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三田学院

[2019年6月6日]

【閲覧注意】なぜ英語教育改革推進が花盛りなのか

閲覧注意でお願いする。気分を害しても自己責任でお願いしたい。

昨今、英語教育推進を謳う学校が多い。というより、ほとんどの私立中学では何らかのアピールをしている。公立中高一貫校も例外ではない。狂い咲きに近い状況の感が否めない。

大学入試改革で英語4技能試験化が提案されたことが表向きの理由には違いないが、それだけでここまの盛り上がりを説明するのには、いささか難がある。

新年度に入り、私立中学などの入試結果を調査していて、これぞ核心ではないかという見解に至った。

ある私立中学の入試担当者が、入試結果をもとに教科ごとの得点率と合否との関係を解析した。その結論は、「合否に有意に影響しているのは算数だけだ」というものだ。

ライバル校が次々に「算数入試」を導入しているが、おなじような入試結果を踏まえた判断であろう、とまで話していた。つまり、「算数入試」は的を射ているのである。

これは、都立高校トップ校の自校作成問題での得点率と合否の関係でも成立している。自校作成は数学・英語・国語の3教科になる。社会や理科はお呼びではない。そして、この自校作成教科の中で、合否を分けているのが数学である。

非常に興味深い。

あれ、論点は英語ではなかったのか、と思われるかもしれない。

大学入試において、合否のカギを握っているのは、英語と数学だ。あえて英語を先に書いた。国立大学医学部でも、難関国立大学でも、最難関私立大学でも、文系理系を問わず、英語と数学が試験科目に含まれるなら、ほぼ例外なく、英語と数学で合否が決まる。

では、国語や理科や社会は、零点でもいいのかという声が聞こえてきそうだが、そういう人は予選落ちであるから、ある程度合否を競える者どうしで、最終的に合否を分けるのが、英語と数学だという意味だと理解していただきたい。

「中学入試は社会で決まる」とかを宣伝文句にして荒稼ぎしている人がいるらしいが、科学的な根拠に欠けてはいないだろうか。中学入試の予選リーグなら、国語や理科と共に、社会もできた方がよいに決まっている。しかし、決勝リーグは、社会では勝てない。それが、私立中学の入試担当者が、握っているデータを解析して導き出された結論である。

算数・国語・理科・社会の4教科入試を行う私立中学入試では、算数の力で、ほぼ合格を勝ち取れそうな学校の難易度が決まる。ということは、それぞれの私立中学には、算数の力がほぼ均一な生徒が入学してくる。入学後にいくら数学に重点を置いた教育を行っても、学校全体としては、より難易度の高いライバル校に、大学進学実績で勝てない。ところが、算数以外は入学者の学力にバラツキがあるから、そこを底上げできれば、大学合格実績を改善させられる可能性がある。そこで、大学入試において合否のカギを握る、もう一つの教科である英語に、白羽の矢が向かうのだ。

もちろん、算数入試は4科入試に比べ、国語や理科や社会が苦手な受験生を合格させてしまうリスクがある。しかし、蓋を開けてみれば、算数しかできない子が合格する比率は高くないということだ。仮に、算数しかできない子が僅かに紛れ込んだとしても、算数入試の合格者の大多数がバランスの取れた子であれば、算数入試を行う意味は十分にある。

もし、極端に算数しかできない子が入学すれば、入学後の6年間で自然淘汰されてしまうリスクがあるから、そこは受験生の側でも、事前に慎重な判断した方が安全かもしれない。でも、4科で合格しても落ちこぼれる子がいるのだから、そこまで心配する必要はないであろう。

ステレオタイプな、あるいはミーハーな保護者は、「英語4技能対応はどうなっていますか」と、学校説明会などで学校側に聞きたがる。待ってましたと学校側もプレゼンを開始して、自校の魅力をアピールする。

一石二鳥とはこのことだ。

保護者の関心を引くことができ、大学合格実績も改善できる可能性がある。つまり英語教育の推進は、私立学校など入学者集めに必死にならざるを得ない学校にとって、両手に花になる可能性を秘めた劇薬なのである。

劇薬とは表現が過激ではないかと思われるかもしれない。英語教育の推進が劇薬になるのは、どこもかしこも英語教育を推進したら、結局は元の木阿弥になる危険性が高いからだ。難関大学入試は競争試験である。英語検定に合格していれば誰でも合格になる試験ではない。ただ競争が激化するだけで、大学合格実績は、最終的に、総合学力に収斂してしまう。

総合学力とは、数理統計学的な解析では、数学力と一致する。

ここまでの説明で、理解できる人は、理解できていると思うが、数学だけできれば学力が高いなどとは言っていない。4科すべてで限界まで学力を引き上げようと努力すると、その総合学力は、結果的に、数学の学力レベルに収斂するということだ。数学の学力だけを引き上げようとすれば、総合学力が向上するということでもない。誤解のないようにお願いしたい。

さて、どこもかしこも英語教育を推進すれば、初期の段階では、一早く取り組んだところが、目立った結果を残せる可能性がある。しかし、時の経過とともに、他に追いつかれて、差がなくなってしまう。いずれ受験生や保護者の厳しい目に耐えられなくなる。しかし、その時は、

また新しいネタで、保護者と受験生の心を惑わせればよい。

それまでは、英語教育を推進すれば、うまいメシが食える。

だから今、英語教育改革が花盛りなのである。

特に、算数や数学の教育を強力に推進していると謳えば難色を示しかねない女子生徒さんをお客さんとする女子校や共学校にとって、英語教育に関心が集まる現状は、まるでゴールド・ラッシュでも起きたかのような大騒ぎ状態である。しかも確信犯的な大騒ぎである。

学校側も、これがバブルであることを認識している。いずれ破裂するであろうことを知っている。ある女子校の担当者が胸の内を明かした。東大や難関国立大学は、実質今まで通りのところが多いし、最難関私立の一角も我関せずだ。でも英語教育を推進しているとアピールしないと、生徒集めでライバル校に負けてしまう、と。

男子校でさえ、英語教育推進を謳っているところがほとんどである。もはや英語教育は手垢がついた感が否めないが、中学受験を考え出した親子や、学校説明会に参加し始めた親子などは、地元公立学校などとは違う積極的なアピールと宣伝のうまさに、アッというまに虜になってしまう。

冷静で適切な比較検討が肝要である。

今や、どの私立学校も英語教育には力を入れている。力を入れてないとしたら、もう何を実施しても生徒が集まらないような、あきらめムードが強く漂う、超不人気校くらいであろう。プラス要因を打ち消してまだ余るような、深刻なマイナス要因を解消できない学校だ。

これからしばらくは、AIとビックデータの時代だから、次は、単なる理数サイエンス教育推進だけでなく、コンピュータ・プログラミングと統計解析などを具体的に売りにする学校が、注目されるかもしれない。また、新たなゴールド・ラッシュとなろう。

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流行りに翻弄されて、大切なことを見失わないようにしたいものだ。

「大騒ぎ」が「空騒ぎ」に、ならないように。