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三田学院

[2018年9月29日]

【英語4技能】商法にダマされるな

英語4技能に関する「商売」が活発化しているようだ。

中には、高校入試まで4技能対応になりつつあるかのように宣伝しているモノもあるが、都道府県立高校の一般入試で、英語4技能試験を実施している学校は、現時点では一校もない。今後どうなるかも不透明だ。

大型書店に行けば、全国の公立高校の過去問題集が売られているので確認できる。簡単なリスニング問題なら数十年前から出題されているが、これは「4技能」試験と呼べるようなモノではなく、新しくもない。優等生でなくても正解できるような基礎的な問題である。

国立大学入試ですら、まだ4技能試験は導入されておらず、今後、実際にどう転ぶのか、全く正確に見えていない。

東京大学が、今年9月下旬、実質的に外部英語民間試験を受けなくても受験が可能な入試選抜方式を正式発表した。外部英語民間試験を受けても構わないが、受けなくても構わないという内容だ。つまり、外部英語民間試験は受けなくてもよい、ということだ。巧妙に、外部英語民間試験導入を見送ったのだ。詳細は新聞報道などで確認できる。

「東京大学による実質的な外部英語民間試験導入の見送り」は、理にかなっていると思う。なぜなら、外部民間試験を入試に導入しても、受験生がその対策に取り組み、ほとんどが高得点をとるだろうから、「選抜試験の役割が果たせず」、結局のところ、追加的に従来のような英語試験を課さなければならなくなり、ただ手間が増えるだけだからだ。

もちろん、最難関大学の受験生の多くが、英語民間試験で、高いスコアを取ることには、それなりに価値があるだろう。しかし、スコアが高ければ英会話がスムーズにでき、英語でコミュニケーションがスムーズに取れるかというと、そんな単純なモノでもない。しかも、同年代の約40%以上が進学する、すべての大学でとなると、さらに混乱をきたしそうだ。

そもそも日常的に英語を話す環境がない中で、ある日突然に4技能にシフトしても、かえって英語嫌いや、英語アレルギーを増やしてしまう怖れすらあるのではないかと危惧される。現場で、英語の苦手な生徒の指導をしてみればわかる。

彼らの中には、科学技術の進歩で、スマホ型や腕時計型などの「ウエアラブル外国語同時通訳機」が近い将来に登場し、英会話というか外国語会話など習得する必要がなくなることを、本気で夢見ている者もいる。実際にそうなるかもしれない。AIが急速な進歩を見せる中、庶民が宇宙旅行するようになるよりも、遥かに現実味がある。10年以上前から自家用車のナビは言語を理解して、言葉かけするだけで動作し、案内してくれている。PCで動作する自動翻訳機の性能も向上してきている。むしろ、ヘンテコりんな日本語だと、ちゃんとした英語にはしてくれないので、母国語である日本語力の方が問われる。

「ウエアラブル外国語同時通訳機」のような電子機器が普及すれば、日本語のままで外国語を話す人と会話ができてしまうので、外国語を「聞く・話す」技能を身につける必要がなくなる。中途半端な外国語会話力より正確なので、安心してコミュニケーションできる。しかも、ソフトを追加するだけで、英語だけでなく、フランス語や中国語など、多言語で会話できるようになる。「ウエアラブル多言語同時通訳機」の音声をマネをしているうちに、外国語会話をマスターしてしまうかもしれない。

そうなると、外国語の習得は、また「読む・書く」重視の方針に回帰するかもしれない。大学や大学院では、研究をする上で外国語論文が読み書きできなければ話にならないし、ビジネスでは外国語の難解な契約書や説明書を読み書きできなければ、詐欺に合ったり、訴訟を受けたりする危険性すらあるからだ。現状でも「読む・書く」能力の向上は、実は深刻な課題なのである。

最近気になるのは、むしろ国語力の低下だ。実用的な漢字力や語彙力が低下してきているように感じる。英語英語と騒がれる中で、母国語の重要性を軽視する保護者が増えているような気がしてならない。自称優等生の小学生や中学生で、漢字の読み書きの得意な生徒の比率が急激に低下しているように思う。

母国語の運用能力を超えて、外国語の運用能力が向上することは考えにくい。いつか、国語力の低下が問題視される日が来るのではないだろうか。

英語4技能を学校教育にばかり押しつけることにも、問題意識を持たざるを得ない。まず、新基準の英語科教員の育成が間に合うかという課題がある。本格的な育成すら進んでいないのではないか。そこで民間やらNTやらを活用するという案がでてくるのであろうが、英会話学校なら、もう30年以上前から存在しており、今でもオーバー・ストアなくらい存在している。英会話学校は、これまでどれほど役割を果たせてきたのであろうか。高額な費用がかかるだけで、役に立っていないのではないか。

そもそも、英会話力って、学力なのかという、本質的な疑問もある。

文部科学書発表の資料「第3期教育振興基本計画における指標・施策群の考え方について(基本的な方針?)」では、「?グローバル人材の育成」に関する「目標候補案」では、目標を次のように掲げている。

・中学校卒業段階で、「英検3級」以上達成の割合を50%以上にする
・高校卒業段階で、「英検準2級」以上達成の割合を50%以上にする

それぞれの現状は、平成28年度で、ともに約36%である。

英検準2級は、高校受験する平均的な学力の中3生なら、ほとんどの人が合格できるので、受験率さえ引き上げれば、達成率50%というのは、容易に達成できそうな目標である。

つまり、英語4技能改革は、実は大した目標ですらないのに、商売目的の評論家やコンサルタント、英語関連の営利団体などが、盛りに盛って世間を騒がしているだけかもしれない。

