[2013年11月10日]
教育ニュース
中学受験直前! 過去問演習の効果的な学習法とは?
○得点率を上げる過去問演習 その1
12月と1月は、受験勉強の仕上げの時期と言われるのだが、実際は仕上げ以前の状態であるケースが大半である。この時期には苦手科目の対処法について「苦手科目を短期間に平均レベルまで引き上げる方法はありますか?」といった相談が多い。短期間に苦手科目を「得意科目」にすることは難しいが、ご質問のように「平均レベルまで」引き上げることが正しい処方だし、また可能なことだ。
苦手科目を科目→分野→単元のように細分化していくと、多少得意なところと本当に苦手なところがあるはずだ。過去に受けた模試や過去問の結果から、どこが本当に苦手かわかるだろう。苦手科目の中で、本当に苦手で、しかも志望校に頻出する分野または単元を決めて、これまで使ってきた塾のテキスト等で集中して学習し、演習して定着させる。この学習を2週間ほどの短期間に行い、演習は3回繰り返す。2回目以降は間違えた問題のみを解くことでスピードを上げる。<マトを絞って繰り返す>ということに尽きるのだが、上記の繰り返しで問題を見ただけで解法が浮かぶ、というところまで完成度を上げたい。
「短期間に得点をアップさせるならばどの科目に力を入れるべきでしょうか?」という相談も多い。算数や国語と比べ理科・社会は短期間に得点をアップさせることが容易である。理科・社会の得点が低い人は、苦手意識を持っていると思う。理科・社会が苦手になる原因から考えてみよう。算数や国語に時間を取られて学習していないケースや、理科や社会が嫌いなので手をつけていないケースが実は多いのである。また、単に暗記することが苦手で、知識が不足しているケースも多い。この年頃は物語を記憶する力が強いので、社会にしても理科にしても、練ったストーリーをすぐれた指導者に教えてもらうことである。飛躍的に記憶力と解答力がつくものである。
得意科目を学習するのであれば、子どものモチベーションは下がることはないが、苦手科目となるとモチベーションは下がるのが普通だ。いかにモチベーションを向上させて、苦手科目に取り組ませるかが成功の鍵となる。まず、子どもが「どんなに得意科目でがんばっても苦手科目で足を引っ張っては、志望校には合格できない。受験は総合得点だが、得意科目はすでに得点が高いので、それほど総合得点を伸ばすことはできない。むしろ得点が低い苦手科目を誰でもできるレベルまで伸ばすほうが楽だ」ということを納得させる。できれば、本人が苦手科目に立ち向かう気持ちになるよい指導者をつけることだ。
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○過去問で付けたい力……付く力
6年生の受験生は、今盛んに過去問演習を実施していることだろう。演習をやることにより、新たな発見をしている受験生も多いと思う。今月は過去問を行うことで、「付けたい力」や「付く力」についてお話したい。
初めて過去問を解いた受験生がよく口にするのが、「時間が足りなかった」という言葉である。ところが演習を重ねていくと、不思議なことに「時間が足りない」ということが徐々に少なくなっていくはずだ。何故か? それは、志望校の問題量と制限時間が経験的に体に刻まれて、時間配分ができるようになってくるからである。各学校の問題数や問題の位置は毎年だいたい同じなので、その配列に慣れた受験生は、自分のペースが速いのか遅いのかを試験中に把握できるようになっていく。ペースがわかれば、どこかで時間をとられてしまったら、他でペースを上げて全体としては時間内で試験を終わらせるような「調整」ができるようになるのである。
時間内に終わらせるためには、「できない問題は後回しにする」という見切りも重要である。いわゆる「ステ問」であるが、この時期にはほとんどの受験生ができるようになっているであろう。ステ問とは「捨ててよい問題」のことを指すが、初めて耳にした時は「試験に捨ててよい問題なんてあるの?」と思われたかもしれない。
しかし入試問題は高得点が取れないように工夫されている場合も多く、難問や完全解答が難しい問題も混ざる。合格者の平均点がだいたい6割強になるように作られているのが一般的な入試問題であるから、受験者は高得点を狙う前にいかに合格者最低点をクリアするかを考えるべきであろう。
