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三田学院

[2017年12月15日]

高校受験の仕組み

『高校受験の仕組み』を正確に理解していない保護者が多い。

?都立高校第一志望+私立併願優遇

最も受験者数が多い王道パターンだ。都立高校を第一志望とし実力相応以上を狙う。ただし都立高校は難易度が中位以上の人気校で実質倍率の高いところが多い。ほぼ同じ学力でも約半分が不合格になる。そこで、併願優遇が取れる私立高校を滑り止めにする。都立高校に不合格の場合は併願優遇を受けた私立高校に進むことになる。私立高校が先に入試を行うが、そこで合格通知を受け取っても、都立高校の合格発表まで入学手続きを待ってくれる。併願優遇の老舗私立高校も存在する。「併願優遇」は、中堅以下の私立高校の最強の受験生獲得手段だ。しかし、多くが入学辞退するので、中堅以下の私立高校の実質的な入学者獲得手段は、?の「私立単願」だ。

?都立推薦:

都立高校に実質2回挑戦できることになることもあり人気が高い。しかし都立トップ校に限らず、偏差値60を超えるような難関校では、倍率が5倍前後となり、内申オール5の闘いとなるので過酷である。しかも、集団討論面接か面接、小論文か作文が課されるので、都立推薦で合格を勝ち取りたければ、それに向けた専用の対策が追加的に必要となり、学力試験の対策時間を割かれることとなるので、負担が大きくなる。

しかし、都立中堅レベルや都立中位レベルでは、倍率が低く、内申も一般とさほど変わらない程度で合格できる穴場もある。倍率が低い理由をよく検討しておいた方がよいかもしれないが、都立高校は学校によって大きく特色が違うわけではないので、過度に心配する必要はないだろう。

それよりも、集団討論や面接、小論文や作文に取り組む余裕があるかどうかを、遅くとも中3早期には検討し、一般試験に影響が及ばないよう、早めにしっかり対策しておきたい。都立推薦に失敗した場合、?に移行するのが一般的だ。

?私立推薦(私立単願):

「推薦」入試の形態をとっているが、都立高校の高倍率な「推薦」とは全く中身が違う。「実質無試験合格」となる出願パターンだ。このため教育界では「私立単願」と呼ぶ。学力試験、作文、面接も形式的なところがほとんどで、不合格になることはまずない。

一般入試より先に合格が決まるので、受験勉強から早く逃げたい受験生にとって強烈な誘惑となる。一般入試合格を目指していた受験生が、秋の三者面談に前後して「私立単願」に豹変したら、「逃げ戦略」になびいたと思ってほぼ間違いない。「実質無試験合格」の誘惑に負けた心が、再び過酷な受験勉強に戻ることはない。「単願受験する私立高校以外に、行きたい高校は一つもない」と言い張って、もはや親の言うことなど聞かなくなる。甘い蜜の味を知ってしまったら終わりだ。「仮内申」がでて「単願合格」が確実になると、一足早く受験競争から離脱する。念願の受験勉強からの逃避が実現する。この手の受験生に「高校中退」が多いことは周知の事実だ。

また、私立高校側は確実に入学してくれる受験生を確保する手段となっており、一般入試では合格できないような受験生ではあっても、大量に入学確実な生徒を囲い込むことができるので、受験生と不人気私立高校側ともに有難い制度となっている。必然的に一般入試や併願優遇で希望校に合格が見込めない受験生は、この「私立単願」になだれ込む。不人気私立高校では主要な受験生の獲得手段となっている。

過保護に育てられて忍耐力がない子、実質ほったらかしで育てられヒトとしての基本訓練が不足している子、そして、そもそも学力が不足している子は、この「私立単願」の格好の餌食となる。

東京都も今年度から私立高校の授業料が無償化された。それを知った親が「私立高校でもいいよ」と言ったが最後、一早く受験勉強から逃げることを待ち望んでいた受験生の場合は、一気に「私立単願」で方針が決まってしまう。傍から見ると、一夜で方針が180度も変わってしまう。「私立でもいいよ」で、受験生の気持ちは秒殺で変わる。そして元には戻らない。

