[2017年11月1日]
教育ニュース
日本の子供たちの読解力低下が懸念されている。経済協力開発機構(OECD)が昨年12月に公表した国際学力調査の結果では、15歳の読解力が4位から8位に順位を下げた。文章や資料を読み解く力がないと、深く考え、自分の考えを表現することは難しい。読解力向上には何が必要なのか。
埼玉県戸田市の戸田第一小学校で27日、公開授業が行われた。3年1組の約30人は値段が書かれたケーキの絵を見て、足し算やかけ算の計算式を考え、それに合う問題文づくりに挑んだ。「問題文を自分で作ってみることで、文章題の理解が進む」と担任の坂野ばんの武教諭(38)は語る。こうした授業に取り組むのは、問題文をきちんと読めない子供たちがいるためだ。
戸田市は昨年2月、人工知能(AI)の研究で知られる国立情報学研究所の新井紀子教授らと、市立中6校の生徒計340人の基礎的な読解力を測るテストを実施した。その結果、4人に1人は問題文を正確に読めていなかった。問題によっては正答率が半分程度やそれ以下のケースもあった。
同市の戸ヶ崎勤教育長は「教科を教える前に、文章の内容が分からない生徒がいるというのは衝撃的だった」と振り返る。
これまでも現場の教員に漠然とした不安はあった。普段のテストでも答えを何も書かない子たちから「問題で何を聞かれているか分からない」という声が出ていたからだ。同市は昨年8〜10月にも小6〜中3に同様のテストを実施。現在、どの学年で読解力に差がつくのか、分析を進めている。
大学生の読解力もおぼつかない。学生の劣化を指摘する著書がある音真司氏が講師を務めた私大では、読書をする学生は少数で、3年でゼミに入るまで図書館に行ったことがない学生もいた。音氏は「試験やリポートではSNS※や日記のような文章を書いてくる。文の構造を理解せず、考えも整理できない」と話す。
2004年公表のOECD調査でも読解力は8位から14位に急落し、危機が叫ばれた。これを受け、文部科学省は05年に読む力と書く力の向上を掲げた「読解力向上プログラム」を策定。学校現場では授業開始前の時間を読書に充てる「朝の読書」などが活発化した。
その後、学習内容を増やした「脱ゆとり教育」の効果もあり、日本の読解力は回復傾向が続いた。しかし、最近はSNSの普及に伴う短文のコミュニケーションが若者の間で急速に広がり、長文を読んだり、書いたりする機会は減っている。
文科省は今回の結果を受け、語彙ごい力の強化や文章を読む学習の充実を掲げた。20年度から実施する新学習指導要領にも反映させる。
05年当時、文科省のプログラムに沿った指導法を研究した高木展郎のぶお・横浜国立大名誉教授は「現代に求められる読解力は、思考力や判断力、表現力に通じる力だ」と指摘。「向上には新聞の社説のような論理構成の文章を書き写し、自分の意見を書くことが効果的だ。読書もただ本を楽しむのではなく、『読んでどう考えるか』という学習にしないと読解力は育たない」と指導の転換を求めている。
SNS※ ソーシャル・ネットワーキング・サービスの略。LINE(ライン)やツイッターなどがある。利用者は短い文章をインターネット上に投稿し、近況を伝えたり、互いに情報交換したりできる。