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三田学院

[2018年7月8日]

【都立中】災害リスク

今回の豪雨では、多くの方が被災されました。お見舞い申し上げます。

大災害としては、地震、津波、洪水などを連想する人が多いのではないかと思います。そして、大災害は、予測しにくく、対策しにくいと感じていらっしゃるかもしれません。

しかし、いずれも「土地条件図」を見ていただければ、それぞれの場所にどんなリスクがあり、どんな災害に見舞われる可能性があるのか、事前に確認できます。

不動産を購入されたり、お部屋を借りたりするときに、「古地図」を見るとよいというアドバイスを書籍などで見かけますが、「古地図」よりも「土地条件図」をお勧めします。

国土地理院の英知が結集された渾身の地図です。

もともと、旧帝国陸軍が、本土防衛のために地盤調査を推進したことを起源としていますが、終戦後は平和利用の目的で、国土地理院が調査を引き継ぎました。数十年前は主要な都市部しかカバーされていませんでしたが、災害対策の目的もあり、どんどんカバーされる地域が拡大しています。また、調査内容も深化しており、さらに有益な情報が得られるようになりました。古地図と比較にならないほど科学的な調査結果の集積が盛り込まれています。

ご覧いただくと、古くからある重要な国の教育施設は、ほとんどが土地条件の良い場所に立地していることがわかります。

東京大学の本郷キャンパスしかり、東京大学の駒場キャンパスしかり、東京医科歯科大学の国府台キャンパス(千葉県市川)しかり、筑波大学の東京キャンパス(旧東京教育大学キャンパス、文京区)しかり、筑波大学の附属中学高校しかり、お茶の水女子大学のキャンパス(一部を除く)しかり、東京学芸大学附属竹早小中学校(校庭の一部を除く)もしかりです。

国の施設でなくても、開校年度が古い伝統校を母体とする都立中のいくつかも土地条件は良好です。しかし、すべての都立中が良好な立地とはなっていません。崖崩れリスク・地すべりリスクや、河川の氾濫リスクがある、かなり危険な場所に立地している都立中もあります。

もちろん、通学経路も含めてリスク評価する必要があるでしょう。

そもそも、自宅が危険だと、学校の災害リスクは、あまり意味をなさないかもしれません。

自然地理学や地盤工学ではなく、構造力学や建築工学の領域ですが、熊本地震の地震波による研究で、タワー・マンションが倒壊する危険性があるという報告には驚きました。免震装置付きの方がさらに危険な場合もあるらしいのです。そもそもタワー・マンションは実物での安全性の検証はできないので、シミュレーション法による検証に頼っており、安全性を完全には担保しにくいでしょう。

だからといって、従来型のマンションが、より安全な訳でもありません。熊本地震ではSRCやRCの中高層マンションも多く罹災しました。ただ新耐震基準施行後の建物で、倒壊した建物はなかったようです。

個人的に注目しているのは、強固な地盤の上に建つ木造住宅が新築でも全壊したエリアがあった一方で、すぐ近くの軟弱地盤エリアに建つ木造住宅がほぼ無傷だったことです。一般常識とは逆ではないでしょうか。地震波の周波数や波形によるのだと思います。建築基準も耐震性能表示も免震装置も、そして一般常識も、過信はできないということでしょう。

学生時代に少しだけ研究に参加させていただいた、ある民間研究団体が、もう何年か前に、エア・サスペンションを使った3D免震装置の実用化に成功しています。これなら安心できそうです。ただし、戸建に応用しますと、経済合理性が失われるくらいの高額な費用がかかると思います。巨大地震対策だけに、そんなに費用をかけられるのかなとも思います。私立学校に通わせる費用よりも高くなります。建築面積や性能によっては、私立の医学部医学科に通わせるくらいにもなるかもしれません。

京都大学の独自の研究では、木造戸建に多い「在来軸組工法」に「木製の構造壁」を組合わせる工法で、安価にして、倒壊しにくい安全な住宅を実現できると提唱していますが、実用化あるいは商品化されたのでしょうか。

今年の大阪の地震のときも、たくさんの帰宅困難者がでましたが、ハード面だけでなく、ソフト面での検討も必要でしょう。巨大ターミナル駅を経由する通学は危険度が高いかもしれません。どこで、どの時間帯に、どんな状況で被災するかは、正確には予想できません。

通学途中で被災した場合は、それぞれの場所では、どこに避難したらよいのか、実際に歩くか自転車で回って、確認しておくと良いでしょう。最悪の場合は、自宅や自宅周辺の避難施設まで、自力で辿り着かなければなりません。通学が過度に長距離にならないようにした方がよいかもしれません。

土地条件図を、学校選びの際にも、参考にしてみてください。

大切なお子さんを通わせるのですから。

合格することだけに気を取られず、広い視野を維持しながら受検に臨みたいものです。