[2013年5月28日]
古典的な物理学の解釈では、「真空」というと、本当に何もない状態とされていました。
しかし、物理学の研究が進む中で、今では量子論における真空は、何もない状態ではなく、粒子と反粒子が対生成と対消滅を繰り返すゆらぎの状態だとされます。ここでは、いわゆる力の場があり、何かの運動を引き起こすエネルギーを蓄えています。これを真空のゼロ点エネルギー(zero point energy, ZPE)と言い、粒子と反粒子が対生成と対消滅を繰り返す源とも解釈できます。
ちなみに、このゼロ点エネルギーがどれだけ真空に存在しているのかは不明で、研究者の中には、宇宙の始まりのとき、真空エネルギーが高く、それがビッグバンを招いたとの仮説を主張する人もいますが、この辺りはまだよくわかっていません。第一、ビッグバン宇宙論自体に誤りがあるのではないかという研究者もいます。
いずれにしても、完全に何もない状態から、何かを生み出すことはありません。このことは、人間の思考のヒントにもなります。
たとえば、世にiPhoneが誕生したとき、その新しさに驚きと同時にすっかり魅了され、一気に画期的なこの端末は、世界の人々のライフスタイルに溶け込んでいったわけですが、この新しさは、無から創造されたものではありません。一つ一つの技術はすでに開発されていたものであって、技術力だけを切り取れば、日本の企業だって先行して誕生させられたはずです。しかし、重要なことは、この一つ一つのパーツの組み合わせによって、世界をあっと驚く新しさを演出したことです。
考えてみれば、すでに存在する部品自体に新しさなどありません。ところが、無数の部品を組み合わせることは無限大にも等しいともいえ、この組み合わせの工夫こそが、新しさだとも解釈できます。
ここでやはり申し上げたいのは、空っぽの状態で何かを誕生させられないという事実です。真空にだって、ゼロ点エネルギーなる力の源があります。
そうすると、人間の脳においても、いくつもの情報の部品を受信しておくことが必要です。この無数の情報を幾通りも組み合わせることで、無限大の解釈、無限大のイマジネーション、無限大の創造物が生まれるはずです。
したがって、際限ない可能性を秘める子供たちには、上手に知的好奇心をくすぐることで、多くの情報を受信してほしい──と心底願います。簡単に言えば、本を読むこと、自然現象や人間の営みを観察することです。もちろん豊かな情報収集能力も大切でしょうが、分析力、解釈力なども駆使して、後は右脳的ひらめきの力も借りてこそ、何か新しい発想を生み出せるはずです。