そこで合格へのわかれ道になるのが、この「ステ問」の処理である。捨てるところは捨てる、拾うところは拾うという感覚を養う必要がある。お子さまの「ステ問」に対する扱い方もだいぶ上手になってきているとは思うが、「あと2、3点、拾えた可能性はなかったか?」を常に確認する必要はある。それだけでも、本番で何点か上乗せできる可能性は出てくるであろう。
「時間配分」や「ステ問」の処理が上手なお子さまは、試験で自分の実力を十分に発揮できる生徒と言える。物事を的確に、しかも時間内に終わらせるというこれらの「処理する力」はどんな試験でも重要だが、女子学院や慶応などを志望する受験生は特に付けたい力だ。過去問演習で鍛えたい力の一つと言える。
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○過去問で付けたい……整理する力
過去問演習で付けたい力の一つに、「整理する力」がある。この力は与えられた条件をうまく整理する能力であり、問題を解く前の「準備」と言ってもよいであろう。ただし「準備」と言っても、これがなかなか難しい。「準備」の上手・下手により、解ける問題も解けなくなってしまうのだから非常に重要なステップと言える。
たとえば国語の記述問題でも、この「準備」する力が重要である。特に文字数が100字を超えてくると、「何を」「どのように」書くのかを的確に準備していないと、書き上げたものが書きたかったものとズレてしまい、減点の対象になってしまう。下書きの用紙を配布する学校もあるが、おそらく完全に下書きをする時間はないだろうから、簡単なメモで済ませることになる。
また社会の記述でも、書きたいことやそれらをどの程度詳しく書くかを、事前に決めておく必要がある。
算数でも「準備」は非常に重要である。問題が難しくなればなるほど、準備の善し悪しによって問題が解けなくなってしまうことがある。その理由は、算数や数学における「解法の手順」を考えてみればよくわかる。たとえば算数や数学の「解法の手順」を、以下のように単純化して考えてみよう。もちろん問題が複雑になれば、この手順をくり返す必要はあるが、多くの場合、以下の手順で問題を解いているはずである。
1.条件整理 → 2.着 目 → 3.方 針 → 4.計 算
1.条件整理:与えられた条件を整理するステップ。
問題理解のために、線分図や図表などを使う場合もある。
2.着 目:整理した条件や線分図などを見て、解法の「糸口」を見つけ、そこに着目するス テップ。
3.方 針:公式やその単元に特有の考え方(図の性質など)を使ったり、式を立てたりする
ステップ。
4.計 算:立てた式などを計算して、答えを出すステップ。
多くの問題では「条件整理」は作業であり、「着目」のステップこそが問題解法のポイントであると言える。ただし、難関校になればなるほど、「条件整理」も解法のポイントになる問題を出す場合がある。たとえば「立体の切断」の問題で複雑な切断の場合は、切断面の状況を的確に把握するのが難しいが、それができなければ次のステップに進めないのである。あるいは非常に長く、かつ複雑な文章題の内容を理解し、場合によってはその図を描くというのもこの「条件整理」のステップと言える。このように、難関校の問題は「条件整理」が難しい場合があるので、過去問演習で十分にトレーニングすべきであろう。
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○過去問で付けたい……組み立てる力
先週お話しした「解法の手順」で考えるなら、「組み立てる」はほぼ「方針」のステップにあたる。つまり公式やその単元特有の考え方を使ったり、立式したりするステップである。
ところで実力のある生徒とそうでない生徒では、このステップにおける状況はかなり違っている。できる生徒であれば、このステップではすでに答えが見えているのである。「見当を付けている」と言ってよいだろう。だから計算の結果出てきた答えが予想と違う場合、「なんか変だな?」という感じを受ける。そんな場合は、正解でない場合が多い。
これに反して、あまり実力のない生徒は、だいたいどんな答えが出てくるか予想が付かない。計算が終わって出てきた答えを見て、初めて「こんなものか」ということになる。この差は実に大きい。
