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三田学院

[2016年8月30日]

読んではいけない!

読書は新たな知見に触れることができる貴重な行いだ。

しかし、中には「読んではいけない」と感じる本もある。

これから紹介する本は、次のような方にはお勧めしない。

?人生が上手くいっていないと感じている人。
?学術研究の経験がなく科学的な判断をしたことがない人。
?他人への攻撃性が強い人。
?差別的な考え方の強い人。

なぜなら、?にとって不都合で不愉快な研究結果が示され、?の経験や力がないと内容を客観的に解釈できないリスクがあるからだ。??は説明の必要はないだろう。

著者は有名な小説家で、事実に基づく社会派小説が得意な人だ。しかし、学者でも研究者でもないので、学術研究論文を多数引用していながら、解釈や意見形成において、やや慎重さにかけるような部分もある。

一部を紹介する。原文そのままではなく要約して羅列する。

・「発達障害」、「学習障害」、「精神障害」は、80%以上が遺伝によるものだ。
・「経済格差」は「知能格差」によるものだ。
・「貧困家庭の子ども向け教育支援」(米民主党政権下)は、巨額の費用を投じたのに効果がなかった。

日本においても、「貧困家庭の子どもに学業不振者が多い」ことに関する研究論文は多いが、この本では以下のように説明する。

・知能の高い親は社会的に成功し、同時に遺伝によって子どもは高学歴になる(学業的に成功する)。
・教育に税金を投入しても、貧困層の困窮は何一つ改善しない。
・低所得層の家庭に低学力の子どもの比率が多いのは『疑似相関』である。(注)
・低所得家庭の子どもに学習支援をしても効果がないから、無駄に公費(税金)を投入するな。

注)相関がないのに、あるかのように推測されること。ここでは、「親の低学力」と「こどもの低学力」に相関があるのであって、「親の低所得」を「こどもの低学力」の説明変数とするのは適切でないということ。

以上、内容の一部を紹介した。読みたいと思った保護者を止めるつもりはない。自分で判断されたい。

ただし、学生は人生における受験のすべてを乗り越えるまで読まない方が良いと思う。

成績不振な人、順調な人、どちらでもない人、いずれにも学習意欲(動機づけ)に影響が懸念されるからだ。また、教育に関すること以外も取り扱われていて、選挙権のない年齢の人にはふさわしくない内容も含んでいると思うからだ。

□「言ってはいけない 残酷すぎる真実」橘玲著・新潮社・2016年4月20日発行