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加藤学習塾
【岡山県岡山市の進学塾】

[2012年8月19日]

全体像を示し得ないものに、安心してはいけない!

全体像を示し得ないものに、安心してはいけない!


大阪市教委、小中の校長50人を公募 橋下改革の一環
(2012年8月7日 朝日新聞)


○大阪市立小中学校の校長を原則公募とする「市立学校活性化条例」が市議会で7月に成立したことを受けて、市教育委員会は7日に会議を開き、来春に退任予定の約50人(小学校約40人、中学校約10人)を公募することを決めた。


○校長公募は競争による人材確保を掲げる橋下徹市長が導入をめざしてきた。内部の教員のほか、民間企業や官庁で管理職クラスの経験を持つ人の応募を想定している。任期は来年4月からの3年間。募集期間は今月13日〜9月10日で、年内に書類選考と面接を実施、研修を経て4月から着任の予定。


私のコメント


◇今回の記事は、大阪市が、民間校長を50名、来春から誕生させようとしているという記事です。大阪市の小中学校の数が、約420校ですから、10%以上の学校長が民間からの登用になるということです。これは、大きなことです。


◇確かに、教員の世界には、問題があります。今年の家庭訪問でわが家にも、ガムを食べながら、学校の先生がやってきたそうです(家内が対応したので、私は直接は見ていません)。常識では考えられないことをしてしまう、不埒な先生がいることは承知しています。民間では考えられないようなことを仕出かす先生がいます。


◇しかし、だからと言って、一時的にこんなに大量もの民間校長を導入して、何か良いことでもあるのでしょうか。


◇教員上がりの校長と民間校長を競争させて、教育を活性化しようという意図なのでしょうか。たとえそうだとしても、大きな疑問が私の中には残ります。
一つは、学校の先生のキャリア形成の面で。もう一つは、その施策を行うことでどういう学校像になっていくのか。


◇まずは、先生のキャリア形成に関してですが、今のような紙面上のメリトクラシー(教頭試験にただ合格すればよいようなもの)ではなく、真摯に子どもたち・保護者と向き合おうと頑張る教師を学校長が評価するような形を加味して、上昇していくような仕組みに再構築すること。そして教員としてのキャリア形成の目標に学校長があるような構造を作ることが、必要ではないかと思います。


◇日々の教員の努力を評価して、学校長まで登っていくキャリア過程が、教員の勤労意欲を高めていくことになるのではないでしょうか。そうした中で、民間の校長が、横から何の脈略もなく、入り込んでいくことに、私は不安を覚えるのです。


◇学校の先生は、どういうステージを目標にすればよいのかと。民間校長も常態化しないで、緊急性のある時期だけというのであれば、まだしも、今回のように、大量の採用になるとすれば、それがどんどん広がっていく可能性があるのですから、常態化するかもしれず、そうなった時に、先生方の長年の頑張りに水を差すことになるのではないかということです。


◇現場を支えた先生方で、特に優秀な実績を上げた先生に報いるシステムを作ることが先決ではないかと思います。


◇次に、今回の記事で、不安になるのは、民間校長の登用が、どういう学校像を作るのかということです。先のことにも関連するのですが、学校をどんなところにしたいのでしょうか。


◇学校は子どもたちの多様性を担保しながら、子どもたちが成長していく場です。だからこそ、競争原理は、合わないところなのです(競争をすればするほど、画一的な価値観が蔓延します)。こんなことは、随分前から言われていることですが、それが、どんどん消えていって、今では、競争原理に則って、学校を運営しようとする風潮があります。


◇民間で活躍した人間は、ある一元的な価値によって活躍した人間ですから、明確に学校をどういう風にしたいのかを提示しないと、学校に存在する多様性が、消えていってしまうのではないでしょうか。私としては大きな不安があるのです。


◇過激な施策は、こんな混迷した時代ですから、うけるはずです。それは、時代が証明していることですが、私たちは、過激な施策であればあるほど、全体像に関心を示すことです。一過性の刺激は、最終的には毒になるだけです。
全体像を明示しない治療に、私たちは、何も任せてはいけないのです。