[2010年2月9日]
コラム
願い= 強くなれ 優しくなれ 幸せになれ
わたしのすべてのさいはいをかけてねがう
( 宮沢賢治『永訣の朝』より)
ちょっと想像してみて下さい。自分の命が残りわずかだと知ったとき、自分だったら残された時間をどう使うだろうか…。生徒の皆さん、皆さんの中で、その残された時間を自分のためではなく、自分以外の誰かのために使おうと思った人はいますか?一方で、保護者の方々の中には、子供のため・家族のために使おうと思われた方もおられるのではないかと思います。そうした発想があること、それが無理なく自然であることが、親であり、大人であるということなのだと思います。
次のページに紹介する「ふたりの子供たちへ」という文は、『飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ』という本から抜き出したものです。この本の著者である井村和清さんはお医者さんなのですが、右膝に悪性腫瘍を発症し、転移を防ぐため右足の切断をします。しかし、肺に転移して命が助からないとわかったとき、彼は残された時間で本を書くことを決意します。今までにお世話になった人たちに、そして何より子供たちのために。この時点で彼には、飛鳥ちゃんという女の子がいて、もう一人お母さんのおなかの中に子供ができたことを知ります。本のタイトルである『飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ』はここから来ています。この本の壮絶さは、出だしすぐに「あとがき」が来ていることからも感じ取れます。いつ命の終わりが来るかわからないためです。映画化されたものを見ると、最後の方は自分で書くこともできず、彼の話すことを奥さんが書き取るといった様子であったようです。そしてこの「ふたりの子供たちへ」は、彼が最も書き残したかったものであると、私は思います。残されるふたりの子供たちの「幸せ」を祈り、そのためにまわりの人を思いやる「優しさ」と、倒れても自分の力で起きあがる「強さ」を持つよう訴えています。
私たち塾講師も、保護者の方の思いにはとてもかなわないけれど、皆さんの幸せを願う者のひとりです。学力の面のお手伝いはもちろんですが、人間形成の面できっかけを作っていくことができたらと思っています。限りある期間の付き合いの中で、強さや優しさといった、自分自身やまわりの人を幸せにできる力を身につけてもらえたら、そして塾を巣立った後の長い人生を幸せに送ってもらえたら、そう願っています。
そして中学3年生の皆さん、公立一般入試まで残り1ヶ月となりましたね。皆さんは今、高校という進路を実現すると同時に、自分自身やまわりの人を幸せにする力も身につけているのだと思います。目前の入試にきちんと向き合い、取り組むことで、困難に立ち向かう「強さ」を育てましょう。またその取り組む姿が、保護者や先生などの心配を軽減すことになり、さらに友達に良い刺激を与えるなど、まわりの人を思いやる「優しさ」にもつながります。一生の中でも指折りの大切な時、前向きな気持ちで、より良い1ヶ月間となるよう、取り組んでいきましょう。