[2016年10月17日]
なぜ都立中高一貫の入試倍率は高倍率が続くのか?
ずっと調べてきて気がついたことをいくつか書こう。
?合格可能性のほとんどない児童を受検に引きずり込む塾の存在
思い当たる塾が3つある。これらが地盤とする地域や、対策を組んでいる学校で倍率が高い。特に集団指導している学習塾は、生徒が増えても固定費は増加しない。生徒増加がドンドン利益につながる。だから、合格しそうもない子であってもドンドン入塾させる。
しっかり対策をすれば合格できる子に授業のレベルを合わせると、合格しそうもない子は理解できずに脱落する。だから適性検査対策のテキストは合格できない子でも解けるようなレベルに設定し、合格しない子も続けさせる。宿題や確認テストも簡単なものを出す。これでは合格できそうな子は合格力がつかないと感じるから、受検校別特訓講座などのオプションを売り込む。さらにドンドン儲かる。しかし、もともと合格できる子だけが合格し、もともと合格できない子は合格しないで受検を終える。もともと合格できない子は、入試倍率を上げることにだけ貢献する。これでは都立中高一貫受検生を収益源にする学習塾や、都立中高一貫の受検担当者がハッピーになるだけだ。塾からは「次は都立高校受験で頑張ろう」と言われ、公立中学に進学した後も通わせられる。生徒募集に費用がかからず、ドンドン儲かる。
都立中高一貫合格のためには、小学校6年間の学習内容をしっかりと理解できていることが最低条件だ。そのためには、まず算数をしっかり勉強する必要がある。算数ができない子は合格しない。「思考力・分析力・判断力」は算数を学ぶことによって磨くことができる。次に国語だ。「表現力」の基礎は国語力であるからだ。文法や国語の知識をまずしっかり身につけよう。「読解力」はその上に形成される。理科・社会もしっかり学んでおけばさら良い。学力試験型のような知識は問われることは少ないが、理科・社会の学習内容が理解できていないと、適性?や適性?を正解できる基礎力がつかない。これらを小4の内から初めて小6の夏までに完成しておけば、合格できる可能性は格段に上昇する。適性類似の問題は、適性検査型の試験に慣れるために行えばよい。4教科が理解できていれば、過去問演習をしっかりやれば合格点に達することができる。大切なのは4教科の学力だ。逆に4教科の学力が低いと合格できない。決して本末転倒した受検対策をしてはいけない。確かな学力は入学した後の授業についていくためにも必要だ。合格できても、入学後に落ちこぼれては意味がない。
?合格可能性を甘く見る保護者の存在
都立中高一貫や九段などの学習塾向けの説明会では、合格者の成績がデータとして情報公開される。情報公開の度合いは学校によって差があるが、合格者のプロフィールは以下のようなモノだ。
・8教科における評定は「3」が6つ以上が実質ボーダーライン
・私立難関校に合格できるような学力があることが必須
ここで評定「3」とは、教科ごとの「よくできる」が評価項目4つの場合、「4つ」または「3つ」の人のことだ。小学校の担任により多少の差はあるが、業界的には共通認識だ。
私立難関校に合格できるような学力とは、「しゅともし」なら偏差値60だ。「富士」、「大泉」が該当する。都立中上位校は65〜68必要だ。「小石川」、「両国」、「桜修館」が該当する。学芸大学付属並みか、それを超える難易度だ。もちろん完全学力試験の私立に比べると多少の誤差があるが、都立中高一貫の適性検査がドンドン学力試験型に近づいているので、「適性なら何とかなるかしら」と妄想できるほどの誤差はない。
