[2018年7月29日]
光が強いほど、影は暗い。
付属校型の都立中高一貫校に焦点をあてたデータをご案内してきたが、中等教育学校にも注目したい。
課題を抱えているのは、付属校型の都立中高一貫校だけとは言えない。2018年3月の6年生(高校3年生)の卒業生数を一覧にする。
卒業生数、(募集人数)、減少人数
小石川:155(160)、−05
桜修館:152(160)、−08
九段中:140(160)、−20
三鷹中:149(160)、−11
立川国:149(160)、−11
南多摩:145(160)、−15
*南多摩のみ2018年度卒業生数が補足できないため2017年度の数値で代替。
高校からの入学者がいない「中等教育学校」でも、6年間で消えている生徒が相当数いることがわかる。
学校側の説明では、海外留学や海外赴任の帯同などで一時的に休学する生徒は、1年ほどで復学することが多いようなので、消えた生徒の主たる要因には含まれないと考えた方が妥当だろう。
一旦は落ち着いたと聞いていた「九段」だが、かなりの生徒数が卒業までに欠けていたことがわかる。前回確認した際とおなじく、すべてがA区分の生徒ではなく、B区分の生徒も多数含まれていると思われる。
ここで、近隣公立中学の「転出生徒数」(転出のみ)を参考表示する。かなり少ない。実際の総人数は転入者により、ほぼ穴埋めされている。
港区立A中(1学年3クラス)・3年1学期末までの累積転出者数:2名
港区立B中(1学年3クラス)・2年1学期末までの累積転出者数:2名
中央区立C中(1学年6クラス)・1年1学期末までの累積転出者数:0名
比較可能なように、併設型都立中高一貫校の高校3年生の卒業生数も掲載する。欠員募集により、途中で何人が穴埋めされたかは不明である。
武蔵高校:193(200)、−07
両国高校:188(200)、−12
白鴎高校:229(240)、−11
富士高校:193(200)、−07
*大泉高校は卒業生数がホームページ等からは不明のため掲載していない。
すでに別の日にご案内した「3年制の都立高校進学校」と比較すると、脱落したかもしれない生徒が相当人数いることは間違いないであろう。また、地元公立中学の転出者数と比較しても、かなり多い。
原因が、学業不振なのか、メンタル上の問題か、健康上の問題か、転居などによる理由か、原因の詳細は不明だが、3年制高校や公立中学と比較すると、転居以外の理由による中途退学者が、かなりの人数いそうであることが見て取れる。
「付属校型(併設型)」の高校入学者だけが課題をかかえているのではないことがわかる。「中等教育学校型」も課題を抱えている。
「6年一貫教育」に長年の経験と実績を持つ、難関私立中高や最難関国立大学附属中高と比べ、そもそも「都立高校」を母体として設置され、まだ十分な経験や実績のない「都立中高一貫校」は、「6年一貫教育」のノウハウでまだ十分でない部分があるのかもしれない。
あるいは、「都立高校」の復権を目標として設置された「都立中高一貫校」であるから、都立の進学校としての役割を担う「高校課程(後期課程)」に適性がない生徒が、自主的に去っていくのは仕方がないと受け止められているかもしれない。
「都立中高一貫校」であっても、「高校課程」は義務教育ではない。授業料はもともと格安だし、実質無料化しているので、私立学校のように、在籍してくれている限り相当な額の授業料を納めてくれる訳でもない。むしろ、税金を財源に運営している以上、一部の生徒を過度に手厚くケアすることは、税収入の適切な再配分を妨げかねない。
それよりも、「その生徒にとって、ちょうどよい、別の学校」に移っていただくことが、実は、生徒本人も、保護者も、残る生徒も、残る生徒の保護者も、教員も、学校も、教育委員会も、都も、都民も、納税者(法人など)も、幸せなのかもしれない。
設置形態が「併設型」か「中等教育学校型」の違いによって、根本的に解決する問題ではないのではないか。都立の「中等教育学校」もまた「影」とは無縁ではないのである。
この件は、学習塾関係者が聞こうが、保護者が聞こうが、入学希望者が聞こうが、学校側の説明は歯切れが悪い。原因を追求しようとすると、学校側は責任を追及されているかのように感じるかもしれない。だから、当事者の説明で納得してはいけない。英米法の「口頭証拠不採用の原則」を参考に、物的証拠のみで真実に迫るのが適切であろう。また、特定の誰かだけに責任を押し付けるのも不適切であろう。
受検生や保護者を含め、すべての当事者が、それぞれの立場で、最適解を追求するしかないのである。
受検生にとっての一つの方策として考えられるのは、しっかりとした学力の土台を、小学生の段階で身につけておくことであろう。前にも書いたが、都立の進学校が求める「思考力・判断力・表現力」とは、「ハイレベルな学力」のことである。日比谷高校などの「出題の基本方針」をご覧いただければわかる。
「ハイレベルな学力」とは、単に「適性検査を突破できる力」ではないということを肝に銘じておく必要がある。
「光」だけに目を奪われてはいけない。
「影」にこそ、真実が映しだされることがある。