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加藤学習塾
【岡山県岡山市の進学塾】

[2016年4月1日]

教育ニュース  初等中等教育の今後

教育ニュース

初等中等教育の今後

 かつては多くの国から「日本の初等中等教育の水準は世界一」などといった賛辞を受けたことがある。それが現状はどうか。児童生徒の自己肯定感や主体的に学習に取り組む態度、社会参画への意識などが国際的にみても相対的に低いなどの調査結果もあり、果たして?世界に誇れる初中教育?と胸を張れるだろうか。

 現状に危機感を抱いた政府は、平成25年6月に第2期教育振興基本計画(平成25年度~29年度、教育基本法に基づき策定)を閣議決定。初中教育に対しては「今後5年間に実施すべき教育上の方策」として、4つの基本的方向性に基づく8つの成果目標と30の基本施策を掲げた。

 これを受け、中教審初等中等教育分科会(小川正人分科会長)では3月8日、同基本計画をフォローアップする会合を開き、計画の8つの成果目標のうち、「特に関係が深い」と考えられる4つの成果目標の現状と課題を審議した。4つの成果目標とは、(1)「生きる力」の確実な育成(2)新たな価値を主導・創造する人材、グローバル人材等の養成(3)意欲ある全ての者への学習機会の確保(4)安全・安心な教育研究環境の確保――である。

 これらの成果目標のうち、最も多くのページを割いているのは、(1)の「『生きる力』の確実な育成(幼稚園~高校)」。「生涯にわたる学習の基礎となる『自ら考え、行動する力』などを確実につける」ことを目指し、「国際的な学力調査でトップレベルに」「いじめ、不登校、高校中退者の状況改善」などを掲げ、具体的には、道徳教育の推進、教員の資質能力の向上などをあげている。

 (2)の「グローバル人材の養成」では、「英語力の目標を達成した中高生の英語教員の割合増加」「日本人の海外留学者数・外国人留学者数の増加」などを掲げ、具体的には、高校段階における早期卒業制度の検討などをあげている。

 (3)の「意欲ある全ての者への学習機会の確保」では、「家庭の経済状況などが学力に与える影響の改善など」を掲げ、具体的には、低所得者世帯の高校生等の就学援助の充実、挫折や困難を抱えた若者の学び直しの機会の充実などをあげている。

 (4)の「安全・安心な教育研究環境の確保」では、「学校施設の耐震化率の向上」などを掲げ、具体的には、防災教育など学校安全教育の推進などをあげている。
 以上、4つの成果目標による各種施策を総花的に紹介したわけだが、これらの施策を並行して推進することは、財政面などの面で実効性のある果実は期待できない。同初中教育分科会は、重点的な施策の優先順位を設定し、具体策を講じる必要がある。
 例えば、今日の初中教育の最大の懸案事項となっている「いじめ」「不登校」問題への対応である。同基本計画による具体的方策では、「いじめや暴力行為などを未然に防ぐため、道徳教育、人権教育、体験活動などの推進、非行防止教室の開催などの取り組みを促進する」「問題行動を起こす児童生徒に対しては、出席停止や懲戒などの措置も含め毅然とした指導を促す」などの施策を打ち出している。ただ、これでは従来の施策とそれほど変わらず、抜本的な解決策にはほど遠いものがある。

 いじめによる自殺事案が解消されない中で、「人間の命」の軽さが問題視されている状況がある。それを克服するのは「教育の力」であるはずだ。「人間の命」の重さを最優先するような方策を中教審のフォローアップ会合では期待したい。

英語の4 技能について

 文部科学省が中学校・高校の英語教育で目指しているのは、「4技能の総合的な指導を通して、これらの4技能を統合的に活用できるコミュニケーション能力の育成」である。しかし、4技能を総合的に育成する方法は、多くの英語教員にとって自明のこととして確立されているのだろうか。文部科学省は、4技能がバランスよく育成されているかを測ることを目的とした英語力調査を実施した。最新の結果速報が公表された(2016年2月)が、いずれの技能も文部科学省が目指す目標には届いていない現状が明らかになった。

 今回、教育総合研究所が実施した「中高の英語指導に関する実態調査2015」では、現在の中高の英語指導の実態とともに教員の苦悩が浮かびあがってきた。そこには、「4技能の総合的な育成」のための指導をしたい気持ちとは裏腹に、なかなか実行に移せないジレンマが垣間見える。多くの英語教員はその指導に悩みを抱えているようである。

「4 技能の総合的な育成」の指導上の課題

 4技能を総合的に育成するためには、授業の中で4技能を使った言語活動を行い、生徒が英語に触れ、英語でコミュニケーションを行う場面を作ることが重要となるであろう。英語でのコミュニケーションの場面を作ることを目指すならば、教員が一方的に説明するだけでなく、生徒自身が英語を使用して活動する時間が多くなることが望ましい。だが、今回、我々が実施した「中高の英語指導に関する実態調査2015」の結果からは、中学校の5割、高校の6割以上が、生徒が活動している時間よりも教員が説明している時間の方が多いということが明らかになった。

