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加藤学習塾
【岡山県岡山市の進学塾】

[2018年4月17日]

『卒業写真』 荒井由美

『卒業写真』 荒井由美

悲しいことがあると
開く革の表紙
卒業写真のあの人は
やさしい目をしてる
街で見かけとき何も言えなかった
卒業写真の面影がそのままだったから
人ごみに流されて変わってゆく私を
あなたはときどき遠くでしかって
話しかけるようにゆれる柳の木の下を
通った道さえ今はもう
電車から見るだけ
あの頃の生き方を
あなたは忘れないで
あなたは私の青春そのもの
人ごみに流されて変わってゆく私を
あなたはときどき遠くでしかって
あなたは 私の
青春そのもの

荒井由美、1954年生まれ。2013年には紫綬褒章受章。川端康成はかつてこのように述べています。…日本の物語文学は「源氏」に高まって、それで極まりです。(中略)俳諧は松尾芭蕉に高まってそれで極まりです。(中略)それらの追随者、模倣者、亜流ではなくても、後継者、後来者は、生まれても生まれなくても、いてもいなくてもよかったようなものではないでしょうか。…と。康成の文脈によれば、詩はおそらく、「万葉」と「古今」をもって極まったのでしょう。荒井由美が書いているのは「詞」と曲です。最近のインタビューに彼女はこう答えています。「私は歌を作るときに、ストーリーやキャラクターを描きたいのではなく、匂いや湿度、切なさといった目に見えないクオリアを描いてきたつもりです」。彼女はやわらかな日本語を音にのせる達人だと私は思うのです。彼女のDNAはやまとうたの系譜を受け継いでいるのではないかと感じます。さて、川端康成はなんと言うでしょうか。