「見当を付ける」ことができれば、解法が途中で間違えた方向に行き出したとしても、すぐに「おかしい」と気付いて修正が可能になる。しかし「見当を付ける」ことができなければ、妙な答えが出ない限りはそうとは気が付かないであろう。このように「見当を付ける力」は、「組み立てる力」のなかでもかなり重要な能力であると考えられる。
「見当を付ける」のは、早い時期から練習しておくとよい。たとえば「求める角度はだいたい60度くらいかな」と意識しながら答えを出すということである。ただし「三角形ABCの三辺は同じ長さのように見えるから、正三角形である」というのはもちろんいけない。本当にこんなことをする生徒がときどきいるので念のため付け加えておく。
「見当を付ける」ことは、国語でも重要な力である。たとえば、国語の問題で「文明・文化」について書かれた論説文を読んだとする。その際「文化を駆逐する文明を批判する」という筆者の主張を、読み終えてから初めて理解するのではなく、「文明は自然をむしばむから批判されるだろう」とか、「もしかしたら、文明を多少は肯定するかもしれない」など、読み進めながら筆者のイイタイコトを予測するということだ。このような力を身に付けることで、問題文に対する理解を深め、さらに読むスピードを速くすることができる。
なお過去問演習の実施後、採点前に「今回は何点くらいとれた」という見当を付けることも重要である。予想点と本当の点数がある程度一致しているということは、何もわからずに解いているのではなく、十分に理解しながら問題を解いていることになるからである。これも大切なポイントであると言えよう。
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○知識をくっつける
「過去問で付けたい力」ということで、「処理する力」「整理する力」「組み立てる力」について今月は話してきた。それぞれ大切な力であるが、もう一つ大切なことがある。それは「3つの力」の基礎になる「知識」についてである。
お子さまが受験勉強を始めてから、塾の授業や自宅での演習をとおして多くの知識が蓄積されてきたと思う。ほとんどが新しい知識であり、体系的な知識というよりも「一対一対応」の知識として教え込まれた場合が多いだろう。「一対一対応」の知識というと、たとえば「社会の年代の暗記」などがすぐに思い浮かぶ。詰め込み教育の典型のように感じるが、勉強を始めたばかりの段階では知識が少ないのである程度は仕方ない。しかし今まで単独に教え込まれてきた知識が、ある時点から急激に「くっつき」始め、知識体系と言えるものが作り出される場合がある。おそらく過去問演習では、多少なりともそのような経験をする受験生が多いと思う。
過去問演習では、今まで断片的であやふやだった知識がそれぞれつながることで、より明確な全体像が現れることがある。「なんだ、そうだったんだ!」と思える瞬間である。過去問演習を実施することで、今までの知識が体系化される理由としては、問題演習をとおしてさまざまな面から問われるということである。知識は理解すべきものだが、単に覚えるだけでは本当に理解したことにはならない。いろいろな面からの質問に答えられて、初めて理解したと言うことができる。さらにその知識を人に説明したり、教えたりすれば理解を増すことができる。記述形式の問題が解きにくいのは、より深い理解が必要な場合が多いからである。
2学期から試験直前までは、過去問演習を行うことでさらなる知識がどんどん入り、今までの知識と結びついて知識体系が急激に構築される。たとえば過去問演習で読む国語の論説文では、今までに知らなかった知識が大量に入ってくる。その知識のなかのいくつかは、科目の枠組みを越えて既存の知識と結びついていく。「なるほど!」と大いに納得してもらいたい。これが本来の勉強であるとも言えるが、実は上位校の難問に対応するのにも役立つ場合が多い。
このように体系的な知識を構築してもらうのは非常に良いことなのだが、漠然と演習していても効果は薄い。よりしっかりとした知識体系を構築するためには、学習するにあたって求められる態度がある。それは新しく得た「知識」と今まで得た「知識」を、「比べる」ことである。「比べる」ということは「考える」ことである。新たな知識を得たら、その「意味」を考えることで、既存の知識体系に取り込むという作業が必要なのである。
「学びて思わざれば則ち罔(くら)し。思いて学ばざれば則ち殆(あやう)し(孔子)」という言葉があるが、まさにこのことであると思う。