 さらに、この「指導と活動の割合」と実際に授業で行われている「指導方法・活動内容」を重ねあわせてみることにより、どのような授業が行われているのかを伺い知ることができる。
教員が説明している時間が多い指導を「説明型」、生徒が活動している時間が多い指導を「活動型」として、それぞれの指導方法や活動内容の傾向をみた(表1)。中学校・高校ともに「説明型」に多いのは、「教科書本文の和訳」であり、高校ではそれに加えて「文法の説明」「文法の練習問題」も多い。
 一方、「活動型」に多いのは、中学校では「即興で自分のことや気持ちや考えを英語で話す」「スピーチ・プレゼンテーション」「英語での会話(生徒同士)」、高校では、それに加えて「自分のことや気持ちや考えを英語で書く」なども多い。「活動型」の教員は、訳読や文法指導ばかりではなく、英語で4技能を使った言語活動をしていることがわかる。

 このように指導に差が表れる背景には何があるのだろうか。教職経験年数の影響を分析してみたがほとんど差は見られなかった。そこで、それぞれの指導を支える指導観を聞いた結果をみたものが図2である。「説明型」と「活動型」の間で、「とても重要」という回答の差がもっとも大きかったのは、「生徒が自分の考えを英語で表現する機会を作る」であった。続いて、「生徒が英語を使う言語活動を行う」「評価基準を作成し、その基準に基づいて評価を行う」「単元ごと、学期ごとに目標を設定して指導する」などが続いた。「活動型」の教員は、生徒が自分の考えを英語で表現する(話す・書く)機会、英語の4技能を使う機会をよりたくさん作り、また、評価やそれを考えるために重要な「目標設定」への意識も高いと推察される。

 また、「説明型」と「活動型」とで悩みを比較してみた(図3)。すべての項目で「説明型」の教員の方が数値が高く、悩みをより多く抱えている傾向が見られた。もっとも差が大きかったのは、「『授業は英語で行うこと』のやり方がわからない」であった。その他にも「効果的な指導方法がみつからない」「『話すこと』の評価方法がわからない」「『書くこと』の評価方法がわからない」「中期的・長期的な授業計画を立てる方法がわからない」といった項目すべてで、「説明型」の方が数値が高い結果であった。

 これら「指導観」や「悩み」の比較を通して、「活動型」と「説明型」の特徴がいくつか見えてきた。「活動型」の教員は生徒が英語の4技能を使う言語活動の機会を作ることや、目標設定や評価に対する意識が高い。一方で、「説明型」の教員は、指導方法や目標設定、評価方法についての悩みが多いことがわかる。もちろん、文部科学省も教員をサポートするためにさまざまな研修を行っている。しかし、ここまで紹介してきた調査結果から考察すると、まだ十分とはいえないようである。すでに4技能の総合的な育成に意欲的に取り組んでいる教員もいるだろう。ただ、今、悩んでいたり、立ち止まってしまっている多くの教員に対して、行政や民間も力をあわせてさらに支援していく必要があるだろう。

自らの指導を振り返りながら、自らの成長の確認を

 現在、進められている「入試の4技能化」は、「目標―指導―評価」の一角である「評価」を変えることによって「指導」を変えたいという目的がある。それほどまでに大きな変革を「指導」に求めている。「評価」の変化によって、教員の不安や戸惑いは高まるかもしれないが、絶好の機会とも捉えられる。「入試の4技能化」は、「目標−指導―評価」について改めて捉えなおす機会となるだろう。先ほど見たように、4技能を使った言語活動を行い、生徒が英語でコミュニケーションを行う場面を作ることを意識している「活動型」の教員は、「目標」や「評価」に対する意識も高かった。4技能の総合的な育成という「目標」をしっかりと捉えることや、そのための「指導」「評価」のあり方について考えることが重要だということだろう。

 では、4技能の総合的な育成という「目標」を捉え、それに対する「指導」「評価」を実現するためにはどうしたらいいのか。昨年度行った「中高の英語教員に対する聞き取り調査」の分析から、そのヒントが見えてきている。分析結果から、指導に大切なことは、子どもの学習状況、発達、興味・関心を理解し、かつ、自らの指導を振り返ることを繰り返しながら成長し、子どもの成長を支えるために最善を求め続けることだということが浮かび上がってきた。英語教育だけに特別なことではないが、子どもとともに教員も「成長」していくことの大切さと、それを支える「振り返り」が重要だと示している。4技能の総合的な育成という「目標」のためには、「目標」に対する「指導」と「評価」になっているかということを「振り返り」ながら「成長」していくということが求められているのではないだろうか。

 調査の分析結果だけでは、指導改善のための解決策そのものを提案することは難しいが、たとえば「振り返り」をするためのきっかけや課題発見の材料として役立てていただける面はあるのではないかと考えている。教員が指導を振り返るための材料として、また、よりよい英語教育を共に考える上で共通に持てるエビデンスとして役立つ調査研究結果を、今後も発信していきたいと考えている。