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三田学院

[2017年5月11日]

迷走する大学入試改革

新聞各紙が5月10日、興味深い記事を一斉に掲載した。

『AO入試 学力試験義務化 国公私大 2020年度から』

文部科学省が全国の国公私立大に対し、書類や面接で選考するアドミッション・オフィス(AO)入試や推薦入試でも、2020年度から学力をみる試験の実施を義務付ける方針を固めたことが10日、同省への取材で分かった。

(毎日新聞HP 2017年5月10日 18時41分より引用)

学力試験ではなくなるというような、大学入試改革に関する巷の認識とは必ずしも一致しないのではないか。

随分と前にも書いたが、『センター試験』が『新テスト』(「高等学校基礎学力テスト」と「大学入学希望者学力評価テスト』)と名称や形式が変更になっても、『学力試験』であることに変わりはないのである

コンピュータ・テスト(CBT)やTOEICなどの導入などにより、見かけは大きく変更になるかもしれない。しかし中身は大きく変わらないはずだ。

わかり易く言えば、今まで劣等生とされた人が新基準では優等生として評価されることになったり、その逆もないということだ。

単なる知識・技能を問うことが多かった従来の「学力試験」−特に低偏差値大学で横行していた−を知識・技能の応用力まで問う内容に充実させ、「真の学力」がより正確に問える、「さらに高度な学力試験」にしようとするものだと言えるのではないか。

これにより何が達成できるであろうか。

?難関大学は入試としては簡単すぎた「センター試験」を利用しなくて済む。
?より高度な学力試験を実施できる。
?低学力層しか入学しない大学をあぶり出し改革を促す。
?高校教育の質の確保と向上を図る。

??は現状でも対応できることなので、??が主な達成目的になるのいではないだろうか。

実際に東大などは二次試験の比率が極端に高くセンター試験の比率が低い。また、難関国立大学では2次試験で難易度の高い出題をして入試選抜を行っている。

一部の学習塾や予備校では、「2020年の大学入試改革で入学試験が抜本的に変わるのでウチにきて対策しましょう」などとセールスを強化しているが、キャッチコピーに騙されないことが肝要だ。

全国学力調査の「Aテスト」(基礎的な知識・技能を問う簡単な試験)で高得点を取れない人は、Bテスト(知識・技能の運用力を問うやや高度な試験)でも高得点を取れない。

もっと具体的に書けば、基礎学力の低い人が、都立中の適性検査を突破する(都立中に合格する)ことなどできない、ということだ。学力の高い子しか合格していないでしょ。学力の低い人は落ちてるでしょ。

適性検査対策は志望校対策として取り組むのが本質的に理にかなっている。前提として、基礎学力である知識・技能の高いレベルでの習得が必要だ。基礎学力なくして、思考力・分析力・表現力が育つことはない。基礎学力の低い人は、適性検査型の模擬試験でも高得点できない。入試でも合格できない。

基礎学力は低いけど、直接的に知識・技能を問わない適性検査型の入試なら何とかなるかもしれい、などということはない。

むしろ、一行計算、短答式、4択のような旧来型の学力試験の方が、その分野の知識・技能が低くてもチャンスがある。TVなどでも良く拝見する著名人は、地理の知識ほぼゼロながら、「逆・裏・対偶」という論理学(高校数学で学ぶ)を使って、センター試験の地理で100点を達成したと豪語している人もいるくらいだ。このような課題を改善・改革しようとするのが「2020大学入試改革」だ。

それにもかかわらず、そのことをきちんと説明していない塾や予備校が後を絶たない。きちんと説明すると、そのほとんどの生徒を失いかねない塾もある。

不合格になったのは倍率が高いからと逃げる。不合格になったのは学力が低いからだと説明しない。どうすれば合格できて、なぜ合格できなかったのかを説明しない。というより営業上の理由で説明できない。

中には、指導に従えば合格できたのに、従わずに合格できなかった人もいる。こうした生徒や保護者の特徴は、都合の良いことだけ従って、都合の悪いことには従わず、にもかかわらず指導にはすべて従ったかのように主張することだ。不合格になったのは塾のせいだと言わんばかりだ。

細かく確認していくと、「自分たちは世間一般とは違って『特殊なニーズ?』があるから、全てには従わなかった」などと開き直る。客観的な証拠を提示すると「人間性を否定されたと思い込み」感情的になる。

こうした人こそ、世間一般に多い、努力せずして合格したい、楽してラッキーで合格したいというのが本音の、受検勉強のまねごとをして自己陶酔するような、実に都合の良い人たちなのだが、きまって「自分だけは特別な存在」だと思い込んでいる。

合格できたのは自分が優れているからで、合格できなかったのは塾や天候や交通機関など他者のせいだ、という思考の持ち主だ。救いようがない。もちろん、2020年の大学入試改革でも救済されることはないであろう。その前に、高校受験でも失敗するだろう。

入試制度が変わっても、本質は変わることはないので、過度な期待や余計な不安に惑わされず、地道に勉学に励むべきだ。

入学試験が、適性検査になっても、合科型試験になっっても、記述型試験であっても、学力の高い子が合格するというのは、学力向上に真摯に取り組む現場の人たちの常識である。

これとは違うことを言う学習塾・予備校があるとしたら、騙しやすい保護者や生徒から、お金を巻き上げようとしているだけではないかと疑がってみよう。

大学入試改革をセールストークに使う学習塾は警戒した方が賢明だろう。