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三田学院

[2017年5月19日]

10歳の壁 13歳の壁

GW明けから保護者面談を実施し、やっと5分の1程度が終わったところだ。

今年は、学習指導に関する内容より、子育て指導に関する内容の方が圧倒的に比重が高いという、異例の保護者面談となっている。

そこで一般的なアドバイスを掲載しておきたい。

■10歳の壁は「自信」をつけさせることで乗り越えよ!

小学生にとって小4前後は非常に重要な時期である。具体的なモノしか理解できなかった小学校低学年から、抽象的なモノが理解できるようになる過渡期である。

天真爛漫だった低学年と違い相対比較が可能になる。つまり、○○ちゃんより勉強ができない、ということを察知できるようになる。ここで重要なのは「自信」である。「□□ができる」と言う自信が、この壁を乗り越える原動力となる。

しかし、根拠のない自信ではいけない、ズルして手に入れた自信でもいけない。正攻法で手に入れた自信でなければ効果がない。しかも、自分一人で成し遂げられる自信が最も良い。チームプレーによる自身は仲間がいなくなると効力のほとんどを失う。

50m走がクラスで一番早い、ピアノの演奏が学年で一番上手、将棋がクラスで一番強いなどだ。もちろん、学校テストは毎回のように100点でもよい。

むしろ、学校テストは毎回100点は、小1から継続できていることが望ましい。学習に対する姿勢が根本的に違ってくる。みんなが100点を取れる小1・2の頃から、保護者はわが子に100点を取れる喜びを存分に味あわせてあげてほしい。

この「自信」の差が、その後の学力に決定的な影響を及ぼす。常に90点未満しか取ることができない状態が続くと、「自信」を失い、勉強に対する「意欲」が消えていく。自分を「やっても出来ない子(YDK)」だと認識するようになる。正攻法で勉強を乗り越えようとしなくなる、ゲームや部活などで勉強から逃避するようになる、どんなズルをしてでも勉強(に正対すること)から逃げるようになる。向上心や意欲のない、社会に対して否定的な子に育ってしまう。

この時期、幼い子を躾けるように「できない」ことを叱っては逆効果になることがある。「自信」をますます失い、向上心を発揮できなくなる。

そのためにも、躾けは遅くとも小学校3年生までに完成させておこう。これが小4以降の学力の伸びに非常に重要だ。人間の子どもとしての基礎・基本ができていないと、勉強ができるようにならない。学習内容が一気に難しくなる過渡期の小4と小5、この時期を難なく乗り越えられるのは、小3までに手を抜かなかった人たちだけだ。手を抜いたかどうかは自分では判断できないであろう。算数でつまずきが始まるので、それを客観的な尺度にすればよい。

■13歳の壁は「責任」を与えることで乗り越えよ!

中1から中2というのは「思春期」の真っ只中だ。子どもから、大人の見習い期間に突入する時期だ。だから自分で判断したがるようになる。というより、自分で判断することを練習したがるようになる。

この時期、保護者が「こうしなさい」と決めつけるような言葉をかけると、激しい反発を示す。保護者はわが子が反抗するようになった、言うことを全然聞かなくなった、と感じるだろう。

そこは保護者も大人の対応をしてほしい。もう忘れてしまったと思うが、保護者にも同じような時期があったはずだ。

人はいずれ大人にならなければならない。何でも親が決めているようでは、わが子は大人になれない。

思い切って権限委譲してみるのだ。判断を預けるのだ。判断を預けた以上は、その責任も必ず自分でとるように伝えよう。ここが重要だが、説明責任も持たせよう。「なぜ、そのような判断をしたか、客観的に他者が納得できるように説明せよ」というものだ。これをクリアできなければ、判断を委ねることは中断だ、という約束で委譲しよう。

ただし委譲できるのは中学生として行って良い常識の範囲内に限られるのは当然だ。何でも委譲して良いわけではない。委譲できるものは思い切って委譲してみよう。

この時期における一番のテーマは、高校受験生なら「志望校」選択だ。幼いころから継続して良好なコミュニケーションが取れていないと、親の希望する学校と、子どもが行きたいと思う学校が、全然違うということが起きる。しかも、何度話し合っても溝がまったく埋まらない。毎回のように親子喧嘩になってしまう。平行線のまま月日だけが過ぎる。最悪だ。

解決策として権限委譲・責任委譲してはどうだろう。志望校選択の根拠をしっかり説明させ、客観的に説得力があるならば、口出ししない、というものだ。

保護者の不安は最高潮に達するだろう。しかし、社会科の調べ学習のように、わが子の志望校選定のプロセスを見える化させることを条件としてみてはどうだろう。

・調査対象校一覧
・基本情報(場所、通学方法、設備など)
・偏差値
・募集定員と倍率
・入試方法(推薦、併願優遇、一般の詳細)
・卒業後の進路
・校風や生徒の雰囲気
・学校の特徴(進学指導、生活指導など)

これらをレポートのようにまとめて保護者の前で選定プロセス、選定根拠を説明(プレゼン)させるのだ。

・書類情報による一次審査
・学校説明会、授業公開への参加による二次審査
・学校担任、塾担当の意見を踏まえた最終審査

これを通過できて初めて志望校として認める、としてはいかがだろう。親が口出ししないのなら反発のしようがない。むしろ、責任の重大さに気がつくだろう。大切なのは、一旦委譲した以上、保護者の都合で口を出さない姿勢を貫くことだ。些細なコトには目をつぶり、感情的な発言や親の個人的な発言も封印し、重大な判断ミスや重大な情報漏れにだけ口を出すという覚悟で望むのだ。中途半端に口を出すと、返って逆効果になる。

利発で見込みのある子は、自分一人で決めるには荷が重いと思い始めるだろう。素直に反省し親を頼ってきたら、その時はアドバイスをしてあげよう。志望校選びはきっとうまく行くはずだ。それよりも、わが子の成長ぶりを実感できるはずだ。

ここで見込みのない子はほぼ処置なしの状況になる。これは中学生になってからの子育てが失敗しているのではない。長年の子育て失敗の積み重ねが、わが子の今の姿なのだ。注射一本で治るような状態ではない。子ども変えたいなら、実は、まず親が変わるしかない親が見本でなければ、親が目標にならなければ、わが子は親の言うことを聞かない。親の言うことを聞いても良い結果が得られないということを、判断できる程度の知恵はついている年頃なのだ。

わが子の不甲斐ない状況は、わが子のせいだと思い込んでいる保護者が多い。しかし実はあなたの子育てが失敗したのだ。そのことを反省し、わが子ばかりを責めないことだ。

13歳の壁を越えると、わが子は、親ではなく、親ではない大人を見本に成長するようになる。いわゆるメンターだ。もはや保護者が見本ではないので、保護者による子育ては終了となる。つまり効果がなくなる。

保護者が、高校受験で、わが子(YDK)を鍛え直そうというのは、すでに時期を逸している。保護者は、わが子が小3を終えるまでに子育ての目標を達成しておこう。