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三田学院

[2017年5月1日]

勝利の方程式「6年法則」

高校別の大学進学実績を見れば一目瞭然のことであるし、賢明な読者なら気がついていることだろうが、大学入試では「6年生の中高一貫校」が圧倒的に強い。今回は、勝利の方程式「6年法則」をご紹介する。忙しい人のために最初に結論を書いておく。

■6年法則
大学受験:合格したければ、中1から準備を開始せよ!
高校受験:合格したければ、小4から準備を開始せよ!
中学受験:合格したければ、小1から準備を開始せよ!

■6年法則のお勧め実践方法
大学受験:6年制・中高一貫進学校を選べ!都立中でも良い。ただし国立附属中は要注意。
高校受験:遅くとも小4春までに家庭で本格準備を開始し、小4の夏休みになる前に高校受験塾へ通え!
中学受験:小1から家庭で本格準備をし、小3冬(新小4)から中学受験塾へ通え!

■大学受験

Q:なぜ6年制の中高一貫校は大学受験で強いのか?

ここでは大学入試で難関大学に合格するためにカギとなる「数学」と「英語」に焦点をあてて説明する。

まず、6年制の中高一貫校(ただし進学校)の数学の授業と進度は平均すると以下のようになる。

中学課程2年+高校課程3年+受験対策1年

もっと早い中高一貫もある。東大進学者数トップクラスの私立進学校だ。

中学課程1年+高校課程3年+受験対策2年

これらの進学校の高入生は、実質的に、高校課程1年+受験対策2年、と歪な進度となるので、超人でないかぎりお勧めしない。途中から6年制の中高一貫校に合流するのはリスクが大きい。高校受験をするのなら、高入生しかいない高校を選んだ方が安全だ。浪人リスクは増大するが、壊れるリスクを下げられる。

話を戻すが、難関大学を目指すかどうかにかかわらず、高校数学をマスターするには相応の勉強時間が必要である。学力トップクラスの生徒であっても、ほぼ3年必要である。だから高校数学のマスターには3年丸々用意し、受験対策期間は、それとは別に用意するのが得策である。

しかし、3年制高校では、高1入学後から高校数学を学習し始める。このため、大学入試を受験する高3になっても数?が残り、十分な受験対策の時間が確保しずらい。この点が6年制中高一貫と比べ圧倒的に不利だ。1浪してはじめて中高一貫生と条件が揃う。現役同士で勝負するなら、大学の難易度を1ランク以上下げないといけないだろう。

また、3年制高に進む場合は高校受験が必要だ。出題範囲の中学数学を高いレベルで仕上げないければいけないから、中学生のうちに高校数学を学ぶことはできない。そもそも公立中学で高校数学を学ぶことはできないから、専門の数学塾にでも通う必要があるが、高校受験生にそんな余裕はないだろう。

次に英語だ。わかり易い英単語数で説明しよう。

高校入試に必要な英単語数は約1,000語だ。ところが、国立大学や難関私大への合格に必要な英単語数は約6,000語だ。最難関大学や難関外国語大学に合格するには8,000〜10,000語必要だと言われている。

3年制高校に進学した場合、高校入学時点では1,000語程度の英単語力しかないから、残り3年間で最低5,000語をマスターしなければならない。1年平均1,700語になる。中学3年間で1,000語程度しか覚えられなかった人が、急に1年で1,700語も覚えられない。多くは敗北する。

ところが、6年制中高一貫では6年間かけて6,000語をマスターすればよいから1年平均1,000語で良く、1年平均1500語をマスターすれば、難関国立大学が射程に入るという算段だ。無理がない。

6年制中高一貫が、なぜ大学受験で圧倒的に強いか、これで簡単に理解できるであろう。

この「6年法則」は、実は『中学受験』と『高校受験』でも有効である。

■中学受験

中学受験のカリキュラムは、順調に進めば2年で消化できる。しかし、中学入試は東京では2月1日に、埼玉や千葉では1月上・中旬に始まるから、小6の3学期は全く使えない。しかも、志望校別対策が勝負を分けるから、小6の2学期もほとんど使えない。逆算すると、2年で消化するためには、小4の1学期末にはスタートしないと間に合わない

