[2017年12月20日]
数学の副教材としては、数研出版の『チャート式』が最も有名であろう。
私立などの中高一貫校では、『体系数学』で数学を学ぶところが多いが、これも数研出版のもので、チャート式の流れをくむ。
かつて、高校生向けの『チャート式』は青と赤しかなかった。進学校の多くは青を採用しているところが多く、赤を採用していたのは開成高校など限られていた。
『チャート式』は現在、白、黄、青、赤の4レベルとなった。
赤:超高難易度の数学を学ぶ人向け。今や数学マニア向けの位置づけとなった。
青:国立理系向け。ただし、チャート式の主力の座を実質的に黄に譲り主役とは言えなくなった。
黄:国立文系向け。東大も文系ならこれで対応できるほど、実はレベルが高い。
白:私立文系の数学受験生向け。チャート式では最も平易だが、多くの人にとって十分な内容。
レベルは充実したが、副作用もある。
そもそも難解であった青チャートだが、黄チャートにやや平易な問題を譲ったために、さらに攻略しずらくなった。解答解説も数学を得意とする人向けに簡潔になったため、数学力がやや不足する難関大学向け受験生の評判を落とした。代わりに黄チャートが主役に躍り出た。
ところが、そもそも黄チャートは青チャートの1レベル下の難易度に設定されている。黄チャートを攻略し終えた難関大学の受験生は、さらに数学力を磨くためには青チャートの攻略を開始しなければならなくなった。つまり、1冊で完結しないので、効率が著しく悪くなったのである。
出版社としては、2冊購入してもらえることを狙ったのかもしれない。しかし、受験生は数学だけ受験勉強すれば済むわけではないので、2レベルの本格的な教材を攻略する余裕がない。
1レベルだけであっても、理系なら、数学?A、数学?B、数学?の3冊必要で、2レベルなら6冊となる。現実的でない。
そこで、新興出版社啓林館の『フォーカス・ゴールド』が注目を浴びるようになった。啓林館も数学教科書出版社だが、数研出版に数学で後塵を拝していた。チャート式の青の失速を見て取ったのか、『フォカース・ゴールド第4版』で大反撃にでている。
『フォカース・ゴールド第4版』の強みは、『旧・青チャート』の良さを取り入れつつ、『新・黄チャート』の領域を取込んで、1冊としたところだ。受験生にとって、黄と青のいいとこどりを1冊(全学年なら3冊)でできるところが、この上なくありがたい。
しかし、体系数学やチャート式で数学を学んできた受験生にとって、啓林館に乗り換えるには勇気がいる。この点も啓林館はぬかりない。色合いは少し違うが、ページ構成を工夫することで違和感なく乗り換えできるように配慮されている。すぐに慣れてしまう。
数研出版の反撃がどうなるか見えないが、今のところ山は動かずのように見える。
難関中高一貫校では、チャート式から派生した『体系数学』がほぼ独占状態だし、都立高校などの高校から高難易度な授業となる進学校でも、チャート式から派生した『4STEP』(両国など)や『サクシード』(日比谷など)が使われている。いわゆる『教科書傍用問題集』としては、チャート式系列は圧倒的な強さを維持しているのだ。
『フォカース・ゴールド』が切り崩すべきは、まずは準進学校(都立であれば偏差値60未満の高校)の受験生であろう。都立重点進学校などでは補助教材や補習としてチャート式系列の教材を使用することが多く、『フォーカス』に手を広げる余裕はない。しかし大学受験指導が手薄な準進学校では、自力か塾・予備校で数学の受験対策をしなければならない。2レベル貫通型の『フォーカス』は効率が良い。次は浪人生だろう。特に地方の宅浪型に近い受験生におススメだ。『チャート』は手垢がつくほど解き回しただろうから、仕上げに目新しい問題集が欲しい。『フォーカス』は絶好の参考書となる。
『フォーカス・ゴールド』
ぜひ書店に立ち寄ったら、手にして見てほしい。きっと欲しくなる。
付録
・国立理系二次:『フォーカス・ゴールド』または『青チャート』(?A・?B・?)
・国立文系二次:『黄チャート』または『フォーカス・ゴールド』(?A・?B)
・難関私立理系:『フォーカス・ゴールド』(?A・?B・?)
・センター基本:『フォーカス・ゼータ』(?A・?B)
・センター直前:『緑チャート合冊』(?A・?B)
『フォーカス・ゼータ』は、数学が得意でない人が、教科書と一緒に使って基礎基本を固めるのに適している。これ1冊でセンター試験まで対応する。『チャート』や『フォーカス』を学んできた人が、センターの直前対策として使用するなら『緑チャート』が最適。最短1ヶ月で攻略できる。短期間での総復習にも向いている。
ただし、公立中学で数学が『5』でなかった人は、いきなり『チャート』や『フォーカス』で学ばない方が良い。数学に恐怖感や憎悪を抱くようになる危険性がある。そうなったら致命的だ。高校3年間はアッという間に過ぎ去るから、数学を攻略できないまま大学入試を迎えてしまう。私立文系しか道がなくなる。やさしい参考書が他にたくさんあるので、そちらで数学をやり直してからの方がよい。