[2020年5月12日]
巷では、相変わらず「9月入学・9月新学年」の話題が続いているようだ。
そもそもの発端は、大学入試を控えた高校3年生の署名活動から始まった。
現高3は、大学入試改革に翻弄された上に、新型ウィルス感染症拡大に伴う学校臨時休校で、大学受験の準備への不安が最高潮に達した学年だ。心中穏やかでないのは理解できる。
ただ、来春の大学入試をどうするかと、「9月入学・9月新学年」をどうするかは、そもそも別次元の問題である。
現高3の大学受験への影響を最小限に抑えるだけであれは、「9月入学・9月新学年」の導入に固執する必要は全くない。現高3だけに特別な措置を講じるだけで、ほぼ対応は可能である。
国公立大学を念頭に考えてみる。
まず「大学入試新テスト」は、ほぼ「旧・センター試験」と同様の形式で実施すればよい。英語民間試験や国語の記述問題などを出題しなければよい。これだけでも不安は大きく解消するし、民間試験の受験機会の問題も解消する。
次に、一次試験は、出題範囲を高2までの範囲と限定すればよい。高3になってから初めて学ぶような単元や教科を原則として一次試験では課さないことにするのだ。これで、全国の高校生の多くは、学校臨時休校の影響の実質的に受けずに済む。
さらに、二次試験も高3の前半までの範囲を原則とするとすればよい。具体的には高3の6月くらいまでの範囲だ。ほとんどの進学校は、中高一貫校でなくても、高3の6月頃には高3の全範囲の学習を終える。つまり、高2の段階で、高3の6月までの範囲は授業を終えているはずで、実質的に影響がなくなる。
5月までの学校臨時休校の影響は、数学3、物理・化学(旧物理2・旧化学2)などで、一部範囲の授業が終わっていないことくらいではないだろうか。これも、6月から段階的に授業が再開されれば、秋口には解消する。
学校臨時休業で自宅学習を余儀なくされている受験生は、これまで授業を受けた範囲の徹底的な復に、この期間を充てることで、大学受験対策のかなりの不安は解消されるのではないだろうか。
具体的には、数学1Aと数学2Bを、一次試験はもちろん二次試験レベルまで完成させておくという作戦だ。
もうひとつの主要教科である英語は、文法や語法や構文などは高2で一通り授業は終わっているはずだ。全く新しく学習することはほとんど残っていないはずで、学校臨時休校期間中に、これも演習を積むことで受験対策を進めることができる。
学校授業が再開されたら、数学3や理科2などの一部の残り授業に集中して取り組めば、全体としての受験対策の遅れは解消できる。
もちろんこれは、一次試験や二次試験について、先に述べた配慮を前提としている。しかし、ほぼ配慮なしでも、受験生が、受験対策の取り組み順のスケジュールを、一部変更して最適化することで、概ね解消できる。
そもそも、度重なる学習指導要領の改訂で、数学3の一部範囲が、高校に行ったり、大学に行ったりを、過去に何度も繰り返している。大学入試の数学の出題範囲が一部変更になっても、大学の1年生の必須履修科目のシラバスの一部変更などで、柔軟に取り返すことも可能なはずだ。
これでも不安が解消できないというのであれば、少し大掛かりにはなるが、今年度だけの特例として、二次試験の中期日程や後期日程を、最大で3ヵ月程度の範囲で後ろ倒しして、受験機会の期間的な幅を設けてみてはどうだろうか。
多くの大学は「2学期制」を取っているので、後期授業の開始は10月頃となるが、筑波大学など一部の大学は「3学期制」を取っているので、一学期は6月頃に終わり、二学期の開始は7月頃、三学期の開始は11月頃となる。
来春から、7月や9月や10月や11月などの、年度の途中学期からの正式な入学も、もっと広く認めるようにすればよい。科目を絞った二次試験型の一般入試の他に、推薦入試や、AO入試を利用する手もある。高校卒業後から正式入学までのタイムラグ期間は、聴講生として履修できるようにすれば、単位不足などの問題も解消する。
何も、大学全体を「9月入学・9月新学年」に、一度に完全に変更する必要はない。卒業も春に限定せず、学期ごとに卒業を認めればよい。これはほとんどの大学で制度的にすでにあると思う。実業界が通年採用を本格化させれば、卒業問題も解消する。
中学入試と高校入試が残るが、まず、高校入試は大学入試で述べた配慮を準用すればよい。つまり中3の1学期程度の範囲までを中心に出題するとすれば解決する。高校入学後に、中3後半の範囲の復習を実施しなければならないかもしれないが、そもそも進学校でなければ、中学範囲を完全に理解した生徒が入学してくるわけではなく、なにがしらの復習をしながら高校課程に進んでいくはずだから、たいした混乱もなかろう。
中学入試であるが、大都市中心に受験生が多い、全国の中学入試のほとんどを占める私立中学の入試は、そもそも小学校の学習指導要領の範囲を著しく逸脱しており、小学校の授業など初めからあてにしていない。学校臨時休校よりも、塾のオンライン化の遅れの影響の方が圧倒的に大きい。よって学校の「9月入学・9月新学年」は、そもそも関係のない問題だ。
公立中高一貫校の適性検査では、知識や技能を直接問うような出題は、しないことが原則となっているので、夏ごろに佳境を迎えるであろう入試問題の作問の際に、小6の範囲、特に小6後半の範囲に直接関わるような出題を見送るように通達を出せば済む話だ。しかも、受検資格が都道府県や自治体ごとになり、学校臨時休校期間の長短が通学小学校でばらつかないから、受検生の有利不利には影響がない。小学校では受検指導はしないから、学校の臨時休業期間の長さは、入試結果に直接は影響しないはずだ。
いずれにせよ、小学校授業の数ヶ月程度の積み残しなど、その後の6年で、何とでもなる。
新型コロナウィルス感染症拡大の長期化のタイミングで、「9月入学・9月新学年」への移行するなどという、社会的に大きな痛みを伴い、莫大なコストがかかるようなことを、わざわざしなくてもよい。
「9月入学・9月新学年」は、時間をかけてしっかりと議論をしつくし、社会的なコンセンサスが形成できてから、制度設計を精緻に行い、十分な年数をかけて、負担が一部の学年などに偏らないように配慮しつつ、取り組むべきだ。
さもなくば、大失敗しかねない。
だれが責任を取るのか?
だれに責任が取れるのか?