パソコン版を見る

三田学院

[2020年6月16日]

【都立高】出題範囲一部除外の落とし穴

6月11日、東京都教育委員会は、令和3年度都立高校入試について、「臨時休業の実施等を踏まえた配慮事項」を発表した。

一般入試で、中3後半で学ぶ範囲の一部が除外される。

数学:三平方の定理、標本調査
英語:関係代名詞詞の一部
国語:中3教科書で学ぶ漢字
理科:力学的エネルギー、太陽系と惑星など
社会:経済や政府など公民分野の一部

出題範囲の除外を聞いて、どう感じたかで、その人の、これまでの取組姿勢が、明らかになる。

残念だと思った人には、これまでしっかりと勉学に励んできた人が多いであろう。
嬉しいと思った人には、これまでの己の勉学に甘さがあった人が多いであろう。

都立高校受験で、出題範囲に除外する内容を設けることで、何が起こるだろうか。

都立高校受験生は、もはや、除外された内容を、中学生のうちに真剣に勉強することはなくなるだろう。

これは、東京都の教育委員会自らが、「コロナ世代」を創り出すような行為をすることに、等しいのではないか。

この「コロナ世代」は、中3学習内容の理解が甘いまま、高校生活を送り、大学受験をし、社会に出て行くことになる。

私立中学などでは、「コロナ世代」であっても、例年通りに、三平方の定理や、関係代名詞や、中3教科書漢字や、経済や、力学エネルギーなどを、中学生のうちにしっかり学ぶ。しかし、都立高校を受験する「コロナ世代」の地元公立中学生は、中学生のうちに、三平方の定理や関係代名詞などをしっかりとは勉強しない。卒業まで全く何もしない学校も出てくるかもしれない。

これが、どれほど危険なことか、考えてみただろうか。

まず、進学先の高校で、どれだけ補ってもらえるかが、怪しい。実質すっぽりヌケてしまう人たちも、でてくるかもしれない。中学募集もある高校などは危ない。高校から他府県の高校に進む場合も危ない。個別の事情に配慮して、本気で個別の生徒の面倒を見てくれるだろうか。

学校は集団で学習指導をすることを前提としている。
学校は個別では学習指導をしない(できない)所だ。

出題範囲の除外は、都立高校に対してのもので、特に「共通問題」を想定したものと思われる。東京都教育委員会による、出題範囲の一部除外による配慮要請は、都立学校に向けてのもであることが、報道資料で確認できる。

よって、私立高校進学校などは、高校受験の入試問題で、どこまで除外に追従するか不透明だ。

「難関都立高校(一般入試)」を受験する学力上位層は、私立難関高校(一般入試)も受験するだろうから、結局例年通りの受験対策をしておかなければならない。よって実質的な影響はない。

「難関私立高校」や「難関国立大学附属高校」を一般受験する学力上位層の受験生は、ほぼ例年通りに準備するのが安全だし、報道発表後もそうしていると思われる。

「都立高校中堅校以下」と「私立高校併願優遇校」で受験する受験生は、関係代名詞や三平方の定理から得点できなくても、もともと、どちらからも合格を獲れていたから、これも実質的に影響がない。

あえて言えば、「都立高校共通問題上位校」と「私立高校併願優遇校」を受験する層は、闘い方の変化に注意が必要となる。三平方の定理に関連する配点はほぼ隔年で10〜20点程度あり、これが別の問題に代わる。力学的エネルギーもほぼ隔年で 配点が12〜16点程度あり、これが別の問題に代わる。

「都立高校共通問題上位校」の5教科試験の合否ラインは全教科平均で90%以上だから、除外で代わった問題も解けなければ不合格になる。

代わりに出題されるであろう問題は、過去問を過去にさかのぼって調べれば、自ずと浮かび上がる。つまり除外されたとおなじ出題になっている別の年度の問題で90%以上取れなければ合格はない。よって求められる学力到達度は、除外後も同じということだ。

出題範囲の一部除外は、都立高校を一般受験する学力中位層以下の負担を、気分的に軽減するかもしれない。しかし、競争試験であるから、残った出題範囲の対策を例年以上に強化しなければ勝てなくなるので、実質的には受験生の負担が大きく軽減されることはない。

出題範囲の一部除外は、「格差」を救済するかのように見えて、実は「格差」を拡大させることに、つながりかねない。

公立高校入試は、都道府県単位で入試が行われる。同じ都道府県の地元公立中学生なら、臨時休校期間は誰でも同じだから、出題範囲が昨年までと同じでも、受験において、有利も不利も発生しない。

出題範囲の一部除外は、年間授業を終えられない「学校を救済する」ことにはなるが、「受験生を救済するとは限らない」。

むしろ、昨年までの過去問がそのまま利用できないなど、真面目に取り組んでいる受験生ほど、余計な負担がかかることになる。

まあ、「ガス抜き」が必要だった人は、これでスッキリした気になるがいいかもしれない。

しかし、がっかりした人は、いつもとは違う頑張りになることを、一刻も早く覚悟して、いつもとは違う競争に、取り組むしかない。

出題範囲が一部場外されても、受験は「競争試験」であるのだから、受験勉強が楽になるわけではない。

それが理解できない受験生は、それを理解できる受験生に、勝てるはずがない。

それが理解できただけの受験生は、受験対策を適切に遂行できる受験生に、勝てるはずがない。