[2017年12月7日]
今年度の都立中難易度予想で、都立武蔵中の難易度下落を予想した。
難易度下落の原因は何だろうか。
仮説1:多摩地区の小学生人口の減少
仮説2:多摩地区の受験生の志望変化
仮説3:都立武蔵中の難易度を上げていたある都立中専門塾の影響
東京都教育委員会発表の資料(平成27年度教育人口等推計の概要について)によれば、平成27年度の実数値と平成32年度の推計値が比較できる。
都全体 5.6%増
23区 9.3%増
その他 0.7%減
多摩地区の小学生人口減少は絶対数としては500人程度であり、これが都立武蔵中の難易度下落要因とは考えにくい。
多摩地区の受験生の志願先については、興味深いデータがある。都立高校の難易度ランキングである。
旧学区別の難易度を見ると、都立武蔵中の立ち位置が鮮明になる。多摩地区の旧第7・8.9・10学区を見ると、国立・八王子東・立川(重点進学校)と国分寺(特別推進校)が、武蔵よりも高難易度に鎮座する。武蔵は武蔵野北(推進校)と同難易度に甘んじている。
そもそも、東京大学への進学者数で全国ベスト10に入ったことのある、日比谷、小石川、両国、戸山といった都立名門伝統校と比べて、武蔵は知名度が高くない。また、多摩地区は23区ほど中学受験熱が高くない。そもそも、小石川や両国と肩を並べていたことの方が説明しずらい。多摩地区がそもそもの地盤の、ある都立中受験専門塾が創り出した難易度であったのではないか。
その都立中受験専門塾は、多摩地区での経営成功に自信をつけたのか、多摩地区の集客に限界を感じたのか、数年前から23区への出店を強化し、特に東部地区への出店を加速させた。武蔵は実質的にその塾の旗艦目標校ではなくなった。
成績上位層の受検校を、その塾が創りたい学校別合格者数に合わせて変更させたのではないか。変更先としては小石川や両国が考えられる。都心に教室を展開しているライバル塾は、わざわざ遠くの武蔵に受検生を送り込まない。武蔵を安泰とみて、小石川や両国に力を入れ、小石川・武蔵・両国の都立中御三家で『合格者数』(「合格率」ではない)でトップを狙う作戦なのではないか。
武蔵に上位合格できるなら、小石川や両国に合格できる可能性が高い。上位層が一定数抜けてしまうと、合格ボーダーラインはその人数分下方へ移動する。つまり難易度が下がる。
ところで、23区内に大量出店したからといって、23区の都立中の難易度が全体として大きく上昇した訳ではない。ということは、新たに集客した層は難易度上昇には影響がない受検生がほとんどだったということになる。つまり合格できない受検生を大量にかき集めたということだ。新教室100教室に、それぞれ30人ずつ集めたとすれば、その総数は3,000人となる。
彼らのほとんどは「都立中残念組」となることが予定されており、いずれも高校受験に回る。つまり「将来の高校受験生」を上手くかき集めたことになる。大規模出店は別の目的で大成功しているのだ。それを知らない「将来の都立中残念組」は、その塾の経営に長期にわたり大きく貢献することになる。都立中受験専門塾は、実は高校受験塾が仮面をかぶった姿なのだ。クラスの数人以外は、そのままその塾の高校受験コースに吸い込まれていく。
大量出店が続いた間も、都立中の総受検者数は減少傾向が続き、10,000人を割り込み、9,000人へと近づきつつある。約7割を23区内の受検生とすると約7,000人となり、上記3,000人を除くと、残りは4,000人となる。
23区内の受検者数が4,000人であれば、受検倍率は4倍程度となり、国立附属中学などの倍率に近づく。人気のある私立中の平均的な名目倍率3倍にも近い。
自然の流れに沿っていけば、つまり誰かが意図的に受検生を創り出さなければ、都立中の受検倍率は3〜4倍程度に収斂していくのではないかとも考えられる。
都立武蔵の難易度下落の影響は、仮説3の影響が大きいのではないだろうか。
ちなみに、高校入試の難易度では、男子の場合、都立富士が都立武蔵を僅かな差で追撃している。数年前まで両国≒武蔵であったが、今年は両国>>武蔵となる。
男子:両国>>武蔵>富士>大泉>>白鴎
女子:両国>>武蔵>大泉>富士>>白鴎
尚、高校募集を行っていない中等教育学校の小石川、桜修館、九段は、当然にこの高校入試難易度には含まれない。
そもそも、都立中受検のマーケットは、『自称・都立中受検専門塾』ではなく、何でもござれの『駅前ショッピングセンター型大手塾』が開拓した。現在は通信教育大手の1つの傘下に入ってしまったが、いまだショッピングセンター型教室展開を続けている。
『駅前ショッピングセンター型大手塾』は、おもな駅に必ずといっていいほど教室があり、集団指導から個別指導までワンストップでどんなニーズにも対応してくれるので、よく目にするモノ、みんなが持っていたり利用していたりするモノなら何でも飛びつく傾向がある、マスな保護者や受験生には人気があり、生徒が大量に吸い込まれていく。勉強難民の心をつかむのはさすがだ。
しかし、難関高校や難関大学に見事に合格した経験を持つ保護者なら、少し考えればわかることだが、受験に成功する人というのは、どこの塾に通うかではなく、地道に己の道を貫くことができる人だ。地方の公立学校から難関大学を目指す受験生には、通塾圏内に大手塾がないのは当たり前の風景だ。
何でもある遊園地化した駅前学習塾に通っても己の道は貫徹できない。駅前学習塾の経営戦略に踊らされるだけだ。塾友のさえない成績を見て、わが子に甘い考えを抱かせるきっかけを与えてしまうだけだ。
駅前学習塾は実は合格実績には興味がない。実は学力伸長にも興味はない。気にしているのはモンスター親子への対応だ。ショッピングセンターにはクレーマーも多く吸い寄せられるからだ。大規模店は、品揃えこそが集客力を上げ、売上と収益を生むという考え方だ。ユルイ入塾基準、あるいは入塾基準など実質ナシで、どんどん顧客を集める。合格させることができるかどうかは関係ない。規模が大きければ一定の合格者数は自然と稼げる。とにかく顧客さえ集められば経営が成り立つ。収益企業である大手塾にとって、これ以上の経営目標はない。学習塾の看板を掲げた学童・生徒向け保育施設のようなところだ。
難関高校や難関大学に見事に合格した経験を持つ保護者なら、「人知れず、己の道を、適切に歩ませてくれる」ような、適切な指導をしてくれる学習塾こそ、アナタの子を成功に導いてくれることに、とうの昔に気がついているはずだ。たまには「瞑想」して己の中の答えを確認してみてはいかがだろうか。マスな人の動きに惑わされて「迷走」してはいけない。わが子の可能性を潰してしまうことになりかねない。