ただし、高難易度の私立高校では倍率があり、名実ともに「推薦」と呼べる入試を行っているところもある。しかし、難関私立大学付属校や最難関私立進学校の一部など数えるほどの校数に限られる。また、高難易度の人気校では「推薦」入試自体を実施せず、一般試験だけで募集するというところが多い。つまり、「単願」に頼らなくても生徒を集める自信のある私立高校は「単願」を実施していないのだ。

?私国立難関校一般受験のみ:
筑波大学附属駒場、筑波大学附属、東京学芸大学附属、お茶の水大学附属といった国立最難関校や、開成高校の高校入学枠などが該当する。

受験生の第一志望がこれらの学校である場合、滑り止めをどうするかが悩ましい。併願先を都立高校に限定している学校が多い「私立高校の併願優遇」が使いにくい。「併願優遇」の併願先として都立高校以外を認める私立学校もあるが、難易度的に高くないところが多く、難関校を目指す受験生の併願先には適さない。そこで、難関校で入試日程が違うところをいくつか組合わせて受験することになるが、組合せを間違えると「全落ち」の可能性が高まる。その後は入試日程の遅い都立高校の一般入試を滑り止めにすることになるが、これも失敗すると後がなくなる。私立高校の一般受験併願先の中に安全校を忍ばせておくのが現実的だ。それより、己の学力に相当な自信がなければ、安易に挑戦しない方が良いだろう。最も過酷な高校受験のパターンだ。

?私立一般のみ:
目ぼしい都立高校への合格は見込めず、難関や上位ではない私立高校を第一志望とするしかなく、それでいて、その私立高校の「単願」や「併願優遇」が受けられない受験生の最終的な手段だ。最もお勧めできない受験パターンである。

そもそも中堅以下の私立高校が第一志望なら、「単願」や「併願優遇」を受けられるように、計画的に努力しておくことが筋だ。なぜなら、一般入試の方が難易度が高いことが一般的だからだ。当然に「不合格」になる可能性が高くなることを承知で選択する受験パターンとなる。

ほとんどの受験生は、そこまでその学校にこだわる理由など実はないはずなのだが、立ちはだかる試練を前に、思考停止に陥る親子が後を絶たない。仲の良い友達や、対抗意識のあるクラスメートなどが進学するから、「単願」や「併願優遇」で受験できる私立高校は、希望よりかなり程度が低い学校しかないなど、「感情バイアス」がかかっていることが多い。冷静になって、客観的な自己評価がかなり甘くなっていないか、よく確認すべきだろう。

?都立一般のみ:
私立高校へは進学したくない場合の受験パターンだ。これも危険な選択だ。志望校に不合格になった時、都立高校の分割後期や二次募集しか道が残らない。しかも、分割後期は定時制や離島が中心となる。わずかに中堅都立高校で分割後期募集を行っているところもあるが、ほぼ例外に近い。当然に安全を期して志望校を選ぶ必要がある。一発勝負のようになるので、試験日に体調を崩したらアウトだ。私立高校の授業料の無償化が始まったので、適切な「併願優遇」を取っておく方が良いのではないだろうか。

実力が伴わなければ合格できない。これは試験の本質である。よって、合格が現実的に見積もれる学校から受験校を選択するのが鉄則だ。

自分の実力以上の難易度の学校ばかり受験校とすると、「全落ち」がリアリティを帯びて来る。自分にだけは奇跡が起こると考えるのは、ファンタジーの世界だけにするべきだ。実社会はリアルだ。

クラスメートのみんなが進む高校が決まっても、自分だけ決まっていないということが起こる。「全落ち」すると、定員割れした不人気底辺私立高校がお忍びで実施する「欠員募集」か、通信制高校(+サポート校)くらいしかなくなる。これらの高校の社会的評価が著しく低いことは、あえて付言する必要はなかろう。