[2014年1月26日]
目指すのは米国型入試? 日本で本当に可能か
Windows(R)で有名なマイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏(ハーバード大学卒)が、もし日本の高校生だったら絶対に東京大学に合格できなかったというのは、大学入試改革の論議の際によく使われるジョークです。政府の教育再生実行会議が、1点刻みの点数を争う大学入試から、能力・適性・人物などを総合的に評価する大学入試への転換を打ち出したことにより、大学入試改革の議論が本格化してきました。日本の大学入試は今後、どうなるのでしょうか。
同会議の第4次提言(外部のPDFにリンク)では、1点を争う大学入試センター試験に代わり、年間複数回受験できる「達成度テスト(仮称)」である程度の学力レベルを大まかに判定し、大学の個別入試では小論文や面接など多様な方法で評価するという案が提案されています。これについて多くの大学関係者は、米国の大学入試制度(外部のPDFにリンク)がモデルとなっていると見ています。同会議は、一発勝負のテストに強い秀才タイプより、ゲイツ氏のような創造性と行動力のある人物が高く評価される大学入試に変えたいと思っているようです。
では、米国の大学入試はどうなっているのでしょうか。米国には原則として大学ごとの入学試験はありません。年間7回実施されるSAT(大学進学適性試験)などの全国統一テストの成績、高校の成績証明書、スポーツなど学業以外でどんなことをしていたかを記した履歴書、「エッセー」と呼ばれる志望理由などを書いた自己紹介文(有名大学では特に重視されるため、志願者は作成に高3の1年間を費やすそうです)、高校教員や志願大学卒業者らの推薦状、経済能力証明書などを総合的に判定して、各大学に置かれた大学入試事務局の専門職員が数か月かけて選抜します。入試の専門職員は、日常的に有名高校などの優秀な生徒を面接して回ったり、全国的な学術コンクールの入賞者などをスカウトしたりしています。多いところだと数千人規模の受験生を一度に試験して、1週間程度で合否を決定する日本の大学入試とは、労力のかけ方が基本的に異なるのは明らかです。
米国でもこのような入試をしているのは、有名私立大学や上位の州立大学などに限られ、単純に統一テストの成績や高校の成績証明書だけで選抜するという大学も少なくありません。経費や人手をかけた入試は「エリート大学」だからできるという面もあります。もし教育再生実行会議が提言した新たな入試制度が実現しても、経費や人手などの問題から実際に導入できるのは国公立と一部私立にとどまる可能性も高いでしょう。
しかし、それよりも重要なのは、大学入試に関する考え方の違いです。優秀な人材を選ぶことを重視する米国の社会には、多様な志願者を同一基準で判定する必要はないという考え方が根底にあります。一方、日本の社会は入試の平等・公平に極めて敏感です。「人物重視の結果、不合格」と言われて、受験生や保護者は耐えられるでしょうか。今回の大学入試の改革は、こんな日本社会の価値観の転換を迫ることも意味しています。