です。
その際、必ず線分図を書いて、 「もと」 をまずはっきり認識させることが学習をする上での必須条件です。
最後に
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―――― つまずき予備軍は、実はまだあります ――――
以上が、算数の中でつまずきやすいポイントですが、他にも 「時刻と時間」 「小数」 「がい数」 「単位量あたりの大きさ」 「速さ」 「比」 「比例・反比例」 「場合の数」 など、とても重要な分野が盛りだくさんです。
また、図形分野も今回は 「図形」 の一言でくくってしまいましたが、新指導要領への移行に伴って 「平面・空間での位置の表し方」 「対称な図形」 「合同な図形」 「拡大図と縮図」 など、単に定理を覚えて角度や面積・体積を求める問題ではなく、イメージしたり空間を認識したりする力 + 論理的な思考力が求められるようになりました。
―――― やり方を覚えるのではなく、概念理解です ――――
この様に、算数の分野は多岐に渡っていますが、ほとんど全てが連動しています (図形分野でも割合の概念が必要です。) ので、ある単元を単独で学習することは難しく、一つひとつ積み上げていかないと理解できないものばかりです。
ですから、やり方 (解き方の手順) を覚えてその時はできたつもりでも、概念理解が伴っていなければ、しばらくすると忘れてできなくなってしまいます。
―――― 「考える力」が特に必要とされます ――――
算数は覚える教科ではなく、「考える力」 そのものを扱う教科であるということです。
つまり、どのつまずきポイントでも、「考える力」 を根本的につけていかなければ、本当の学力はついてこないということです。
―――― 算数は意欲を喚起しやすい教科です ――――
しかし一方で、冒頭でも触れたように、他の教科に比べて具体的につまずきポイントが見えやすく、解決するための手段がある程度明確なので、 「頑張ればできる、よし頑張ろう」 といった意識を持てる教科であることです。
そして 「考えることが面白い、もっと考えよう」 、という最も望ましい感覚を抱ける教科であることを、最後に申し添えたいと思います。