学力試験型に最も近い都立中は「小石川」と「両国」だ。算数・理科・国語ができないと合格できない。都立ではないが「九段」も学力試験型だ。4教科全般の学力が問われる。「小石川」と「九段」は私立併願が半数を超えているのではないか。「桜修館」も併願が多い。私立併願が少ないのは「白鷗」だ。併願が少ないからと言って適性型の受験対策では合格できるわけではない。特に算数、次いで国語がずば抜けてできないと合格しないことが分かっている。「富士」は東京都教育委員会の「理数アカデミー」の認定を取り、適性?を追加し、理数重視の入試に舵を切った。これで私立受験生を取り込みやすくなった。中高一貫後の?期生の進学実績が出たこともあり、今後の倍率の変化に注目だ。国公立大学の合格実績が改善している。
私立中受験大手塾で学べば有利かといえば、そんなに単純ではない。中学受験塾御三家は難関私立向けのカリキュラムだ。上位5〜10%の生徒以外は消化不良を起こす。宿題やテストに追われじっくり考える訓練が絶対的に不足する。ただ忙しいだけで「真の学力」である「思考力」が育たない。中学受験大手塾出身で「都立中」に合格できるのは、私立難関中にも合格できるような、カリキュラムを余裕で消化できた人だけだ。「選抜クラス」にいない生徒は難関私立にも都立中高一貫にも合格できない。そもそも「選抜クラス」に残れないなら、難関私立には受からないのだから、高額な授業料を払い続ける意味はないのだが、まるで宗教団体の末端信者のように辞めない。授業が難しすぎると、かえって学力が伸びないのに、授業料を「お布施」のように延々と納め続ける。しかし、大手塾は「魔法使い」ではないので奇跡は起こらない。
以前は中学受験専門御三家塾(私国立受験型)との「掛け持ち」も認めていたが、あまりに基本的な問題が解けない人が多かったので、今は「掛け持ち禁止」にしている。中学受験しない人よりも解けない。基本問題が解けないのに応用問題を無理に解こうとする。当たり前だが自力で解けない。ヒントを与えても解けない。基本が理解できていないからだ。仕方なく解き方を教えると、次の週末テストで高得点をあげて賞状までもらってくる。しかし、いつまでも同じことの繰り返しで、自分で解けるようにならない。思考しないから学力が伸びない。ドンドン落ちこぼれの典型的な行動パターンになっていく。早く「改宗」しないと、ドンドン勉強できない子になってしまう。「選抜クラス」に定着できないなら、サッサとやめた方が賢明だ。小5の春までにやめれば、手遅れにはならないだろう。
話は戻るが、付属校型なら高校受験偏差値も参考になる。高校受験で合格できそうな都立高校の付属中なら可能性がある。ただし中学からの合格者の方が学力優秀な場合がほとんどだから、余裕をもって判断する必要がある。「白鷗」は中学からの入学者(中入生)と高校からの入学者(高入生)で、かなり学力差がある。クラスを一緒にできないくらい学力差がある。中入の方が圧倒的に学力が高い。「富士」も中入生の方が学力が高い。しかし、白鷗ほどは開いていない。「両国」はともに学力が高く大きな差はない。だから中1から同じクラスに混ぜることができる。ただし、中1で混合クラスを編成するために、中入生の先取学習(中学課程で高校課程に入ること)が出来ない。中高一貫のメリットの一部を行使できず、「小石川」や「桜修館」のような高入生がいない中等教育学校のように、東大などの難関国立大学の合格実績が出せないという弱点がある。反面、千葉大などの中堅国立大学は強い。「両国」は下町トップ校として不動の地位にある。中高一貫化する前は、各中学校の成績トップが志望校にした学校だ。中高一貫化した今も、そうした生徒しか合格できないのだ。
ところが、都立中高一貫受検を収益源にする学習塾の説明会で、実態を知らない保護者は妄想を膨らまされる。
・評定「オール2」でも合格者が出ています。(ただし10年に1人2人程度なので、ほとんど例外だ。)
・学力試験型とは違って合格者の分布はかなり広くチャンスがあります。
・合格可能性は偏差値ではハッキリしません。
都立中高一貫の学校説明会も玉虫色だ。都立中高一貫側としては受検生を多く集めること自体が教員の評価になっているので、ウソにならない範囲でドンドン調子が良いことを言う。ただし検証可能なデータは渡してはくれない。
