[2013年6月15日]
「表現のしようがない美しい瞬間でした。とても単純で、とても優雅で。どうしてずっと気付かなかったのか、自分でもわからず、二十分ほど、じいっと見つめていました──」
少しだけ言葉を継いだ後、アンドリュー・ワイルズは、たまらず絶句しました。あのときの感動がよみがえり、平常心を失ってしまったからです。
BBCテレビの特別番組の一場面です。
350年もの間、何人もの天才数学者たちの挑戦をしりぞけてきたのが、このフェルマーの最終定理です。
そうしてついに、完全に証明してみせたのが、アンドリュー・ワイルズでした。
ただ実は、世界が驚く完全証明に至るまで、大きな苦難が待ち受けていました。数論の天才ワイルズは突然世間から姿をくらまし、それから7年後、颯爽と表舞台に出てきます。何と、フェルマーの最終定理が解けたというのです。
ところが、慎重な審査の結果、重大な欠陥が見つかり、ワイルズはその欠陥を修正せざるをえなくなります。ですが、これが一筋縄には行きません。若い数学者リチャード・テイラーの助けを得ても、これが解けません。
誰もがやはりフェルマーの最終定理を解くことは不可能なのではないかと考え始めたとき、ワイルズは、あの奇跡の瞬間に立ち会います。ワイルズの言葉を借りると、まさに、「表現のしようがない美しい瞬間」です。
あまりに壮大すぎる感動がここにありますが、常人だってこれに近い学問の感動を味わえます。
「見えた!」「解けた!」という、世界がぱあっ!と見える感動こそが、学問最大の魅力です。
ぜひとも、知的好奇心のかたまりでもある子供たちに、どこまでも突き抜けた学問の感動を知ってほしい――と願います。