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三田学院

[2017年1月16日]

分断する中学入試

中学入試に新しい潮流が生まれつつある。それは適性検査型入試である。公立中高一貫を指しているのではない。私立中入試を指して言っているだ。

私立中入試と言うと「算数・国語・理科・社会」の4教科を思い浮かべるのが普通だった。しかし今は違う。適性検査型入試を実施する私立中学が100校に迫る勢いなのだ。

一昨年に参戦した品川女子学院、今回から参戦する共立女子(共立女子第二ではない)が象徴的だ。安田学園(先進特待)は本格的に適性?・?・?の適性3科型入試を実施しており、熱い注目を集めている。少子化のこの時世に、学校説明会や入試体験会は満員御礼で立ち見まででる盛況ぶりだ。大学進学実績が好調な宝仙学園共学部理数インターは、適性検査型入試が主力といって過言ではない状況だ。

もはや、適性検査型入試は公立中高一貫に限ったことではなくなった。

Q:なぜ、私立中学が適性検査型入試を導入するのか?

背景は大きく分けて2つある。

A1:2020年の大学入試改革に備えるため。
A2:公立中高一貫に合格するような優秀な生徒を取込むため。


背景1:インターネットの普及で単なる知識は容易に入手できるようになった。このため知っているか知らないかを試験する意味がどんどん失われつつある。むしろ、溢れる情報から課題を見つけ、解決策を探り、行動につなげられる人材の発掘や育成が急務となってきた。適性検査型入試はこの目的に合致している。

背景2:これまで私立中受験生と公立中高一貫受検生は、その入試問題のタイプが大きく違うことから分断されていた。しかし、将来の大学受験ではともに闘うことになる。しかも、適性検査型の入試を突破した生徒が、大学入試で確固たる実績を積み上げている実態が見られるようになり、これまで消極的だった私立中学でも、こうした生徒を集めることに意欲的になった。

今後、中学入試は大きく様変わりする気配だ。というより、すでに大きく様変わりしている。ここ2〜3年で急激に変化した。

これから中学受験の準備を始める方は、この時代の変化を見逃してはならない。

これからも、しばらく旧態依然とした4教科入試を堅持しそうなのは、以下の学校群だけだろう。

・国立附属中:筑波大学附属駒場、筑波大学附属、御茶の水女子大附属
・私立御三家:開成、麻布、桜蔭など

理由は簡単だ。従来型入試で優秀な生徒を集める自信がまだあるからだ。適性検査型入試の問題作成は負荷が大きく、採点にも時間がかかるため、即日や翌日の合格発表と入学手続きで生徒を囲い込めなくなるという問題もある。1日校(ついたちこう)と言われる、2月1日しか入試を行わない最難関校は代えって都合が悪い。わざわざ適性検査型に変更せず記述式の問題を増やす方向に進むだろう。

国立附属中に東京学芸大学附属を含めなかったのには理由がある。すでに都立中上位校に受検生をとられ、難易度的にも逆転現象が起きているからだ。国立附属中から生徒を奪い難易度が逆転している都立中の代表格は小石川だ。続いて桜修館だ。都立中は高校進学時に原則として追放を喰らう生徒がいないことも魅力となっている。

私立難関校や私立中堅校では入学手続きを公立中高一貫の合格発表日以降まで可能とするところが多かった。手続きを早めに締め切ると、逆に生徒を取り逃がしてしまうからだ。渋谷学園広尾学園が代表格だ。偏差値は高いが逃げる合格者も多い。

さらに、中堅中位以下の私立中では、少子化と公立中高一貫の躍進で、どんどん優秀な生徒を集められなくなった。適性検査型入試を行う私立校は、こうした層から急激に拡大していった。宝仙学園共学部理数インターが代表格だ。今や中堅上位にまで躍進している。お受験小学校として有名な宝仙学園だが中高女子部が弱かった。今は共学部が看板になった。安田学園もそうだ。試験科目や試験時間は両国を意識しているとしか思えない。

近年、適性検査型入試の受検生の総人数が、従来の4教科・2教科受験生の総人数に並んだ。今後は適性検査型の受検生の人数が大きくその他を引き離すことになることは間違いない。

これから中学受験の準備を始める人は、この時代の変化に乗り遅れてはいけない。

4教科型と適性検査型のどちらにも対応できるハイブリッド型のカリキュラムで臨むのが賢明だ。

しかし、私立中学受験専門大手塾は適性検査型の入試対策に及び腰だ。もともと優秀な生徒を集めているので、適性検査型入試でも一定の成果を上げているが、実力を十分に引き出せていないと見られ、高難易度私立に合格できる層でも都立中には合格させられないことが多い。都立中第一志望の優秀な受検生に勝てていない。中学受験塾御三家に通うなら、あわよくば都立中も合格しようなどと考えず、難関私立に専念した方が良い結果となろう。

一方で、都立中専門塾や都立中受検コースを主力とする大手駅前塾は、4教科型の私立中入試で結果がだせない。そもそも4教科型の指導に力が入っていないのではないかと疑われる。実は高校受験生の早期囲い込みが目的なので、都立中の合格率さえも芳しくない。在籍する生徒数が多いから、合格者数が多いだけだ。本気で都立中合格を狙うなら、よくよく調べた方が賢明だ。教室の所在地や受検校によっても大きな差がある。

適性検査型入試を実施する私立中学の増加は、都立受検生のメリットも大きい。都立中と私立中を同じ準備だけで併願できる。私立中4教科入試のように算数の特殊算や理科・社会の暗記に時間を取られなくて済む。

都立中合格に必要な条件は明確だ。今後多くの私立中合格にも必要になろう。

・高得点できる「入試作文」(長文記述)が書けること。
・問題が長文であっても「設問をしっかり把握」できること。
・資料やデータを読取り、特徴や問題点を見つけ、「自ら解決」を図ることができること。
・自力で試行錯誤しながら問題の核心に迫る力があること。

従来型のカリキュラムでは、中学受験はもちろん、大学受験でも勝てなくなりつつあるのだ。

特に「入試作文」だ。「一般の作文」とは似て非なるモノだということが、まだ保護者にも受検生にも浸透していない。ところが、周到に準備しなければ高得点できない。マス目を埋めただけでは0点もありうる手ごわい試験だ。しかも、この「入試作文」の得点力があれば「都立高の推薦入試」「大学の推薦・AO入試」でも勝てる。実は、「入試作文」は、新しい入試におけるコアな学力なのだ。

残念ながら、売れないからか、書けないからか、お勧めできる「入試作文(適性作文)」の指導本や参考書・問題集が存在しない。模範解答だけが載っているだけの教材をいくら学習しても合格できる「入試作文(適性作文)」を書けるようにはならないのだ。