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三田学院

[2018年1月17日]

【都立中】のリアル

都立中に幻想を抱く保護者が後を絶たないようだ。

そのリアルは、わが子を実際に都立中に通わせる保護者でないと、わからないのかもしれない。

1.都立中は大学入試改革に有利であるという幻想

大手塾が創り出した幻想の一つだ。日比谷と小石川の実情で説明したが、ともに純然たる進学校だ。日々の指導の中で鍛えられるのは、まぎれもない学力だ。進学校を経験した保護者ならわかると思うが、10年前や20年前とかわらない高い難易度の学力育成に注力している。

適性検査型の入試を行っていながら、入学後は適性検査型の授業は行っていない。学力重視の授業を行っているのだ。

高校英語に限らず、中学英語も、これから本格化する小学英語も、新しい指導要領では建前として英文法重視から4技能重視に舵を切った。これにより手薄になったのは英文法である。検定教科書では英文法を身につけることができなくなった。しかし、現場の認識は「お上」とは違う。正反対に近い。補助教材を使って英文法を徹底的に指導する。帰国子女のように母国語が英語になっていない限り、つまり普段の思考を英語ではなく日本語で行う人は、英語は外国語である。英語を外国語として学ぶ際に文法を軽視したらどうなるか。現場の指導経験が豊富なら議論の余地はないだろう。

ただし、センター試験に代わる新テストで、TOEICなどで代替できるなら少し話は違う。しかし、小石川などの都立中だけが、こうした代替英語にも力を入れているわけではない。むしろ、中堅の私立中高などの方が積極的だ。大学入試改革への不安をチャンスに生徒募集を成功させ、学力の高い生徒を多く集めて、進学実績を伸ばそうと企んでいる学校が多い。

次に数学だ。以前の日記にも書いたが、新テスト案で試案として提示された数学の新しい(とされる)出題形式は何も新しくない。難関国立大学の二次試験で出題されていたような形式の問題が、新テストである一次試験でも出題されるようになる(かもしれない)というに過ぎない。受験対策として大きな変更は必要ない。入試までの準備スケジュールや対策教材を進める順序を若干変更すれば良いだけだ。

国語については、イジクリようがないだろう。記述が増えたとしても、もともと難関大学は記述が中心であったから、ほぼ受験対策に変更の必要はないだろう。理科と社会も同じだ。国立大学の二次試験や、難関私立では記述式が当たり前だ。マークシート式の試験から、記述式が加わった試験になる程度くらいの変更になる可能性が高い。

難関大学を目指す受験生にとって、さして心配することはない。確かな学力さえ身につけていれば、慌てずに対応できる。

御三家などの私立中高一貫校だろうが、トップ都立校だろうであろうが、都立中だろうが関係ない。勝負を握るのは学力が高いか低いかだけだ。

2.適性検査型の学習は役立にたつという幻想

これも何度も言及しているが、そもそも論理が逆転している。学力が乏しければ、適性検査型の問題を正解することができない。適性検査型の問題をひたすら考えても学んでも学力はつかない。

身につけた学力のアウトプットの練習として、適性検査型の問題を使う意義はある。あるいは、身につけた学力が本物かどうかを確認する手段として、適性検査型の問題を使う意義はある。

学力が乏しい人に、適性検査型の問題に挑戦させても、まともな解答が書けないだけだ。学力を向上させて初めて解けるようになる。

つまり、実社会で役に立つのは「本物の学力」だ。「学校で学んだことは社会に出てから役に立たない」という人がいるが、それは学力が必要とされないような職に就いている人の実体験でしかない。高度な仕事をしている人ほど、学生時代にもっと勉強しておけばよかったと痛感している。特に理系分野では議論の余地がないだろう。文系分野でも、センスやもって生まれた才能に依存する要素が高い分野を除けば同じだろう。

3.都立中入試は、塾ナシ、費用ナシ、パパママ塾で合格できるという幻想

公立中高一貫というくくりなら、完全に間違いだとは言えない。全国には特色のある教育を目標とした公立中高一貫校は存在する。ところが、都立中は進学校型だ。難関の私立中高一貫校と、根本的には求める能力は変わらない。

私立学校の経営圧迫、つまり民業圧迫にならないように、適性検査と名を変え、見てくれも変えた入試を行っているが、学力がないと解けないことには変わりないので、私立中受験生と同じように学力向上を図らなければならない。違うのは知識を問う暗記モノが直接的にはほぼ出ないというくらいだ。しかし暗記モノも取り組んでおけば、適性型の問題でも勘所よく解いていけるし、なにしろ合格後の学習に役に立つ。

開成や桜蔭に塾なしで合格できると思う人はいない。なぜ、都立中だと塾なしで合格できると思ってしまうのだろうか?