しかも、小4の1学期末に、いきなりエンジン全開でスタートできる小学生などまずいない。アップ期間というか助走期間が必要である。となると、中学受験に本格的に参戦するなら、小4の春が実質的な期日となる

ところが、小4の春に受験勉強に耐えられる体質になっている小学生もほとんどいない。ここでいう「体質」とは、別途詳しく説明する機会を持ちたいが、受験勉強に耐えられる「知力、体力、精神力」が備わっていることを言う。

この「体質」に育て上げるには、小3までの期間が極めて大切になる。この期間にじっくりと「体質」改善を行っておかないと、小4(新小4)からの受験勉強に耐えられない。中学受験に成功した人、中学受験に失敗した人を詳しく比較調査すると、この小1〜小3の体質改善期(構築期)の対策の差が鮮明になる。

しかし、中学受験に失敗する人は、この小3までの教育に失敗していることに気がつかない。成功する人と同じように手を抜かずに取組んだと思い込んでいる人も多い。

失敗に気がつかない原因はいくつかある。今回は塾業界の経営戦略に焦点をあててみよう。

1つは、保護者や児童生徒に迎合することで業績を伸ばす「駅前個別指導塾チェーン」の存在だ。僅かな可能性を拡大して期待させ、とにかく誰でも受け入れる。保護者も児童生徒もすがりつく。放っておくと勉強しない子を預かってくれるありがたい存在だ。しかし実際には、「勉強しろ」と口うるさい親からの格好の逃げ場所にしかなっていない。勉強から逃げるための学習塾というのが実態だ。勉強とは何たるかを知らない親子が多いのだろうか、大変な盛況ぶりだ。TV広告を打てるくらい繁盛している。

もう一つは、同じように誰でも受け入れる「駅前都立中受験塾チェーン」の存在だ。ここでも同じように、合格可能性のない低学力児童を積極的に受入れて、あたかも合格の可能性があると思い込ませ、受検まで通塾を継続させる。不合格になっても、合格できなかったのは「受検倍率」が高かったからだとうやむやにし、心のケアと称して再び催眠にかけ、このまま続ければ高校受験で逆転できると思い込ませ、民間教育市場としてはより大きいい「高校受験」まで継続通塾させるという営業戦略で成長拡大している。とにかく規模で勝負し、合格者数の多さばかりを謳いあげ、指導力のバロメーターである合格率は有耶無耶にし、大量不合格を予見しながら子供の受検人生(受験人生)をもてあそび、保護者から授業料をむしり取る。

九段に落ちたら、日比谷を目指す?

ところが、都立中全体のボーダーラインは、日比谷などの最難関都立高校全体のボーダーラインより、まだまだ低い。九段や白鴎を落ちた人は、尋常ではない学力向上を実現しない限り、高校受験で都立トップ高校には合格できない。いつまで勘違いを続けるつもりなのか。どこで「過大な自己評価」と「社会的評価」を一致させるのか。大学受験に失敗してからなのか。社会人になる頃なのか。

さらに、「大手中学受験専門塾チェーン」もこれに加担する。指導すれば難関中学に合格できそうな児童だけでなく、指導しても合格できない児童も大量に入塾させる。これが多くの受験生や保護者を勘違いさせる。勘違いは、塾の指導期間が終わる1月末以降に判明する。しかし時すでに遅しだ。もう塾を卒業しているからだ。ハイ・サヨウナラだ。中には入試が終わっても気がつかないままの人がいる。何が起きたのかを理解できないまま、予定していなかった中学校へ通う。

