[2018年8月11日]
都立中の抱える課題にフォーカスして、都立中の「影」についてお伝えしてきた。しかし、都立中を否定しようとしているのではないので、誤解のないようにお願いしたい。あえて課題を指摘することで、より正確に都立中を理解する一助になればと考えている。
■併設型における高校募集の不振
高校募集を止めれば、もちろん解決する。
これによる都立高校募集総定員の減少は、既存の都立高校の定員を増やせば解決する。例えば、今春募集定員を1クラス減じた三田高校や目黒高校など5校程度で、それぞれ1クラスずつ増やせば、5クラス分など簡単に増員できる。
都立高校の普通科の標準的な一学年のクラス数は8クラスだが、これより少ないクラス数しか募集していない都立高校はたくさんある。よって受入余力は十分にあるはずだ。
近い将来港区に新設予定の「新国際高校(仮称)」は6クラスでスタートする。少子化を背景に、将来的には1学校1学年は6クラス体制になる可能性がある。長期的には、都立高校の募集定員は削減方向になると予想されるから、十分に対応可能だ。
高校募集を停止して中学募集を4クラスとした場合、停止後の3年間は、後期課程(高校課程)の人数が1クラス分少ないままとなってしまう。移行期間として1クラス分だけ高校募集すればバランスが取れるが、1クラス分だけの募集は容易ではない。40人だけなら、すべて推薦入試にしてしまうということも考えられるが、どうなるだろう。
すべての併設型中高一貫校が「中等教育学校」への変更を望むかどうかはわからない。都立高校の復活を背景に、中高一貫校から3年制高校へ戻る選択をする学校があるかもしれない。
そうなると、都立中高一貫10校体制が崩れてしまう。また、地域的なアンバランスが生じる怖れもある。そのような場合は、旧学区内の別の都立高校を中高一貫化して10校体制を維持するのかもしれない。ウルトラCで、九段が千代田区立から都立に戻って、すべて都民枠とし、10校体制維持ということもありかもしれない。その場合は、都立中高一貫校がない旧学区が生じてしまう。
3年制都立高校に戻る選択肢がある場合、その最有力候補は両国だろう。都立トップ校への道を望んでいる可能性がある。今年度の中学募集向けの説明会や学校公開の日数が、他校と比べて極端に少ないのはなぜだろう。もう内部的には決断しているのではないかと疑いたくなる。
武蔵は、3年制に戻るのはイバラの道となるかもしれない。地域的に、まず武蔵野北や小金井北などと激突する。それを制した後も、立川や八王子東と闘わなければならない。「多摩地区の絶対王者」である国立には迫力負けしそうだ。よって、上手く行っている中高一貫校のままの方が居心地がよいのではないか。
それよりも、問題意識が向かってしまうのは、旧第3学区に、大泉と富士の2校の中高一貫校があることだ。1校で十分ではないかという判断があってもおかしくない。大泉は中学募集の難易度が改善した一方で、富士は中学募集が相対的に上手く行っていない状況が長く続いている。中学募集の定員を拡大させると、さらに状況を悪化させるリスクがある。強制的に都の進学校の地位を剥奪されるという不名誉なことは避けたいところだろう。
■併設型における「先き取り」
高校募集を止めれば、新中入生から直ちに解決する。高入生に配慮する必要がなくなり、中高一貫のメリットが活かせる。
■校内学力格差
高校募集を止めれば、併設型特有の中入生と高入生の混合により生じる課題については解消する。
しかし、中入生の、校内「下層民」の問題は解決しない。
そもそも、高入生は、「3年間で学力格差が大きく開いた中入生」の学力中央値付近の学力で入学してくる。
高入生が入学してくる高校1年生の春の時点では、深刻な学力的課題を抱えているのは、むしろ中入生の一部である。
高入生は高校受験準備でしっかり勉強してきているから、高校入学時に大きな課題を抱えている生徒はほとんどいない。
高入生の学力的な問題は、「中入生の学力上位層」と混成で授業を受けるようになったときに生じる。高1終了時点か、高2終了時点で発生する。これが、併設型の補欠募集の人数が、高2や高3で大きく増える一因となっている可能性がある。
これと並行して、中入生の学力下層民の状況が深刻化する。高難易度かつ高速な授業に、ほぼまったくついて行けなかった期間が約3年と長くなり、教科によっては基礎基本すら怪しくなる。
高入生が入学してくる高1の春頃には、相対的な学力が深刻なまでに低下した中入生が存在していると推察される。
この、中入生の「落ちこぼれ」は、併設型だけの課題ではない。中等教育学校型でも起こる。だから、併設型で高校募集を停止しても、中入生の「落ちこぼれ」問題は、全く解決しない。中等教育学校でも起きている課題なので、中等教育学校化しても、つまり完全6年一貫にしても、解決しない。
