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三田学院

[2018年4月16日]

本音では勉強してほしくない親

表向きはどうあれ、本音では、わが子の学業成績が向上してほしくない親がいる。実はかなりの割合でいる。エッと思う人がいるかもしれないが、アナタも実はそうかもしれない。

表向きの希望と、深層心理における欲望である本音は一致するとは限らない。

?勉強ができるようになって、一流大学に進学し、親元を離れてしまっては困る。 
→大都市通勤圏に住んでいないか、大都市通勤圏外で育った親に多い。
→一人っ子、女子の親に多い。

?勉強ができるようになって、一流大学に進学し、親との間に溝ができては困る。
→親の両方または一方が高学歴でない場合に多い。
→家族中心に営む家業がある場合に多い。

判別が難しのは、学業不振になっては困るということが、一般と共通している点だ。表向きは成績が向上してほしいような態度だ。しかし、悪くない成績、ほどほどの成績であればよいのであって、想定以上に成績が向上されては困る。困るのは親である。子ではない。

・いつまでも家族一緒に暮らしたい。
・遠く離れて暮らしてほしくない。
・いつも家族一緒の幸せを手放したくない。
・家族で一人だけデキが良い人になってくれては困る。
・家業を継いでもらいたい。
・老後は近くにいてほしい。
・親とは世界が違う人と家庭をもち疎遠になってほしくない。

特徴的な行動で見分けがつく。

・塾の指導でアクセルを踏むと、家庭ではブレーキをかける。
・宿題が多いと心配する。
・全力で取り組ませない。
・可能な限り楽をさせる。
・常に逃げ道を用意する。
・家族旅行や行事が多い。
・習い事など息抜きが多い。
・天候が悪いと休ませる。
・ツラそうだと休ませる。
・塾をやめたいと言えば辞めさせる。
・塾を変えれば子が変わると安易に考える。
・親子そろって努力が足らない。
・学力向上に地道に取り組ませるより、情報収集に熱心である。
・うまく行かないと他人や社会の所為(せい)にしたがる。

極めつけは、私立中学などの選択肢がある地域に住んでいるのに、

・中学受験は公立中高一貫だけを受けさせる。私立中学は併願させない。
・中学受験は公立中高一貫だけを受けさせる。不合格なら高校受験させる。

この中に、「本音では本気で勉強してほしくない親」が、かなりの割合でいる。もちろん全員ではない。本気で勉強してもらいたい親もいる。そして、中には本当に経済的に私立学校は絶対無理な人もいる。

でも、私立中受験をする人は高収入の家庭ばかりではない。むしろ裕福な家庭は少数派で、一般的な世帯収入の家庭がほとんどだ。ほとんどの人にとって、経済的な理由というのは理由にならない。公立中高一貫を「実質的に単願受検」する理由や動機は、実は多くの場合、経済的要因とは別にある。

その一つとして考えられるのが、「本音では本気で勉強してほしくない親」の都合だ。

一つ目のキーワードは「充実した小学校生活」だ。目標は学力でも合格でもない。極めて曖昧な「充実した小学校生活」だ。「ダラダラした小学校生活」や「何かに取り組んだと言えない小学校生活」や「成績不振の小学校生活」でなければよいだけだ。本気で勉強してくれなくてもよいのだ。

もう一つのキーワードは「大人になって役に立つ勉強」だ。どんな勉強であれ「大人になって役に立つ勉強」である。特別な「大人になって役に立つ勉強」などない。しかし、「思考力・分析力・表現力」というキャッチコピーを都合よく解釈して、「詰め込みではない勉強」なら、ぜひやらせたいとなる。ここで重要なのは、私立中学受験の勉強は詰め込みで、公立中高一貫受検の勉強は詰め込みではないという、客観的な根拠のない論理展開である。詰め込みとは指導法や学習法であって、学習する内容のことではない。私立中学受験であっても、詰め込みではない受験準備の仕方はある。よって「詰め込み」か否かは、私立中学ではなく公立中高一貫受検を選択する理由にはならない。本気でガリガリ勉強することを「詰め込み」とし、そうでない勉強を「詰め込みでない」とするのは、「本音では本気で勉強してほしくない親」にとって好都合だ