話は戻るが、「6年法則」を勘違いしないでほしい、小1から塾に通えと言っているのではない。ましてや「計算教室」はお勧めしない。小3までは、可能ならば、家庭で行うのが最適だ。高学歴(高学校歴)で、自らも難関中学受験の成功者である母親(父親)なら、わが子の「体質改善」を家庭で実行可能だろう。ただ高学校歴でも両親ともに仕事で忙しいと、取組が不十分になり失敗することが多い。両親の片方が自宅にいる場合でも、その保護者が高学校歴でない場合や中学受験の経験がない場合などは注意が必要だ。実践方法が分からずに迷走したり、自己流で進めて、受験指導に入る前にすでに失敗していることが多いことが悩ましい。

入塾後に軌道修正に成功しやすいのは小4の夏前までだ。この時期を過ぎると修正が難しくなる。保護者も雲行きの怪しさを認識するのか、この時期に入塾の問い合わせが最も多い。しかし手遅れでお断りしなければならない人が多く出始めるのもこの時期だ。手遅れでなくても、その一歩手前の人も多く、決断というか、行動の先送りというか、誤った判断の怖さを、毎年のように実感する。

■高校受験

高校受験をメインターゲットとする層に、「6年法則」を理解できていない保護者や受験生が最も多い。わが子に高校受験を選択させる保護者は、自らも高校受験経験者であることが多い。しかも、約30年前の経験をもとに判断する傾向があるので、問題は深刻だ。保護者が進学校受験経験者でない場合や、大都市圏以外の高校受験経験者の場合、頑なに「6年法則」を受け入れられない人を見かける。しかし、頭を柔軟にし、実態から目を背けないでほしい。

公立の中学課程は「ゆとり」が実質的に終了した今でも、さほど難しくはない。特に中1の1学期は、小6より簡単に思えるほど易しい。多くの中学生やその保護者は、まずここで油断する。

加えて、学力上位層を中心に約半分近くが私立中学などへ進む都心部(千代田、港、中央、文京、渋谷など)では、公立中学に残る高学力な中学生の比率は著しく低い。定期テストで高順位を取ることは簡単だ。ここでの油断が最大の命取りとなりかねない。

1学年3クラス(生徒数100人)や2クラス(生徒数70人)の公立中学では、少なくともクラス3位、学年5位程度にいないと進学校合格は難しい。学年順位10位(2桁)以下となると、見かけの順位の高さに油断してしまいがちだが、偏差値50すら取れなくても何の不思議もない学力レベルだ。

3クラスなら学年20位(上位2割)で偏差値50、2クラスなら学年15位(上位2割)で偏差値50が目安だ。学力上位ではなく、学力平均レベルだ。都立中堅校にすら届かない学力なのだ。

何度もご説明しているが、オール3は偏差値40程度だ。偏差値40といのは、成績下位20%以下だ。分布に歪みがなければ、正確には学力下位16%以内だ。

しかし、高校受験で成功する生徒や保護者は、そのようなことは本能的に事前察知したうえで賢明な行動を取っている。高校受験を選択する場合であっても小学生の内から準備を怠らない。

実は、難関高校に合格するには、数学と英語は中1末か中2の夏前にほぼ終えている必要がある。都内の場合、入試問題を自校作成する高校の過去問題を分析すれば分かる。英語は学校授業などでは扱わないほどの長文が出題されるし、数学は基本ができていれば得点できるような易しい問題は出題されない。中2以降の約1年半は、自校作成問題を解けるようになるための勉強期間に充てる必要がある。

そのためには、遅くとも小5後半から中学内容の先取学習が必要になる。中学内容を先取学習ができるためには、小学校中高学年の学習内容も早々に学び終えておかなければならない。そのためには、小4から計画的にスケジュールを組んで準備をしなければ間に合わない。

ここでも「6年法則」は有効なのだ。

■まとめ

小4や小5で「中学受験」を意識し始めるようでは中学受験で成功はなく、わが子を敗北者にしてしまう。中3で「高校受験」の勉強を開始するようでは、わが子の自己評価を著しく損ね、将来を悲観させることになる。そして、高校生になってから「大学受験」の準備を開始させることは、わが子に辛く可哀そうな体験をさせることになる。

この現実は、まず保護者が理解すべきだ。