[2020年5月3日]
9月入学を唱える都道府県知事は、熊本市のオンライン授業の取り組みから、学ぶべきだ。
熊本市は、すでに4月15日から、熊本市内全域の公立小中学校で、オンライン授業を開始している。
http://www.kumamoto-kmm.ed.jp/link/iinkai/online/
熊本地震の教訓を活かして準備を進めていたのであろう、どの自治体よりも一足早く実現に漕ぎつけた。
地方だからできるのだろうなどと思うなかれ、熊本市は政令指定都市である。大阪市などと格はおなじだ。大都市である。
PCの他にタブレットやスマホも使えるので、ネット環境格差が大きな問題とはなってはいない。
「授業支援アプリ」と「ネット会議ステム」の組合せなので、新たに大規模なシステム開発をする必要もない。
ICTとしては「ロー・テク」なので、提供する側も享受する側も、高いICTリテラシーは要求されない。
スマホなら、ほとんどの家庭にあるだろうし、新たに追加する場合でも、格安系のスマホなら、月額1,000円未満から入手できる。熊本市はPCやタブレットなどをもたない全家庭に貸し出しも行っている。しかし、貸し出しを行った家庭は3割程度未満にすぎない。学校で使用していたPCやタブレットで十分間に合い、新たに予算を組んで調達する必要はなかった。
どの自治体や学校も、これなら今すぐにでも開始できる。少なくとも「ネット会議ステム」なら、使い方を案内するだけで、すぐに始められる。
しかも、「ネット会議ステム」を使えば、先生とクラスの全生徒が、おなじ時間に顔を見合わせながら相互に会話ができる。児童生徒は自宅にこもって友達と会えずに一人で勉強することのストレスから解放される。教員は児童生徒の体調や心の調子を確認できる。
「授業支援アプリ」と「ネット会議ステム」の組合せだけでも、登校授業の代替ができないわけではない。
「ネット会議ステム」だけでは、始業や終業時のホームルーム程度のことしかできないが、「授業支援アプリ」に相当する領域を、工夫したり拡充したりすることで、より登校授業に近づけることができるはずだ。
もちろん十分な受験指導までは難しいだろう。しかし、これまでも受験指導は実質的に塾や予備校が受けもってきたのだから、いまさら建前や綺麗ごとは言わずに、今まで通りに対応すればよい。
感染症拡大の状況を見ながら分散登校へと徐々に移行し、現状のオンライン授業ではできない領域を、この分散登校で補っていけばよい。本格的な登校再開まではオンライン授業でできる領域を先き取りで進めて、登校再開後に残った領域をまとめて実施するなどの工夫をすれば、全体として挽回することもできなくはないだろう。
「9月入学」にしようが、新型感染症の拡大が収束していなければ、今まで通りの授業や行事などの実施は難しいのだから、実質的に何もしないような期間をあれこれ口実をつけて設けるより、できることからすぐに実行に移すのが賢明だろう。
予算の問題でも、能力の問題でも、準備の問題でもなく、実は心の壁の存在が、最大の障害となっているのではないだろうか。
それとも、単なる「教育音痴」が教育政策を考えたから、実は「半年遅れての9月入学」ではなく、先進諸外国から「実質1年遅れとなる9月入学」などという奇策が浮上したのであろうか。
公教育を実質半年近くストップさせ、諸外国から公教育で実質1年の遅れを取りような愚策を提言するような首長の下では、公教育はさらなるに劣化を免れられない。
政治家や活動家は、己の無能を隠すような画策をしたり、火事場の泥棒かのように衆愚の人気取りをしたりせず、もっと真摯に正面からこの課題に取り組むべきだ。
「9月入学」は、緊急事態だからと拙速な移行を目指すよりも、平時にしっかりと議論をしつくすべきだ。そして、これからの日本の教育のあるべき姿を問うことになるのだから、最後は「国民投票」を実施するくらいの覚悟で取り組むべきだ。
その際に、入学を半年遅れさせて先進諸外国から1年遅れの9月入学とするのがよいのか、入学を半年早めて先進諸外国と学年を合わせるのがよいのかも、しっかりと検討すればよい。