「充実した小学校生活」や「大人になって役立つ勉強」のキッカケとして「公立中高一貫受検」はちょうどよい。中学受験専門塾に通わせずに受検させても奇異に思われない(思われなかった)。不合格でも、大規模に投資していないので経済的な打撃が少ない。合格しても、公立中や公立高とさして変わらない支出しか覚悟しなくて済む。不合格でも合格でも、ほとんどの場合不合格だが、物理的なダメージがない。もともと、本音では本気でないから心理的にもダメージはない。しかも、高倍率で不合格者が多いから、不合格でも、ママ友の前でもさほど恰好が悪くない、と思っているフシがある。

その証拠に、アッという間に立ち直る親がいる。かなり多い。実は落ち込んではいないので、瞬間的に立ち直ったかのように見える。スグに前に進みだす出す親がいる。これも多い。何の後悔もなく高校受験に切替えられる親がいる。あと腐れない。

本気で挑戦したのなら、絶対にありえない。半年泣いて暮らすなんてザラだし、一生後悔が続くし、苦々しい記憶としてフラッシュバックする。これらを回避したければ、本気で挑戦するなら合格するしかない。合格できそうにないなら、早々に退場するしかない。もしくは、しっかりと私立受験対策もして、それないりの私立中学に合格するしかない。入学するかどうかは、家庭の方針と合格校がどこかで、合格発表が出そろった頃に決めればよい。事前に行かないと親子で決めておいても良い。ちゃんとした私立中の合格通知があれば、すべてを癒してくれる。

本気で勉強しない親子の場合、ほとんどが不合格になるが、まれに奇跡で合格すると「強烈な悲劇」が待っている。都立中の場合、例外なく進学校だから、勉強しろと言われなくても勉強するような子でないと、入学後の授業についていけない。早々に地元公立中学に転入すれば挽回できる可能性もあるが、前期課程の間はクビにならないからとズルズル在籍すると、後期課程を待たずに「深海魚」になってしまう。高校入試で外に出ようにも、高内申が取れないから、不本意なレベルの高校にしか進めない。公立中学から高校受験した方がよかったとなってしまう。

話しは戻るが、「本音では勉強してほしくない親」の場合、さして悲しくも後悔していたりもしないので、よく観察するとハッキリ見分けがつく。ただ親本人だけが気がついていないだけだ。本気で「本気の公立中高一貫受験生の親」と同じだと思っている。巻き込まれた子は災難だろう。

中には、夫婦会話復活のキッカケや、夫婦の共通の話題作りや、夫を子育てに巻き込むだけのために、わが子に「公立中高一貫受検」させる親もいる。ここまで来ると子にとっては大迷惑だし、巻き込まれる学習塾や家庭教師も災難である。それを承知で引き受けることは、営利最優先でなければできないはずだ。「本音では勉強してほしくない親」と「営利最優先の学習塾」が結託して創り出した「なんちゃって中学受験」が存在するということだ。

こうした親子がいるおかげで、棚ぼた式に幸運を手にする人もいる。感謝しなければいけないのかもしれない。本気な人にとってはチョロイ競争相手だ。打ち負かすのは簡単だ。チョーレイ!、じゃなくてチョーロイ!

・おかげで、高内申が取れる人がいる。
・おかげで、高成績が取れる人がいる。
・おかげで、人気校に進める人がいる。
・おかげで、エリートになれる人がいる。

受験競争と言いながら、参加者すべてが全力で競争(社会的な競争)しているわけではないのだ。

わが子に競争(社会的な競争)されては困る親も、結構いるのだ。

しかも、この親、本人自身は、自分の本音の正体に気がついていない。

しかし、こうした行動は、自然の摂理(自然淘汰)の前では、敗北につながることを、忘れてはならない。

そして、自分への愛情(実は甘やかし)と、子への愛情(実は甘やかし)を、取り違えてもいけない。

子への愛情が本物なら、わが子を厳しく育てるはずだ。

正しい子育てをしよう。親の都合による中途半端な子育てはやめよう。