中学や高校における、英語科教授法の実態の中や、大学入学試験問題の中に、旧態依然とした部分が残っているので、現状に則した内容に更新するというだけではないか。一部のマンネリ化して気の抜けてしまったような英語教員を鼓舞する役割は期待できるかもしれない。公開されている「平成32年度改訂予定の学習指導要領(案)」が、劇的な改定にはならないことも、このことを支持している。

大きく変わると言えば、小学校で英語(外国語)が教科化されることだが、これは中学校段階の基礎的な内容を小学校高学年に移行するもので、より期間を長くして確実に習得させようとするものである。これにより、近年急速に二極化が進み、「二こぶラクダ」化している中学生の英語の成績分布を、他の教科のように「一こぶラクダ」にしようとしているのであろう。

しかし、小学校の英語教員の育成こそ、間に合わないのではないか。そもそも、ネイティブ並みの英会話力のある人材の多くが、小学校英語教員を目指してくれるだろうか。「ママさん英会話教室」のようなレベルなら、発音やイントネーションが不正確で不適切なだけでなく、実用的な英会話の運用力も怪しく、むしろ有害にならないか。

小学校段階で英語学習に不熱心な保護者の子であっても、中学入学後の早い段階で、英語で落ちこぼれないように配慮しようとしたものだとも考えられる。小学生で「こども英会話教室」に通わなくても、あるいは、通えなくても、中学英語にスムーズに接続できる可能性は少しは高まる。小学生段階から、他の教科とおなじように、学校学習内容をしっかり勉学すよう励めばよいだけだ。

まあ、小学校で英語を正式教科にしても、日本人の英会話力が劇的に向上することはないだろうから、過度な期待はしない方がよい。

しかも、英検の取得目標が50%であるように、文部科学省というか政府は、学業成績下位50%層には最初から何も期待していないとも考えられる。英会話力に限らず、学業成績下位層というのは、どんな政策を駆使しても底上げは難しいことに気がついているのであろう。

習熟度別指導は、上位層にこそ効果がある。下位層の引き上げは個別指導でも容易ではない。学業成績下位層をカモにすることが営業目標であり経営基盤であるような、巷の「介護型」個別指導チェーンの多くが、合格実績で壊滅的な状況にあることが実証している。

国民全体の能力を向上させるためには、上位層の能力を引き上げることの方が手っ取り早く、国や自治体などの予算も効率的に運用できる。下位層に焦点をあてると、投入予算や政策がムダになる危険性が高い。

ということで、勇み足は危険であるし、ムダになる可能性があるので、現実的な対応策を提案しておこう。ただし、これも、効果があるのは、上位層だけかもしれない。

母国語が英語ではなく、日常的に英語を話す環境にない場合は、英語は生活言語以外の純粋外国語として学習することになる。日常的に英語を話す環境とは、家族などとの恒常的な意思疎通が英語であるような場合を指す。家族との意思疎通が日本語で行える場合は、英語がなくても生きていけるので、あえて日常的に英語を話せるようになろうとするインセンティブがない。

生活の中に英語が必要ない場合や、生活で英語を使う機会が限られる場合は、以下のような学習スタイルに収斂するであろう。

読む:英文法・英語構文・英単語熟語→英文解釈→「読める」
書く:英文法・英語構文・英単語熟語→英作文→「書ける」
聞く:英文法・英語構文・英単語熟語→英文解釈→英語リスニング→「聞きとれる」
話す:英文法・英語構文・英単語熟語→英作文→英語口頭表現→「話せる(伝えられる)」

英語が母国語ではない、純粋外国語の場合、4技能習得の上でも、「文法・構文・単語熟語」がベースの共通要素となる。

そもそも、読んでわからないのなら、聞いてもわからない。頭の中で瞬時に英作文ができないと、英語は口から出てこない。外国語の運用が、母国語の運用とは大きく違うところだ。母国語では、読み書きができない人でも、日常会話ができる。識字率の低い地域での実証研究が証明している。

英語が母国語ではないのなら、「英文法・英語構文・英単語熟語」にしっかり取り組んだ方が効果的だ。

その上で、英語のCDなどを聞いて「ディクテーション」し、正確な英語リスニング力を培い、英語のCDなどを聞いて「シャドウイング」し、マネすることで英語発話力をつければよい。

このためには、実際に使われていて、様々な場面で頻出で、網羅的な「例文集」を、丸暗記してしまうくらいまで、繰り返し学習することが効率的だ。言語取得の基本はマネをすることである。赤ちゃんは、母親などが話す言葉を聞き、マネして言語能力を身につけていく。

英文法の参考書にも、英語構文の参考書にも、英作文の参考書にも、「基本例文集」というのが付属している場合が多い。それぞれの著者の肝入りの例文集なので、丸暗記できてしまうくらい繰り返し学習することをお勧めする。この例文をネイティブが録音したCDが付属している場合が多いので、これを有効活用したい。

・CDで例文を聞いて、ディクテーションする。
・CDで例文を聞いて、シャドウイングする。

完璧になるまで何度も何度も繰り返すのだ。

上達してきたら難易度を上げる。英語長文リスニング用のCDにも並行して取り組むことをお勧めする。

・CDで英語長文を聞いて、英文で要約する。(「概要」をつかむ練習)
・CDで英語長文を聞いて、英文での質問に、英文で答える。(「正確」に内容を聞き取る練習)

これで、従来型の入試英語には十二分以上に対応できるし、英検はもちろん、TOIFLやTOEIC対策にもなる。「4技能試験」の対策にもつながる。

大学入試改革が本格実施される平成34年か35年までは、得体のしれない物に、過剰反応することは避けた方が賢明だ。

商売上手な営利団体のカモにならないように、気をつけよう。