■校内「落ちこぼれ」対策
対策は大きく分けて3つ考えられる。
?学校側が、習熟度別授業をさらに充実させるなどして「落ちこぼれ」を救済する
公立小学校の習熟度別授業の実態でも確認できるように、学力下層の児童が、成績上層にまで這い上がってくることはまずない。学年が上がるほど、下層メンバーは固定化する傾向にある。
大手学習塾の成績別クラス編成でも同じようなことが起きる。学力下位層は下位クラスに固定化するようになる。学校と学習塾では、その編成目的が違うかもしれないが、習熟度別や学力別のクラス編成をしても、学力下層民の学力を引き上げる効果はさほど期待できない。よって、この案は、実質的に解決策にならない。習熟度別授業は、理解度が低い生徒を気にせずに先に進めるという点で、実は学力上位層にとって効果が大きいのである。
校内下層民(校内成績が下位33%に入る生徒)の学力引上げでは、以前にご紹介した「北嶺」が成功しているが、成績下位3分の1に対する「遅番先生」約10人による「放課後の強制的学習指導」が効果を上げているのであって、かなり特異な事例であり、どの学校でも取り組める方策とは思えない。特別な予算措置や追加的教員配置が必要であろう。
?ハイレベルな都立中の授業についていけるように、入学が決まった直後から全力で学業に取り組み、そして継続する。
しかし、すべての生徒が実行できるわけではない。誰でも実行できるなら、そもそも、この問題は存在しないはずだ。誰も「落ちこぼれ」たくて「落ちこぼれ」た訳ではない。努力で解決できる生徒もいれば、いくら努力しても解決しない生徒もいるということだ。よって、これは解決策にはならない。
?小学校段階でしっかりと学力をつけておく。
合格できればよい、適性検査で得点できればよい、などと考えず、しっかりと学力をつけた上で入学するということだ。
適性検査対策専門で都立中受検対策を行うと、難関私立中学や難関国立中学を目指して準備するよりも、教科の学力が相対的に低くなりやすい。
都立中入学後の学内テストで、難関私国立中対策をして合格してきた生徒が好成績を収める一方で、適性検査対策だけで合格してきた生徒は平均付近から下の成績となることが多いと、内部から聞こえてくることが実質的に証明しているのではないか。
もちろん、適性検査型入試対策で合格したすべての人が「落ちこぼれ」る訳ではなく、「上位層」に食い込む生徒もいるだろう。その逆もあるだろう。しかし、4教科の学力を徹底的に磨いてきた合格者と比較すると、適性検査対策専門での合格者はリスクが高いと見ておくべきだろう。
なぜなら、入学後は、適性検査型の授業など、ほとんど行われないからだ。中学や高校の学習指導要領は、都立中でも同様に適用され、大学受験を想定した進学校のカリキュラムは、難関私立中学高校と根本的な違いはない。よって、入学後に好成績を修めるためには、教科ごとの高い学力が必須となるのである。
熱望していた都立中学に合格しながら、不本意な状況に陥らない方策としては、この?が現実的に実行可能な策であろう。
適性検査問題の攻略ばかりに目を奪われずに、可能な限り高い学力を身につけて都立中学に入学するのが得策である。4教科の学力を、より高くまで引き上げておけば、校内「下層民」となるリスクはより小さくなり、都立中へ進んだ当初の目標をより達成しやすくなる。
よって、都立中の受検対策も4教科の学力伸長に主眼を置くべきだと考えている。もれはもう何年も前から主張していることだ。過去の日記を参照されたい。都立中に合格するだけが目的ではないはずだから、都立中での6年間を有意義に送り、より先の目標を達成するためにも、必要なことだと考える。
もちろん、テストの点数だけでなく、意欲・関心・態度も「広義の学力」に入る。報告書の評定が高いことは、都立中で成功する『適性』が高いことを意味していると考えている。楽々『オール3』が取れるような子ほど、リスクが小さいのではないか。
・報告書は『オール3』を目指す ⇔ 小学校の通知表はどうでもよい?中学校の通知表も?
・中学受験4科の学力をしっかりつける ⇔ 学力よりも適性検査の得点力が重要?
・難関私立中学に4科受験で合格する ⇔ 学力が乏しくても、適性検査が解ければよい?
・都立中学は成績上位合格を目指す ⇔ ビリでもマグレでも合格できればよい?
わが子の未来を都立中に託すなら、わが子に都立中の6年間をイキイキと過ごしてもらいたいなら、入学前の小学生のうちに、しっかりと学力の育成に取り組んでおきたいものだ。
都立中に合格することが人生の目標ではないはずだから、そして本当の勝負は都立中に入学してから始まるのだから、しっかり準備を整えて入学しよう。
これで、やっと、これまでの日記の主旨をご理解いただけるであろうか。