これもわが子を合格させた保護者なら知っているはずだが、私立型の勉強をして、難関私立の合格を辞退して都立中に入ってきた子たちは、最初の定期テストからその実力を発揮する。適性検査型重視で合格してきた子たちは、理科や社会はもちろん数学でも苦戦する。

ほとんどの都立中では、難関私立中と同じく「体系数学」を学ぶ。「体系数学」は「純粋な数学」の教材だ。適性検査型数学(算数)の教材ではない。必要とされるのは、まぎれもない数学(算数)の力だ。

ママパパ塾で運よく合格できたごくわずかな子たちは、毎日課される自宅学習量の多さに打ちのめされる。耐え忍びつつ、さらなる後れをとらないようにしないと、途中退学という予想もしなかったリアルに直面するようになる。塾で本格的に鍛えられた子にとって、進学校の自宅学習量の多さはさして苦にならず、ルーティンとして平然とこなしていける。それは難関大学突破への条件でもある。

ちなみに、ある都立中の今年度の入学者160名のうち、「塾なし」か「無回答」と回答した生徒は合計で4名のみであった。その他はすべて「塾あり」と回答した。つまり、「塾なし」かもしれない合格者はクラスに1人しかいないということだ。

残念なことだが、今年この都立中では、1年生の2学期までに、すでに3人が「不登校」になってしまった。このままでは後期課程(高校課程)へは進めなくなるだろう。

4.公立中学と費用が変わらずタダだという幻想

これも正しくない。ほとんどの学校では海外語学研修など、公立中学では行っていない高度な学習が組み込まれている。義務教育でありながら、発展的な内容を学ぶため補助教材が多い。検定教科書は配布されるがほぼ使わない。これらに必要な費用を含めると、無視できない金額になる。

ある都立中では、通学定期代や任意の費用などを除き、全生徒が一律に支払う費用は、3年間で約100万円である。年間約33万円だ。費用によっては積立金として支払うモノもあるが、最終的には費用になる。これに、定期代(年間10万円)や部活動費(ユニフォーム代や合宿費など年間10万円)など任意の費用を足し込むと、年間約50万円は最低かかる。3年間で約150万円かかる。

それでも私立に比べれば半分以下だ。都立中は高いとはいえないが、授業料以外でけっこうかかる。授業料がタダなら、すべてタダということにはならない。私立は授業料が高額なので、初年度は入学金や寄付金などがあり、これに授業料や実費を合わせると約200万円、2年次と3年次がそれぞれ約100万円で、3年間でコミコミ400万円くらいはかかる。系列高校進級時に、高校の入学金として、かなりの金額を支払わなければならない。高校では制服などが変更になることもある。なんやかんやで500万円くらい覚悟しておくのが安全だ。これに比べれば都立中はかなり安い。

タダで良い教育が受けられるわけではない。実費がかかる。かなりかかる。繰り返すが、年50万円くらいは覚悟しておかないと、話が違うということになりかねない。

地元公立中なら、給食費や部活の遠征費くらいしかかからない。3年次の国内修学旅行費などを含めても、平均すれば月1〜2万円で済むだろう。負担になるような金額ではない。ほとんどタダに近い。

安さで言うなら、地元公立中から、高校受験対策の塾代も世間並みに抑えて、なんとか平凡な都立高校に紛れ込むのが一番安い。それで満足できる人なら、それが幸せかもしれない。しかし、抑えすぎて、私立平凡高校にしか進めなくなると、また話が違ってしまう。

地元公立中 → 教育費用最大 → 都立進学校

地元公立中 → 教育費用人並 → 都立平凡高校

地元公立中 → 教育費用節約 → 私立平凡高校

機会があれば【都立平凡高校】のリアルを書けたらと思う。でも、誰も興味がないから書く気になれない。誰にも興味を持たれないところが、【都立平凡高校】のリアルの神髄だ。都立平凡校には都立平凡校のリアルがある。【都立中】とはまったく異次元のリアルがある。語られないし、知られない。書籍にもならない。雑誌でも取り上げられない。しかし、ボリュームゾーンである都立平凡校の憂鬱はつきない。どこまでも続く暗闇のように、光の見えない世界だ。教育関係者の悩みもつきない。改革しようにも、どう改革してよいのかすらわかっていない。そんな状態がずっと続いている。

まとめると、都立中は入学するのも入学してからも楽ではない。親子そろって楽ではない。つまり、都立中を甘く見てはいけないということだ。

しっかり学力をつけて合格しよう。
しっかり学力をつけて入学しよう。
しっかり学力をつけて都立中生活を有意義に送ろう。

入学試験がある公立中学くらいにしか思っていないようでは、都立中のリアルを理解できない。その前に、そもそも挑戦すべきではないであろう。

入学試験がある公立中学くらいにしか思っていないようでは、そもそも志望動機があやしい。志望動機があやしい受検生は、まず適性検査?で見破られる。運よく適性?をクリアできても、適性?と適性?で見破られる。

都立中を受験するということは、それが第一志望か単願である場合には、国公立大学の医学部医学科に挑戦することに近い感覚ではないかと思う。もちろんレベルというか難易度は全然違う。ただ共通点も多い。

・一発勝負である
・実質的に私立は選べない
・合格しやすい学校がない
・入学後も楽はできない

しかも、上記に加えて、

・浪人はありえない(年齢による受検資格を失う)

覚悟がない人には、向いてない。
覚悟がある人にのみ、挑戦する価値がある。