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三田学院

[2018年3月16日]

私立無償化で二極化が進んだ高校入試

今月終了したばかりの、東京都の高校入試概況が明らかになりつつある。私立高校の授業料無償化で、高校入試は二極化が進んだことが鮮明となった。

?偏差値45未満の低偏差値都立高校で倍率が急低下

実質無試験の私立高校へ流れた。特に、名実ともに無試験の通信制高校に流れた。

入学金、設備費、寄付金などはかかるものの、授業料相当分が実質無償化となったことで、完全無償状態の都立高校と私立高校との垣根が下がった。受験勉強を苦痛に感じる低学力層が、内申だけで合格できる、実質無試験の私立校への誘惑から逃れなかったのだろう。

商業科、工業科、ビジネス科など専門学科高校では定員割れする学校が急増した。名目定員割れでは32校、棄権(試験欠席)を含む実質定員割れでは41校となった。ただし、専門学科でも、国際科、芸術科、体育科などは高人気が続いた。

?偏差値60以上の高偏差値都立高校は倍率が上がり難化

滑り止めの私立高校へ進学にすることになっても経済的な負担がさほど大きくならないことを受けて、都立上位校へ果敢に挑戦する受験生が増えた。

旧第一学区と第二学区では、戸山と三田の他、雪谷と広尾が激戦となった。一方で、松原、大崎、八潮、大森は、競争が著しく緩和した。

?隣接県の私立高校が受験生の囲い込みを強化

東京都の私立高校の授業料無償化で警戒感を強めた隣接県の私立高校が生徒の囲い込みに動き、東京都内への越境受験者数が激減。全体としては都立から私立へ動いた分を相殺した。結果として増えたカテゴリーは、通信制私立高校となった。

?都内私立高校の勢力図に変化アリ

高偏差値私立高校では、広尾学園の医進サイエンスは受験者数がさらに増加。宝仙学園理数インターも毎年安定して受験者数を伸ばしている。安田学園は推薦入試の応募者が増えた。

中偏差値の私立高校では、多摩大目黒、目黒学院、日出、SDH昭和第一などが受験者数を増やした。多くは都立高校から流れたとみられる。既存の私立高校では、この辺りが恩恵をうけたのではないか。

一方、高校入試を再開した和洋九段は応募者が1名のみ。その1名も不合格となったため、高校入学者はゼロとなった。同じく高校募集を再開した中村も低調だった。

今後もこの傾向が続く可能性が高いが、揺り戻しにも注意したほうが良い。偏差値45未満の都立高校は見直しが入る可能性がある。

通信制私立高校の人気が拡大中だが、こちらも注意が必要だ。低偏差値全日制私立高校よりも、さらに、いや恐ろしく、高校中退率が高い。ところが、私立高校の無償化で最も恩恵を受けたのは、この通信制私立高校だった。例えば『N高』は生徒数が激増し、代々木キャンパスに続き、お茶の水にキャンパスを設けるようだ。

結論、私立高校の授業料無償化は、学力上位層と学力下位層を分断する結果となった。上位層は果敢に挑戦した一方で、下位層は楽な方へ楽な方へと流れる傾向が鮮明となった。結果的に、学力の二極化を推進することになった。

親をも騙す勉強嫌いの受験生に、格好の逃げ道を提供したようなものだ。

「難しい、分からない」は「勉強したくない」の『言い換え』であることに気がつかない親は、わが子にマンマと騙される。しかし、そんな『言い訳』をするような子に育てたのは、その親でしかないから、自業自得とはこのことかもしれない。

・「オール3の子が取組める課題」を、「オール4の子が難しい」と投げ出す。
・「よくできるがない子が取組める課題」を、「よくできるが半分以上ある子が難しい」と逃げる。

火を見るよりも明らかなのに、マンマと騙される親が後を絶たない。しかも、説明しても理解できない親が多い。だから、そもそも、子に騙されるのだ。説明してすぐにハッと気がつく親なら、まだ少しは見込みがあるが、そうでなければ、残念ながら見込みはない。

「難しい、分からない」に言いくるめられ、安易に逃げ道を与えてしまう親もまた、その程度なのかもしれない。「難しい、分からない」と言われても動じない親でないと、わが子を受験で成功させることはできない。

「難しい、分からない」は、甘えているだけだと一蹴できない親は、子にナメられる。「勉強したくない」という本心は、いくらでも誤魔化せる、しかも見破られない、つまり騙せると知ったら、子は、まず騙すことを優先するようになる。努力したり、挑戦したり、克服したり、乗り越えようとしたり、しなくなる。

しかも、子が10歳を過ぎたら、もはや修正は難しい。遅くとも9歳までに「言い訳しない子」、「逃げない子」に育て上げなければならない。これは、子育てである。だから、親の務めであり、親の責任である。

勉強とは訓練である。生きる訓練である。本質を忘れてはいけない。

本質は、誤魔化したり、騙したり、甘やかしたり、わがままだったり、とは対極にある。

自尊心が強すぎる子、甘えん坊の子、わがままな子は、能力が高くても上手くいかないリスクが高い。よって、自尊心が強すぎる子、甘えん坊の子、わがままな子に育てた親の責任は重い。しかも、その代償は、親と子の双方に及ぶ。償いは、受験だけで終わればよいが、生涯に及ぶかもしれない。

さて、何のために、私立高校の授業料を無償化したのだろうか。あるいは、なぜ無償化したのだろうか。そして、いつまで続けるつもりなのだろうか。格差社会を是正するつもりが、格差社会を助長してはいないか。