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三田学院

[2018年10月3日]

【都立中】併設型で高校募集停止へ

東京都教育委員会が、平成30年6月に発表した「都立中高一貫教育校検証委員会報告書」では、その59ページに、以下のように書かれているとお伝えした。

「中高一貫教育のメリットを最大限生かし、より中高一貫教育の趣旨に沿った教育を展開するために、都立中高一貫教育校においては中学校段階からの入学を原則とし、6年間一貫した継続的・計画的な教育を一層推し進めていくことが望ましいと考えられる。その際、中学校段階の受検倍率が5〜6倍程度あることを踏まえ、現在の併設型において高校募集を停止した上で、中学校段階の入学枠を拡大することが望ましい。」

「・・が望ましい」という表現だが、お役所文書の特有の表現であり「決定事項」だと考えた方がよい。実際に、都立中学の現場の幹部も「決定事項」であると認識していた。

つまり、現行の併設型中高一貫校で、近い将来に高校募集は行われなくなることは「決定事項」であるということだ。

併設型の高校募集は、入試選抜が機能していないという趣旨が教育委員会の報告書にも書かれているが、現場としては深刻なほど機能していないという認識だ。すぐに停止しても何ら問題ないと考えているというより、すぐにでも停止したいと思っているように見えた。

高校募集を行わなくするのは簡単だ。募集しなければよいだけだ。しかし、「中学募集定員の拡大」は、募集停止と違って十分な準備が必要であり、簡単ではない。

現時点では、どの時期に、どの都立中で、どの程度の人数を、募集拡大するかは、正式には決定されていないようだ。

しかし、突然に詳細が決定され、決定事項として発表されるかもしれないので、注意深く情報収集を続ける必要がある。お役所の発表とは、そういうものだ。

高校募集とともに、中学募集が上手く行っていない都立中の存在については、都立中の側も認識している。9月下旬に情報交換した、ある都立中の幹部は、「小石川の一強+上位校が数校」の状態、これ以外は上手く行っていないという認識だ。特に、以前に指摘した、23区内の併設型2校は、「小石川+数校」とは、大きくかけ離れた状況にあるとの認識である。こちらから話題を振る前に、校名を名指しで言及したから、この2校は相当厳しい状況なのだろう。

尚、この話題の対象には、千代田区立である九段中等は含まれていない。さすがに越権行為になるからかもしれない。

これら問題の深刻な2校でも、高校募集停止に伴って、中学募集定員を拡大させるのかどうか、興味深い。

中学募集定員を拡大させると、「落ちこぼれの都立中学生」の人数が増えるのではないか、心配だ。

6年一貫教育でありながら、授業の進度を遅くしたり、授業の難易度を下げたりすれば、難関大学の合格実績に影響する怖れがある。都立高校の復権をかけた取組の一つである、都立中高一貫校設置の目的が損なわれる。

さあ、どんな対策とセットで、中学募集を拡大させるのであろうか。注目である。

2校のうち1校は、今年に入って、興味深い動きが見られるので、いつかレポートすることになるかもしれない。ただ、高校募集停止を控えた中での動きであるから、高校募集停止後は、また違う動きになるかもしれない。

最も深刻に感じる1校は、動きだした気配がまだ見て取れない。深刻過ぎて対策が取れないのだろうか。あるいは、動いているのだが伝わってこないのか。あるいは、動いているのだが的を射ていないか。現時点ではよくわからない。ただ、コレかなという思い当たる節がないわけではない。ただコレだとすると、「落ちこぼれ」の切り捨てにも思えるのだが、気のせいだろうか。「落ちこぼれ」問題は、深刻過ぎて諦めたのだろうか。

さて、高校募集停止の要点を整理しておく。

・都立中高一貫校の併設型は高校募集を停止する。
・高校募集の停止時期は未公表。
・中学募集の人数を拡大させる。
・中学募集の拡大人数と拡大時期は未公表。
・高校募集停止後、クラス数調整のために、高校生募集を暫定継続することはない。
・3年制高校に戻る中高一貫校はない。
・高校募集を停止する併設型中高一貫校のすべてで、中学募集定員を拡大させるかは未発表。
・高校募集を停止する併設型中高一貫校が、同一年度に中学募集の拡大を実施するかは未発表。

尚、当局の正式発表でも正式見解でもなく、独自調査によって現時点で入手できた情報をもとにした見解であることを付記しておく。

中学募集定員の拡大は、都立中への入学を熱望する受検生には、僅かではあっても朗報になろう。併設型5校で、それぞれ1クラス分募集定員を拡大すれば、中等教育学校1校分以上の定員増となり、都立中が1校増設されることと同じ意味がある。

ただし、合格出来るだけでよい、という考えでは、入学後に厳しい状況に陥る危険性があることも、忘れてはならない。中学募集定員の拡大は、そのリスクを拡大させる危険性があるのだ。