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三田学院

[2020年4月29日]

混乱の最中に、9月入学は適切か

突如スポットライトがあたり当たり始めたのが「9月入学」である。

新型コロナウィルス感染症拡大に伴う、学校臨時休校の長期化で、多くの都道府県知事が飛びつき、文部科学大臣や総理大臣まで言及し始めた。

しかし、教育現場における本来の問題が、どこにあるのかという議論がさっぱり盛り上がらない。日本の教育現場が、先進国としては、激しく、教育のICT化に送れていたのが最大の問題なのだ。しかし、そこを免責にして、国も文部科学省も都道府県も自治体も、責任逃れを正当化したいというのが、本心なのではないだろうか。

9月新入学のメリットはもちろんある。ここで改めて示すまでもない。しかし、デメリットも大きい。

まず、制度変更が間に合うかと言う問題がある。学校臨時休校の長期化への対応で、文部科学省も、都道府県教育委員会も、自治体の教育委員会も、学校現場も、そして子を持つご家庭も、対応に精一杯である。そんな最中に、急遽9月入学への変更がスムーズにできるであろうか。政策を発表してから、少なくとも数年かけて取り組むような重い課題である。

大学入試改革でさえ、直前になって迷走したぐらいだから、幼稚園から大学院までの全学年に影響するような制度変更を、たった数ヶ月で実行に移せるかどうか、大いに疑問である。

次に収入面である。社会にはばたく時期が約6ヶ月遅れる。当然に初任給をもらえる時期も遅れる。その間にも、生活費はもちろん教育費もかかる。負担するのは結局は児童生徒や学生とその保護者となる。ただでさえ、経済的な打撃が大きい中で、家計は耐えられるであろうか。

さらに社会における人手不足の深刻化が起る。医療現場や介護現場は恒常的に人手不足である。新卒約100万人の現場への配属が約6ヶ月遅れるだけで、深刻な人手不足による医療や介護のなどの崩壊が起りかねない。

だいたい、欧米の9月入学に合わせても、個人的に都合が良い人の比率は、今でも限られる。海外大学に進学したり、海外企業に就職したりする人以外は、さしたるメリットは実感できないであろう。

急な9月入学、9月新学年スタートで、いくらか気が休まるのは、大学受験を控えた高校3年生くらいではないだろうか。高校入試は完全に全入に突入して久しいから、9月入学にしても、実質的に大きなメリットがない。むしろ、約半年の空白期間が生じるデメリットの方が大きいだろう。

国や文部科学省や都道府県や自治体の、実質的な責任逃れに、まんまと騙されて、しかも踊らされて、差し引きで大損をするのは、実はアナタ、なのかもしれない。

よって、この議論は、もっと慎重に進めるべきだと、思う。

兵庫県の灘中高は、中学3年間の学習指導を、約1年で終える。多くの私立中高一貫校は、中学3年間の学習指導を、約2年で終える。

ICTを全面的に取り入れることに成功していた学習塾は、さしたる問題もなく、受験対策を継続して遂行できている。対応に右往左往しているのは、むしろ、教育のICT化に遅れた学校現場や、旧態依然とした考えに縛られた受験生親子ではないだろうか。

そんなことすら、しっかりと報道できない、国内の大手メディアの多くもまた、相当にマヌケなのである。

情報通信が発達した今だからこそ、適切に情報を発信したり入手したりできる「真の力」が、問われているのである。