・適性検査試験で高得点を取った生徒が合格しています。
・報告書に不安がある方も可能性はあるので、ぜひ挑戦してください。
ところが「報告書」の点数が低い人は合格する可能性が極めて低い。「報告書」の点数が高くても不合格になる人がいるが、それは「報告書」の点数が低い人でも合格できるということを意味しない。「報告書」の点数が高い人の中から合格者がでるということだ。この論理が理解できない保護者や受検生は、そもそも「思考力」がない。「報告書」の点数が高くても学力が低い人がかなりいる。そういう人は落ちる。「報告書」の点数が低くても学力が高い人なら合格する可能性はあるが、学力が高いなら「報告書」の点数は低くならないはずだから異常値だ。しかし、都立中受検塾や都立中の説明会を聞くと、保護者の妄想は無限大になる。
受検料も激安だし、ウチの子も受検させてみよう。もし合格しても授業料や入学金は公立中学並みだから負担を考えなくて済む。都立中高一貫受検専門塾で勉強させてみようかと。
こうした受検生は、みんな落ちる。公立中学に進んで、徐々に無謀だったことに気づく。なかには気がつかないままの人もたくさんいる。公立中学入学後の定期テストで平均点すら取れないような生徒が多数受検している。「お祭り」に近い。
適性検査型模擬試験の成績分布と合格者の追跡調査から判断すると、学校により差はあるが、実質倍率は3倍程度ではないだろうか。例えば倍率8倍の都立中なら、定員の5倍程度の人数は「お祭り」に参加しているだけの児童と保護者ということだ。「小石川」の「お祭り参加者」は近年大きく減少した。奇跡など起こらないことが、もっともハッキリしているからだ。公立中高一貫塾も、わずかにでも可能性のある学校を勧めるだろうから、その影響もあろう。しかし難易度は下がっていない。むしろ上昇傾向だ。本物の受検生の比率が高いのだ。対して「富士」の低倍率が微妙だ。実質倍率は2倍くらいしかないかもしれない。それでも一発勝負の倍率としては低くない。同じような学力でも半分が不合格になる。都立高入試なら敬遠されかねない高倍率だ。昨年から「お祭り」参加者を含め、受検生を大募集しているので、今後の倍率の推移が注目だ。
「お祭り」参加者が多いからといって、実質定員割れしている訳ではないから、優秀な子でも不合格になる。志望校選択を間違ったり、志望校対策が甘いと落ちる。「九段」なら受かったのに「小石川」を受けて落ちる、などということは、いくらでもある。この時点では「お祭り」参加者と同じになってしまう。迷惑な話だろう。しかし、中学入学後の成績で白黒ハッキリつく。「お祭り」参加者は、高校入試でも進学校に合格できない。高校入試で初めて自分の実力を知るという人もいる。これは中学受験をしなかった人にもいる。妄想というより、「心の盲目」だ。
「適性検査対策の授業は、例え不合格になっても、その後の人生で役に立つ」などと言う説明を聞いたら、「オレオレ詐欺」だと思った方が賢明だ。誰にでも解ける適性検査形式の問題など、いくら勉強しても役に立つはずがない。役に立つのは確かな学力だけだ。そして何より確かな学力こそ合格の秘訣なのだ。無駄な努力をしてはいけない。
三田学院では、合格可能性のほとんどない子には「受検するな」と言っている。これは国立中学受験や私立中学受験でも同じだし、高校受験でも同じだ。志望校を変更できるなら変更させる。不服に思う保護者や児童も少なくない。それで退塾して行く人もいる。構わない。児童や生徒のことを考えてのことだ。それが理解できないのなら仕方がない。
見栄や妄想で受検(受験)させないのは、結果が見えているからだけではない。進学実績を考えてしているからでもない。受検(受験)はギャンブルやゲームではない。児童・生徒を妄想で弄んではいけない。妄想は、かえって勉強のできない子にしてしまう。合格したいのなら、現実を直視し、学習指導に従って地道に努力をするしかないことを理解してほしいからだ。
妄想はわが子を不幸にすることを知ってほしいのだ。