[2013年12月5日]
どうしても若いうちは自己愛が強いため、自己肯定に陥りがちになります。はなから人の意見に耳を貸さず、根拠のない自分の思いを尊重したがるのが、典型的な鼻っ柱の強い若者です。
こうした狭量さを改善することもまた教育の一つであって、だからこそ、自己肯定型とは対極の位置にある生徒像は理想の形です。どこまでも成績向上を突き詰める模範生の特長は、正しい指導法をすぐに飲み込める吸収力と寛容さにあるのではないでしょうか。とにかく情報受容センサーが鋭敏で、受信能力と論理的思考力に優れているといえばよいでしょうか。
そもそも、論理とは、決して一元的に判断するものではなく、仮に、どう考えても受け入れがたいアンチテーゼであってもいったんはこれを肯定し、自分の判断が間違っているのではないかと仮定することも欠かせません。
もしもこの一見受け入れにくい仮定を立てたとして、元の自分の論と相対的に比較して、やはり、自分の論が正しいと導けるなら、それは正論といえるかもしれません。
しかし、多くの意固地になりがちな人間は、行き過ぎた感情が早合点し、近視眼的な自己肯定に偏っていることが多いのではないでしょうか。そして、何事も感情が走り、いつだってこの収まらない感情が本質論まで押しのけてしまいます。
当然この軋轢を生む感情こそが、自己の潜在的な素質へブレーキを思い切り踏み込ませてしまいます。知らず知らず本来備えている豊かな才能をつぶしているのが、まさか誰よりも自己の幸福を求めるはずの自分自身なのです。
またさらにたちが悪いことに、この若者が社会へ出た時、組織というチーム運営の中にあっても、見苦しいくらいに感情論を取り散らかしてしまい、チームの同僚たちを混乱に陥れることだってあるでしょう。最悪は、この自分の幼さが原因となり、チームのムードを消沈させ、それどころか、これは極端な例ですが、チームの誰かを人柱に立て、自分の感情ばかりをどうにか収めようと躍起になることだってあるかもしれません。
行き過ぎた例を挙げてみましたが、この他にも、日本では、是々非々の判断が排除され、凝り固まった権威主義が横行するなど、本当に昔話のような組織運営が展開しているようです。
一方で、世界はずっと先へ進んでいます。たとえば、世界をリードするグーグルの場合、その採用基準のひとつに、一緒に仕事をして愉しい人間であるかどうかというものがあります。
先の話の真逆をいっている話です。オープンコミュニケーションが求められる時代にあって、チーム全体でクリエイティビティーを発揮することが求められるので、頑固な職人気質など通用せず、グーグルの採用基準にもあるように、人の気持ちに好影響を与える能力はとても重要だそうです。
どんなに忙しい環境にあっても気持ちの切り替えができて、言葉が軽やかでノリがよく、ネガティブを排除し、チーム全体で仕事を愉しもうとセルフコントロールできる力は、まさに仕事人の技術です。この優れた技術を持つ人間こそが、成果を重んじる組織において最も必要なのではないでしょうか。
シリコンバレーのベンチャーキャピタリスト:ロジャー・マクナミーもまた、組織で仕事をする上で、「好きな人と働かなければならない You have to work with people you like.」と表しています。あっさりとした表現ですが、組織の成果を高める上で、これは箴言です。
目下、大学受験の推薦入試、AO入試の対策授業を推進していると、旧態依然たる日本的仕事観と、世界の主流となる仕事観との差を説明することが多くなっています。こうして、生徒への指導を通し、ここ数年のうちに見る間に変わる世界の在り方を実に痛感します。
古き良き時代のノスタルジーに駆られるよりも、未来の変化の波をとらえ、劇的に変わる世界の中にその身の置き方を考えるべきでしょうが、若者ばかりに押し付けるべきではありません。教育者こそ、決して他人事とはせず、世界基準を採用すべき時代です。