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三田学院

[2016年11月25日]

習熟度別少人数指導は成功したか?

平成20年12 月に公表された平成20年度全国学力・学習状況調査追加分析結果「習熟度別少人数指導について」の『?.留意事項』の内容が興味深い。

「全体としてみれば、習熟度別少人数指導を行っている学校の方が習熟度別少人数指導を行っていない学校よりも平均正答率が高い県が多いが、なかには行っていない学校の方が平均正答率が高い県もある。習熟度別少人数指導を行っている学校と、行っていない学校の差がほとんどない県もある。」

つまり「習熟度別少人数指導」は公立小中学校レベルでは、期待された効果がほとんど見られなかった」ということだ。期待された効果とは、ズバリ「学力低位層の底上げ」のことだ。

Q:なぜか?

所詮、少人数指導であるからだ。学力低位層は意欲・関心・態度に問題を抱えている場合がほとんどで、そうした児童や生徒を少人数で指導しても、平易な課題でも理解できないなど、指導自体が成立しないからだ。課題は一人ひとり違うので、ほぼ1対1に近い指導にしなければ目に見えた効果は期待できない。しかし、血税を投入している公教育での実現は困難であるし、税負担の公平性を欠くため納税者の理解も進まないであろう。

むしろ「習熟度別少人数指導」は学力上中位層にとってメリットが大きい。学力低位層に合わせた遅い授業を受けなくて済むし、何しろ授業を実質的に妨害するような層を別クラスに隔離してくれるので、授業に集中できる。学力上位層の学力をさらに向上させることによっても全体の学力向上は果たせるのだから、当初とは違う目的で実施するという案があってもおかしくはない。

つまり「習熟度別少人数指導」は、選抜クラスの設置を目的としたような場合に効果を発揮するということだ。授業難易度が高い進学校などでは効果が確認されている。学力上中位層の学力向上は全体としての学力を向上させることにつながる。しかし公教育でこうした取り組みを行うことには賛否両論があろう。

「少人数指導」は教員の配置や教室の確保など予算が必要なため、財政状況が厳しい中で、今後は多難な道のりを歩むことになるのではないかと予想する。

「習熟度別指導」に限れば、クラス編成の仕方でも実現できる。中学受験塾が実施しているように「成績別クラス編成」にすれば良いだけだ。「少人数指導」自体は、そもそも教員の過度な負担を低減すること以外には効果がほとんどないことが分かっているので、通常のクラス定員で行えば良い。学年ごとにに1−2クラスしかないようなケースを除けば特別な予算は発生しない。また学校統合により複数クラスを実現する方法もある。学期ごとや学年ごとに入れ替えを行えばよい。学力低位層のクラスに学習支援の必要な層が集まることになるので、そこに現在配置されている支援員を効果的に配置すれば良い。

しかし、明らかな「習熟度別クラス編成」は一部の保護者や人権団体などの反発が強く予想されため、公立小中学校では実現は容易ではないであろう。算数のみ、算数と国語のみなどを「習熟度別クラス編成」とし、HRは習熟度別で分けないというのが現実的かもしれない。しかしどこまで効果が期待できるだろうか。理科や社会も大切な教科だし小学英語も外せない。

どうすれば公立小中学校育において広く納得されるような全体の学力向上策の導入が実現できるのだろうか?都内の公立中高一貫では義務教育課程でありながら実質的に学力による選別が行われていても批判や反発が見られないことは参考になるかもしれない。